陸上・駅伝

連載:M高史の陸上まるかじり

九電工は男子部、女子部とも駒澤大学OBが監督に! 大八木弘明監督の情熱を心に秘め

九電工陸上競技部、女子部の井手貴教監督(左)と男子部の髙井和治監督(右)にお話を伺いました(すべて撮影・M高史)

今回の「M高史の陸上まるかじり」は九電工陸上競技部のお話です。男子部の髙井和治監督、女子部の井手貴教監督はともに駒澤大学OBで、大八木弘明監督(現・駒澤大学陸上競技部総監督)の教え子です。実業団で男女とも駒大OBが監督ということで早速、伺ってきました。

M高史にとって同級生と先輩のお二人

私、M高史にとっても学生時代をご一緒したご縁です。髙井和治さんは同級生。井手貴教さんは一つ上の先輩でした。

髙井和治さんは佐賀県出身で、白石高校時代には全国高校駅伝4区で当時の区間新記録を樹立。駒澤大学では全日本大学駅伝3区区間賞。箱根駅伝では4年生で4区3位。九電工では14年間の現役生活を送られ、ニューイヤー駅伝6区区間賞(区間新)などの活躍をされました。独特のフォームから繰り出される、スピード感あふれる走りが魅力でしたね!

井手貴教さんは髙井さんの一つ先輩で佐賀県立有田工業高校出身。駒澤大学では箱根駅伝に2度出場し、3年生の時は3区を走ってチームの4連覇に貢献されました。九電工で9年間、選手として競技をされて、その後は社業を経て指導者の道へ。男子部のコーチを8年間務められた後、今年から女子部の監督に就任されました。

九電工といえば、男子部はパリオリンピックマラソン代表の赤﨑暁選手、東京オリンピックマラソン補欠の大塚祥平選手、さらには10マイル世界最高記録保持者でブダペスト世界選手権10000m5位のべナード・コエチ選手もいます。

女子部は主将の唐沢ゆり選手、副主将の逸木和香菜選手を中心に楽しみなチームです。今年、唐沢選手は全日本実業団ハーフマラソンで3位に入り表彰台に上がりました。逸木選手は日本選手権の10000mで9位に入っています。

男子部監督の髙井和治監督、女子部監督の井手貴教監督。駒大イズム、大八木監督のDNAを受け継いだお二人に、同じく大八木監督のご指導を受けてきたM高史がお話を伺いました。ここからは対談形式でお付き合いいただきます。

同じ佐賀県出身の井手監督(左)と髙井監督。駒澤大学、九電工と同じチームで過ごしてきました

学生時代、恩師の言葉で印象的だったことは?

M高史:学生の頃が懐かしいですね! 当時の思い出や恩師・大八木監督の言葉で印象的だったことなどはありますか?

髙井監督:大八木監督は常に「3位以内」と話されていたのが、指導者になった今でも私の中に根付いています。駅伝でもレースでも毎回上位にくることを大切にしています。

井手監督:優勝した3年目の箱根より、4年目の箱根が特に印象に残っています。タイム的には前年と同じくらいでしたが、(東海大学の)佐藤悠基選手が区間新(当時)で、前との差を広げられてしまって、チームとしても連覇を逃し、いい思い出がなかったのが4年目の箱根でした。箱根の4連覇も総合5位もどちらも経験しましたが、負けたことで良かったような気はします。今思うと、もし5連覇していたら、勘違いしていたかもしれないですね。また、その年は髙井監督が3年生の時で、箱根のメンバーから外れた時にものすごく悔しそうにしていたのが印象に残っています。当落線上の外れたメンバーの気持ちも汲(く)んで走らないと、と思って走りましたね。

髙井監督:駅伝では全日本大学駅伝の1年生と3年生の時が、印象に残っています。1年の時はトップでもらいましたが、2位に順位を落として、駅伝の難しさを感じました(結果は区間12位)。監督からスタート前に「落ち着いて入れ」と言われて、あまりよくわからなくて(笑)。2分55秒くらいでタイムをすごく気にしながら入ったら、走り方がわからなくなってしまって……。そこから長らく出られなくて、3年の全日本では区間賞を取れて、唯一走れた駅伝だったかなと。4年生の箱根前は故障明けで、なんとか滑り込んで(当時の最短区間の)4区を走ることができました。

M高史:あの時の4区は、大八木監督が心配するほど前半の入りが速かったものの、区間3位の力走でしたね!

学生時代の井手監督(中央)。3年生の箱根駅伝では3区を走って総合優勝に貢献

駒澤大学の転換期とは

M高史:お二人は同じ佐賀県出身ですが、高校時代のお互いの印象や意識されていたことなどはありましたか?

