陸上・駅伝

連載:M高史の陸上まるかじり

箱根駅伝の「仮想5区」 激坂最速王決定戦を実際に走って、現状打破してきました!

激坂最速王決定戦、登りの部には箱根5区候補の選手たちが集まりました!(写真提供・激坂最速王決定戦大会事務局)

今回の「M高史の陸上まるかじり」は、激坂最速王決定戦2022のお話です。箱根5区候補の選手たちも多数出場したレースを、実際に走ってリポートします!

箱根5区を見据え、山登り候補選手が集結

激坂最速王決定戦は、アネスト岩田ターンパイク箱根の特設コースで行われる大会で、今年で5回目。登りの部13.5km(山道最速王決定戦)、ピストンの部27.0km、ウォーキングの部13.5kmに加えて、今年から下りの部13.5km、Wピストンの部54.0kmが新設。普段は車やバイクでしか通ることができない有料道路を走る特別なレースです。

OTTから激坂最速王決定戦まで 法政大OB・川北順之さんの陸上界への恩返し!

貴重なロードの登り坂レースということもあり、学生選手も出場しています。過去の大会でも、この激坂最速王決定戦から箱根駅伝5区で好走する選手が続き「仮想5区」とも呼ばれます。

コースは片道13.5kmで、高低差981mを駆け上ります。(箱根駅伝5区の高低差は864m)箱根駅伝5区の箱根湯本から最高点までの部分を切り取ったような、箱根5区中間走のイメージです。

「仮想5区」ということもあり、各大学の山候補や登りが得意な選手が集結。駒澤大学、創価大学、東京国際大学、城西大学、立教大学、専修大学、国士舘大学、駿河台大学、亜細亜大学といった大学の皆さんが出場しました。

スタートから急勾配に挑んでいく選手の皆さん(写真提供・駒澤大学陸上競技部)

実際に走ってみると、スタート直後からいきなり傾斜10%の坂が続く先制パンチ(笑)。その後もキツい坂が続きますが、登り一辺倒というのではなく、レースの後半には何カ所か下っている部分もあるため、登りモードから下りモードへ走りの切り替え、5区でいうと最高点手前の「登って下ってもう一度登ってから下っていく」あのあたりの切り替えの練習にもなるのではないかと思いました。ただレース中は、そんなことを考える余裕はいっさいないほどキツく、終わってこの記事を書きながらそう感じました(笑)

城西大学の選手がワンツーフィニッシュ!

学生招待の部では、前半から城西大学の山本唯翔選手(3年、開志国際)が先頭。山本選手は前々回の箱根5区で、当時1年生ながら区間6位で走るなど山でも実績のある選手です。そこからレース後半には同じく城西大学の斎藤将也選手(1年、敦賀気比)が山本選手を逆転し、逆に約1分もの差をつけて、斎藤選手が51分50秒の好タイムで優勝を飾りました。斎藤選手は高校時代に都大路1区を区間11位で走り、大学入学後も5000m13分53秒14、10000mも28分37秒90とトラックでも力を伸ばしています。坂道でも力を発揮しました。

城西大学の1年生・斎藤将也選手が51分台の好タイムで優勝!(写真提供・激坂最速王決定戦大会事務局)

ちなみに、過去にこのコースで51分台で走ったのは神野大地選手(セルソース)のみ(51分02秒)。学生選手では過去最高タイムとなりました。この日、招待選手で走られた神野大地選手も、斎藤選手がもし箱根5区を走ったら「1時間10分30秒前後で走れるのでは」と太鼓判を押しました。

2位は途中まで先頭を走った城西大の山本選手で、52分49秒。3位には52分51秒で駒澤大学・宮城珠良(しゅら)選手(2年、花咲徳栄)が入りました。

途中まで先頭ひた走り、2位となった城西大学の山本唯翔選手(写真提供・河原井司さん)

さて、私、M高史はと言いますと、他の招待選手の皆さんと一緒に、スタート地点で選手の皆さんをお見送りしてから、最終第6ウェーブからのスタート(今大会は5分おきにウェーブスタート)。1時間08分11秒で総合40位(30歳代の部・年代別8位)で完走しました。この記録は、1km平均5分03秒ペースになります。

ちなみに優勝した城西大の斎藤選手は、1km平均3分50秒!

13.5kmで高低差981mという急勾配をこのペースで刻んでいるとは驚きです。僕のペースで走ると、斎藤選手とは1kmを走るたびに1分以上も差がついてしまいます(笑)。もう異次元な世界ですね!

私、M高史も激坂に挑みました!(写真提供・河原井司さん)

今回、3位に入った駒澤大の宮城選手はレース後「集団の前でレースを進め、学生トップを目指していました。結果的に3位となりましたが、登りの適正を見せられた点は良かったと思います。また、初めての登りでしたが、今後の走り方に生きると思います。(今後の目標は)箱根駅伝で5区を走って、チームの三冠を大きく決定づける走りをしたいです!」と力強くコメントされました。

また宮城選手の走りについて、駒澤大の大八木弘明監督は「(宮城選手は)登りが結構強くて、夏合宿でも登り坂でいい感じで走っていました。ウチの山登り候補が何人かいる中で、その選手たちとも面白い勝負をしそうだなと思います」と期待を込めてお話されました。山の候補選手の中から本番で誰が走るのかにも注目ですね!

