陸上・駅伝

連載:M高史の陸上まるかじり

富士山須走五合目競走に順天堂大や亜細亜大の山候補も! 超過酷レースを走ってみた

第1回富士山須走五合目競走、登りの部のスタート。順天堂大学の選手たちも出場しました(写真・大会事務局)

今回の「M高史の陸上まるかじり」は6月12日に開催された第1回富士山須走五合目競走のお話です。順天堂大学から3選手が登りの部にゲスト出場。亜細亜大学からは10選手が往復の部に出場。東洋大OBで箱根駅伝5区経験者の五郎谷俊(ごろうたに・しゅん)選手も招待選手で走られていました。M高史も往復の部に挑戦! 取材&出走リポートさせていただきます。

高低差1200m! 最大傾斜22%の難コース

スタートの「ふじあざみライン0kmポスト」は標高約800m。片道は11.8kmで富士山須走五合目の標高約2000mまで約1200m上ります。傾斜は平均で10%、最もキツい箇所は22%もあるそうです! ちなみに箱根駅伝の5区(20.8km)の標高差は約860mです。もちろんペースは全然違うので比較はできませんが、傾斜だけでいうとかなりキツいコースですね。コースは全行程ロードなので、いわゆるトレイルやスカイランニングのように不整地を走るわけではありません。

登りの部は五合目がフィニッシュ。往復の部は五合目まで行って、スタート地点まで駆け下っていく23.6kmの道のり。帰りは天然のジェットコースターのような過酷なコースです! お天気が心配されましたが、前日の夜は雨だったものの当日の早朝には雨もやみ、レースの時間帯は晴れ間も見えるコンディションとなりました。

順天堂大学から3選手が出場

朝、会場でウォーミングアップをしていたところ、順天堂大学の長門俊介監督にお会いしました。前日、大阪・長居陸上競技場で開催された日本選手権で三浦龍司選手(3年、洛南)が3000mSCで世界陸上内定を決める快走をしたばかりでしたが、翌朝には富士山にいるなんて、長門監督のタフさにも脱帽です。

まずは三浦選手について長門監督にお話をうかがいました。「(三浦選手について)雨でしたし、とにかくケガなく終わってもらえたらと思っていました。本人もレースの中で課題を持っていて、また課題も見つかったようです。世界選手権に向けて、東京オリンピックで入賞しているので周りはメダルをという雰囲気もありますが、メダルはパリでかなえることで、まずは入賞をと思っています。(東京オリンピックの)再現ができればですね」。三浦選手の活躍により他の選手たちへもだいぶ刺激になっているそうで、チームの充実ぶりも伝わってきました。

今後の目標について、「(前回の)箱根では準優勝ということで、学生たちは三冠と言っていますが、まずは箱根でしっかり結果を残していきたいです」と長門監督は謙虚に語られました。

今回のレースでは平駿介選手(4年、白石)、藤原優希選手(3年、水島工業)、神谷青輝選手(はるき、2年、大牟田)がゲストとして出場しました。平選手は今年の箱根駅伝で1区を走っています。

スタート前に参加ランナーの皆さんに挨拶をする(右から)順天堂大・平選手、神谷選手、藤原選手(写真・大会事務局)

「上りが得意な選手が3人走りました。平は教育実習に行っていたので脚力、心肺機能を戻す意味合いでも出場しました。神谷は昨年の激坂王(11月の激坂最速王決定戦)でもまぁまぁ良かったので。箱根と比較が難しいですが、坂の傾斜と酸素の薄さに負けないように心肺機能を追い込む意味合いで練習の一環での出場ですね」と、長門監督は出場の意図を明かしてくれました。

順天堂大勢では神谷選手がトップ。昨年の激坂最速王決定戦に続いて好走しました(撮影・齋藤英明さん)

練習の一環での出場ということでタイムは参考程度になりますが、神谷選手が57分21秒、藤原選手が1時間00分12秒、平選手が1時間01分38秒という結果でした。

箱根準優勝メンバーの平選手。教育実習明けということでしたが、練習の一環で登りきりました(撮影・齋藤英明さん)

超過酷な往復の部を制したのは亜大・古川選手!