髙井監督:高校時代、ロードは井手さんが強かったです。高2の県駅伝で井手さんが1区で区間賞で、私は1分くらい負けました。

井手監督:逆にスピードではかなわなかったですね。(髙井監督は)大学の時は長い距離に適応するのに時間がかかりましたが、上級生になって走れていったので。ちょうど、宇賀地や高林たち(※)が入学してきて、スピードに移行するタイミングもよかったのかな。

(※宇賀地強さんは現・コニカミノルタ陸上競技部監督、高林祐介さんは現・立教大学陸上競技部男子駅伝監督)

M高史:そのあたりが駒澤大学にとって転換期でしたよね。

井手監督:私たちが学生の頃に、藤田敦史さん(現・駒澤大学陸上競技部監督)が拠点を移されて(当時は富士通所属)駒大でトレーニングをされていましたが、オーラがすごかったです。練習の時から近寄りがたいオーラを放たれていましたが、話すと気さくに声をかけてくださる方でした。

髙井監督:常にお手本がいる感じでしたね。

井手監督:前田さん(※)がコーチでいらっしゃったのも大きかったですね。

(※前田康弘さんは現・國學院大學陸上競技部監督)

M高史:そして、当時も今もだと思いますが、大八木監督は練習から熱かったですよね。

井手監督:大八木監督は下のチームの選手でも指導に手を抜かなかったのが、印象に残っています。Cチームの練習でもちゃんと見てらっしゃる。情熱があるからできるんだと思います。夏合宿の距離走でA、Bが午前中で、Cが午後にやる時でも、レギュラーに全然届かないような選手の練習もちゃんと車で伴走して見ていましたよね。

髙井監督:大学で最初の2年間は全然結果が出なくて、本当にやめたいと思った時もありました。それでも諦めずにできたのは大八木さんの言葉があったからでした。それで諦めないでやり切れました。結果はあまり良くはなかったですが、『どんなに壁にぶつかろうが諦めない』というのは実業団でも生きました。

学生時代の髙井監督(写真先頭)。独特のフォームからスピードあふれる走りが魅力でした

実業団での思い出深いレースは?

M高史:実業団に入ってからはいかがでしたか?

髙井監督:私はトラックが主戦場でした。社会人初戦の織田記念で5000m13分44秒12だったのですが、外国人選手についていって、ラスト1000mで前に出たら歓声が沸き上がったのをいまだに覚えています。

井手監督:私が印象に残っているのは入社1年目の九州実業団駅伝ですね。当時の九州実業団駅伝は山上りや山下りのような区間があって、私は山下りの区間を走ったのですが、部署の人たちが応援に来てくださったんです。こんなところにまで応援に来てくれるんだと驚きましたし、やっぱり頑張らなければと思いましたね。一緒に机を並べて仕事している方の応援は、すごくうれしかったです。あとは、初マラソンの時に寄せ書きをいただいたのもうれしかったですね。本当に職場の方が選手を応援してくださるんです。

M高史:そして、今では駒大OBのお二人が男子部、女子部それぞれの監督ですね。

髙井監督:引退してから2年間は社業に専念しまして、そのあと男子の監督に就任しました。今年で2年目です。現役時期が重なっていた選手もいるので、最初は監督と選手の間柄に戸惑ったところもありました。1年目は指導力不足を感じましたね。MGCで赤﨑が2位になった時に、人が出した結果でこんなに感動するんだと思いましたし、逆に今年のニューイヤー駅伝でうまくいかなかった時は悔しさを感じました。選手が走るということに感謝ですし、プレーヤーとは違ったいろんな感情を味わわせてもらってます。

選手の走りを見守る髙井監督

井手監督:8年間男子のコーチをして、今年から女子の監督になりました。男子コーチ時代の2022年にはべナード・コエチの指導も担当しました。とてもストイックで、練習をやりすぎてしまうタイプだったので、コントロールに気をつけながら指導していました。10000m26分台、甲佐10マイルで世界記録、ニューイヤー駅伝で区間賞の成績を残せたのですが、中でも甲佐10マイルは出場を決めた際から世界記録の更新を目標にトレーニングを進めて、レース本番で狙い通りに世界記録を更新できたので、私にとってもすごく思い出深いレースですね。

M高史:10マイルの世界最高記録は44分04秒で、なんと1km2分44秒ペース! とてつもないペースですよね。そして、井手さんは今年から女子部の監督ですね。

井手監督:選手の努力を近くで見ている分、走ってくれた時はうれしいです。結果が伴わなかった時も、選手と同じように悔しいですね。女子部の監督になって自分が決断しないといけない場面が増え、コーチのときとは違った責任の重さを日々感じます。

スタート前、選手に声をかける井手監督

「世界を目指せる選手を」「頼られる監督に」

M高史:いま大八木総監督に現場でお会いすると、どんな声をかけられますか?

井手監督:激励が多いですね。女子の監督になってからも気にかけていただいて、色々な話をしますね。

高井監督:私はなぜか、いつも『おいっ!』と笑顔で肩をボンっとたたかれます(笑)。本当に優しく激励の言葉をかけられます。監督になって一番最初に言われたのは「指導者だから選手を導いてやる立場。大変だけど頑張りなさい」という言葉でした。

取材に伺った日、合宿で不在だったメンバー以外の男子部の皆さんと現状打破!

M高史:将来的にはどんな指導者を目指していきたいですか?

井手監督:大八木監督のような情熱を持って、ですが接し方は大八木監督のマネはできませんので(笑)。情熱を内に秘めて、ゆくゆくは駅伝はもちろん、世界を目指せるような選手を指導していきたいです。

高井監督:まずは頼られる監督になることです。大八木さんのように情熱を持ち続けていきたいですね。

M高史:お二人の指導者としてのご活躍、これからも応援しています! 現状打破です!

取材日のポイント練習後、女子部の皆さんと現状打破!

M高史の陸上まるかじり

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