3位に入った駒澤大学の宮城珠良選手(写真提供・河原井司さん)

神野大地さん、三津家貴也さんも登りに挑戦

招待選手で走られた皆さんにも、お話を伺いました。

まずは3代目・山の神でもおなじみの神野大地選手。昨年は51分02秒のコースレコードを樹立し、マラソンでMGC出場権も獲得しています。今年はけが明けからの練習の一環ということで、最後尾からスタートして54分18秒で走られました。神野選手と一緒にスタートしたM高史でしたが、神野選手が速すぎて、スタートして数百mでもう見えなくなりました(笑)

「自分の状態を上げるいい練習ができました。あらためて登りはきついなと思いました。(学生選手へ向けて)やっぱりこういう登りは、自分の限界を超えないギリギリのラインで走る能力をつけることが大事ですし、坂を走ることで力を身につけられると思います。(今後の目標について)僕はパリ五輪を目指してやっているので、MGCで出場権を取れるように頑張りたいと思います」と、登り坂を駆け上がるように力強くお話しされました。

最後尾からスタートした神野大地選手は軽快な走りで激坂を駆け上りました(写真提供・激坂最速王決定戦大会事務局)

続いて、三津家貴也さんです。筑波大学のOBで中距離選手として活躍し、現在はランニングインフルエンサーとして大人気の三津家さんも激坂に挑まれ、1時間16分02秒で走り切りました。

「めっちゃキツかったです。普段、平地ばっかり走っていることもあって、地獄を見ました(笑)。(学生選手へ向けて)夢に向かってやっていて、もちろんタイムを極めていくのも重要だと思いますが、ランニングを楽しみ続けることがタイムを伸ばしていく一つのきっかけになると思うので、つらいこと、きついこともあると思いますが、どこかで楽しむ気持ちを忘れないでほしいです。(今後の目標について)ランニングをより多くの人に伝えて『かっこいい』『オシャレ』『楽しい』というポジティブなイメージにしていく活動をどんどんやっていきたいです!」

ちなみに三津家さんは、登りはキツかったとお話しされながら、翌日にはフルマラソンを走って自己記録を更新。中距離出身とは思えないタフなスケジュールも、笑顔で挑戦されました!

筑波大OBの三津家貴也さん 陸上界を盛り上げるタレントへ転身!
ランニングインフルエンサーとして大人気の三津家貴也さんも激坂に挑みました!(写真提供・河原井司さん)

野村俊輔さん、大村一さんも!

中央大学OBの野村俊輔さんは、下りの部に出場しました。4年連続で箱根6区を走り、1年生で区間3位、2年生からは3年連続で区間賞を獲得。「ノムシュン」の愛称で、多くの駅伝ファンの方を魅了しました。

1月で40歳になる野村さん。18年ぶりの下り坂レースに出場ということで「とにかくけがをしないこと」を心がけてスタートを切られたそうです。現役引退後は社業に専念しながら走られていて、普段の練習は朝練習のみ。お子さんたちが起きてくる前しか時間を作ることができないため朝5時、時には朝4時から走られています!

下り坂のコツは「前に体重をかけていくこと」という野村さん。今大会では、前半は余裕のあるペースで入り、9km以降はギアチェンジ。ラスト5kmを13分台、ラストは1km2分30秒台までペースを上げて、13.5kmを39分43秒、総合3位(30歳代の部・年代別1位)で戻ってこられました。

野村さんの現役時代にはなかった厚底カーボンシューズも初めて体験。レース中の足への負担も違ったようで「現役時代に履いてみたかったですね(笑)」とシューズの進化を実感されたそうです。ただ翌日は、大学4年の箱根以来18年ぶりの感覚とのことで「全身筋肉痛で、歩き、階段の上り下り、座ること、寝返りまで全部がキツい」というほどの激走でした。

中央大で箱根駅伝6区3年連続区間賞の野村俊輔さん! 陸上大好き営業マンの第二の夢
18年ぶりの下り坂レースに挑んだ野村俊輔さん。ラストに追い込み総合3位(写真提供・河原井司さん)

法政大学OBの大村一さん。第77回箱根駅伝では、中継車が揺れるほど強烈な向かい風の中、先頭で受けた襷(たすき)を死守すべく、当時の中央大学・藤原正和さん(現・中央大学駅伝監督)、当時の順天堂大学・奥田真一郎さんの猛追を受けながらも大接戦。記録より記憶に残る山の死闘をしたことでも、多くの駅伝ファンから愛されています。

あれから20年が過ぎても、リズミカルな腕振りで力強くピッチを刻む走りは、当時を彷彿(ほうふつ)させます。大村さんは往復の部ですれ違う選手に声をかけながら、粘りとガッツの走りで1時間08分33秒。40歳代の部・年代別4位で走破されました。

さらに大村さんのすごさは帰り道。招待選手は車でスタート地点まで戻るのに、大村さんは全力を出し切った後にもかかわらず、走ってきた道をジョグで走って帰られました。長野県の起伏を走り込んでこられた大村さんの心身の強さを感じました。

法政大学時代に箱根5区で激走を見せた大村一さん。今年も激坂に挑まれました!(写真提供・激坂最速王決定戦大会事務局)

実はスタート前に大村さんと「帰りは走って戻りたいですね!」と話していたのに、僕は13.5kmで全力を出し切った後は、足がプルプル(笑)。走って帰れず、大村さんに申し訳ない気持ちで車に乗りました。皆さんに「現状打破!」と言っていたのに、そこは打破できず……。来年はさらに走力もスタミナもつけて、走って帰れるくらいになりたいですね(笑)

ピストンの部、Wピストンの部を走られた方の体はどうなってるんだと不思議に思うほど、坂を愛する鉄人の皆さんがたくさんいらっしゃるんだなと感じました。

というわけで今回は、箱根駅伝山候補の選手が火花を散らし、たくさんの市民ランナーさんも山に挑まれた激坂最速王決定戦を、実際に走ってリポートしました。

M高史の陸上まるかじり

in Additionあわせて読みたい