順天堂大学、国士舘大学の箱根駅伝5区候補も出場 富士山須走五合目競走をリポート!
今回の「M高史の陸上まるかじり」は6月9日に開催されました富士山須走五合目競走のお話です。第2回大会となった今大会は学生招待選手として順天堂大学から3人、国士舘大学から5人の選手が出場。11.8kmで高低差約1200mを駆け上るロードレースとして、箱根駅伝5区の山候補の選手たちも出場されました。M高史もゲストランナーとして、皆さんと一緒に登りの部に挑みました。
11.8kmで約1200m上る超過酷レース
スタート地点の「ふじあざみライン0kmポスト」ですでに標高が約800mあり、フィニッシュ地点の富士山須走五合目の標高は約2000m。登りの部は11.8kmで約1200m上ります。平均傾斜10%、最大傾斜22%という壁のような坂も待ち受けています。また、上ってきた道をそのまま下っていく往復の部・23.6kmというこれまた過酷な部門もあります。
ちなみに、毎年11月に箱根ターンパイクで開催されている激坂最速王決定戦は「仮想箱根5区」と呼ばれ、13.5kmで高低差981m。
どちらも激しい上り坂に挑むロードでのレースですね。富士山須走五合目競走は、まだ歴史は浅いですが、高低差約860mの箱根駅伝5区を見据えて、山候補の選手たちが腕試しならぬ、足試しをするレースになりました。
まずは往復の部が先にスタートして、登りの部が三つのウェーブに分かれてスタート。大学招待選手の皆さんは10時45分、一番後方の第3ウェーブからのスタートとなりました。M高史も一緒にスタートです。
スタート直後から学生選手たちが集団を形成。1km地点では直線が長いこともあり、まだ先頭集団が見えていたのですが、そこからはカーブも多く、一気に見えなくなりました。そのため、途中のレース展開や順位が全然わからなかったので、フィニッシュ後に選手の皆さんからお話を聞きました。
国士舘大学の後藤天馬選手が優勝
登りの部で優勝したのは、国士舘大学の後藤天馬選手(3年、浦和実業)で54分01秒。2位は同じく国士舘大学の凪恒之介選手(2年、倉敷)で55分29秒。3位には順天堂大学の神谷青輝選手(4年、大牟田)が55分54秒で続きました。
後藤選手は昨年11月の激坂最速王決定戦でも4位に入っていて、坂道系のレースで安定して上位に入ってきている選手です。昨年の激坂で優勝した国士舘大学当時4年の山本雷我選手は、今年の箱根駅伝5区で区間7位の好走。チームの順位を四つ上げました。山本選手が卒業された今年、新たな山候補としても注目です。
大学招待選手の中で唯一の大会経験者だった順天堂大の神谷選手は、前回の57分21秒から記録を1分以上、縮めてきました。
さて、M高史はといいますと、1時間07分29秒で先頭の後藤選手から13分以上も離されてしまいましたが、無事に完走。先月の東日本実業団選手権を故障で欠場し、治ってからジョグを始めて2週間。低酸素ジムのトレッドミルやバイク、下駄(げた)を使ったトレーニング、体幹強化など、今までの部活訪問や取材で勉強させていただいたことを駆使し、急ピッチで仕上げてきました。
直前の練習では調子も上がってきたので「これはなんとかいけるのでは」という自分自身への淡い期待もあったのですが……木っ端みじんに打ち砕かれました(笑)。まるで富士山から「そんなに甘くないよ」「ごまかしがきかないよ」と教えていただいているような感覚でしたね。改めて準備や継続の大切さ、コンディションを合わせることの難しさを感じましたね。
女子の部・優勝は「走る歯医者さん」
そして女子の部は、好士理恵子選手(旧姓・西原さん)が中盤でM高史を軽々と抜き去り、男子の中でも上位に入る1時間05分54秒の好タイムで優勝されました。以前、4years.でも取材させていただいた「走る歯医者さん」です。日本大学時代は歯学部の陸上部に所属しながら好記録で走っていたため、日本大学の駅伝部から誘われて関東大学女子駅伝に出場されました。歯医者さんをしながら走り続け、マラソンも2時間43分07秒の自己記録を持っていますし、毎年7月に開催されている富士登山競走でも優勝経験があります。
この大会は男子の学生招待選手でも、11.8kmでタイムが1時間を超えるようなきついコースです。平坦(へいたん)だったら1km3分を切って走る大学生の皆さんが、1km5分前後かかってしまう中、好士選手の1時間05分台というタイムは異次元でした。
レース後、好士選手は「学生時代から上りが好きでよく練習していました。今でも坂がとにかく好きでよく走っています。上りをやることによって筋力がつくので、自然とマラソンにもつながっています。直近では来月の富士登山競走山頂の部が目標です」と笑顔でお話しされました。
「山の職人」が生まれる流れも面白いですね!
6月開催の11.8kmで約1200m上る富士山須走五合目競走、11月開催の13.5kmで981m上る激坂最速王決定戦。どちらも僕自身が走ったり、学生選手や一般参加者の方のタイムを比較したりしていたところ、どちらも同じくらいのタイムになることに気がつきました。季節の違いや当日の気温、風などの気象条件、選手自身のコンディション、そもそもの走力なども含めて、もちろん誤差があり、あくまでも目安ではありますが。
同じくらいのタイムなら、今大会を54分01秒で優勝された国士舘大学の後藤天馬選手は、今年の激坂に再び挑めば、優勝争いに絡むと感じました。昨年の激坂を制した山本雷我選手の優勝タイムは54分11秒。単純な比較はできませんが、一つの目安にはなってきます。
トラックや平坦なロードでは目立たないけど、山ならば勝負できるという「上り坂自慢」「山職人」のような選手が登場するのが箱根駅伝5区の魅力でもあります。箱根本番は各校1人しか5区に挑めませんが、こうして上り坂のロードレースがあると、チャンスが広がりますし、他校の選手とも勝負できるのも貴重な機会です。
関東インカレ明けで全日本大学駅伝の地区選考会前という時期なので、チームとして出場が難しい場合もありますが、ひょっとしたら、次回以降は出場する大学も増えて、6月の富士山須走五合目競走、夏合宿を経て、11月の激坂最速王決定戦、そして箱根5区という流れで、「山の職人」のような選手が出てきても面白いなと個人的に感じました。
選手の皆さんとコースのキツさを分かち合いました
レース後、選手の皆さんにもお話を伺いました。同じコースを僕も走らせていただきましたので、レースやコースのキツさを分かち合い、五合目で帰りのバスを待ちながら、お話しさせていただきました。
まずは順天堂大学の3選手です。
神谷青輝選手(4年、大牟田)3位、55分54秒
「箱根5区を考えた時、かなりタフなコースでしたので、練習の一環という位置付けでの出場でした。今井(正人)さんからは『上りを上りと思わないように』と言われています。『上りだから構えるのではなくて、平地の走りと変わらないという意識でやるように』と言われているので、そういうところも意識して走っています。チームとしては箱根予選会からになるので、予選会はあくまでも通過点としてトップ通過を目指し、箱根本戦を見据えています。個人では箱根5区でしっかり上位に入ってチームに貢献するのが目標です」
浦野恭成選手(1年、富山商業)6位、59分12秒
「今井さんから『楽しんで走って』というアドバイスをいただきました。こういうコースを走れる機会も少ないですし、良い経験になりました。大学に入学してから大きなケガもなく順調に練習を積めています。夏合宿もあるので、しっかり走り込んで秋につなげていきたいですし、少しずつでも先輩との差を縮めていきたいです。箱根では5区を走りたいと思っているので、まずはトラックで5000m、10000mのタイムを出していって、ハーフでも基礎的な走りを身につけていって5区につなげていきたいです」
須田光星選手(2年、浜松日体)7位、60分31秒
「かなりタフなコースでしたが、楽しみながら走れました。今回、山を経験したので、平地に戻った時に練習でも試合でも、キツいところでさらに粘れるようにしたいです。粘る感覚を少しつかめたと思います。5000m、10000mでもベスト更新して、ハーフマラソンでも63分切りを目指していけたらと思っています」
続いて国士舘大学の皆さんにもお話を伺いました。
添田正美コーチ
「昨年5区を走った山本が卒業しましたので、山の候補として5人の選手が出場しました。平地ではまだ力がないものの、上りだと良い走りをする選手もいます。優勝した後藤は昨年の激坂でも4位に入っていて、適性はあるのかなと思っています。チームとしては箱根でのシード権獲得を目標にしているので、しっかり山の準備もしていきたいと思います」
後藤天馬選手(3年、浦和実業)優勝、54分01秒
「今まで色々な坂の大会に出てきましたが、一番キツかったです(笑)。最後、54分を切れなかったのが甘さですし、課題ができました。坂は得意なので、箱根を狙っていきたいです。山本先輩の後釜としてしっかり走れるように頑張っていきたいです」
凪恒之介選手(2年、倉敷)2位、55分29秒
「坂は得意ですが、思った以上にキツいコースでした。中だるみしてしまったのが課題で、後藤先輩を意識していましたが、1分半ほどあけられたのでそこが悔しかったです。チームとして箱根シード権が目標なので、チームに貢献できる選手になりたいです」
佐藤佑紀選手(2年、大船渡)4位、56分59秒
「キツかったですね。後半もどんどん傾斜がキツくなるコースでした。上りは好きですが、まだ平地の力が足りないです。ハーフマラソンでもしっかり走れないと山でも勝負できなので、まずはハーフで63分台を目標にして、箱根でも5区を走りたいです」
また、ゲストランナーとして参加ランナーの皆さんに声をかけ、笑顔でお出迎えをされて大会を盛り上げていたのが、萩原歩美さんです。実業団時代はアジア大会10000m銅メダルなどのご活躍をされ、2021年に現役を引退。現在はさまざまな陸上競技を盛り上げ、応援する活動をされています。
大会終了後、萩原さんは「現役時代でもこんなにキツいコースは走ったことがないです(笑)。走り終わった皆さんがとても良い表情をされていて『来年もまた出るよ!』と言ってくださって、良い大会だなと思いました。現役の時はスタッフさん、ファンの方に支えられて競技を続けられてきたと思っているので、その恩返しや還元していくような気持ちでいます。今度は私が皆さんのことを応援し、一人でも多くの方に笑顔になっていただけけるように背中を押せたらと日々思っています」とレースの感想から、現在そして今後の活動についてまで教えていただきました。
というわけで、学生から多くの坂好きランナーさんまでが挑まれた富士山須走五合目競走のリポートでした!