往復の部に10選手が出場したのは亜細亜大学。チームトップで総合でも優勝を飾ったのは古川大翔選手(たける、4年、盛岡大附属)で、記録は1時間30分55秒(往路57分47秒、復路33分08秒)でした。

往復の部で総合優勝を飾った古川選手。上りだけでなく下りの強さも発揮しました(写真・大会事務局)

レース後、佐藤信之監督にお話をうかがいました。「古川は元々上りが得意で、箱根なら5区を走るというシミュレーションも兼ねていました。下りも良かったので、そこは収穫でしたね。他の選手たちもいろいろな発見があって面白かったです。故障明けの選手もいたので、足に不安のある選手は下りは無理をせず出場しました。元々は箱根を想定して上りも下りも全力で思っていましたが、思いのほかコースがきつかったですね(笑)」。800mや3000mSCが得意だった古川選手は練習から上りが強く、練習でも淡々とこなすことができるそうです。

須走五合目の折り返しを走る古川選手。上りから先頭を独走。今後の活躍にも注目です!(写真・大会事務局)

古川選手をはじめ、この日出場した選手の皆さんも7月の日体大長距離競技会で一度5000mで記録を狙ってから、夏合宿に臨みます。「(箱根駅伝)予選会は強い大学がたくさんあるのですが、通るつもりでしっかりと練習を積んでいきます。今年は早め早めに力をつけていきたいですね」と、佐藤監督はチームの展望をお話されました。

箱根5区経験者・五郎谷選手も登場

東洋大OBで箱根5区経験者の五郎谷選手にもお話を伺いました。

「記念すべき第1回大会、青空のもとで久しぶりのレースを満喫させていただきました。このような素晴らしい大会を開催いただきました小山町の皆様、関係者の皆様に心から感謝申し上げます。日本一の富士山のコースは上りも下りも一筋縄ではいかない厳しさがありましたが、それを乗り越えた時の達成感、充実感は何ものにも代え難いものでした。私は走る時、大好きなレーシングカー(車)になったつもりで(イメージして)走るのですが、今回のコースはそれを考えて走る暇を与えないほどの歯ごたえでした(笑)。しかし、一筋縄ではいかない難コースゆえに、心身ともに最高に刺激が入ったので、私もこれからも走りで現状打破してまいります!」

東洋大OBで箱根5区経験者の五郎谷選手は往復の部に出場。序盤から素晴らしい走りを披露されました(撮影・齋藤英明さん)

五郎谷選手はスタート前の挨拶でエンジン音の音マネをご披露されるなど芸人顔負けの特技を披露され、スタート前にランナーの皆さんからも拍手が沸き起こり、大会を盛り上げられました!

山区間のあるあるを疑似体験!?

さて、私、M高史も往復の部を走らせていただきました。駒澤大学ではマネージャーでしたが、中学・高校時代は箱根駅伝の5区や6区などの山区間に憧れて陸上をやっていたので、実は今回の大会を走るのがとても楽しみでした(笑)。

傾斜やコースなどの条件は違うものの、上りっぱなし・下りっぱなしのコースを実際に走ることで、箱根駅伝の山区間の選手の気持ちをほんの少しでも疑似体験できればとワクワクでした! 山の経験者がよく話されることを「なるほど」と体感しながら前を目指します。

往復の部のスタート。M高史も皆さんと現状打破!(写真・大会事務局)

山はどうしてもカーブが多いため、前の選手が見えにくいのですが、見えてくると元気が出てくるという話をよく聞きますよね。平地と違って1km毎のタイムも傾斜によって変わるので、いいペースできているのか分かりにくいのですが、前にいる選手が見えてきたということは差を詰めているってことなのかな、と走りながら力が湧いてきます。

また、カーブが多いということでコースどりも重要とよく聞きますよね。コースの最短距離を攻めると特にカーブすると時に微妙に傾斜がキツくなります。コースの外側を淡々と走れば距離はその分長くなりますが、傾斜としては最短距離を攻めるよりも若干ですが緩くなります。ランナーとしては最短距離を突っ切っていきたいところですよね(笑)。このあたりのコースどりについても、山区間の選手や経験者にも細かくうかがってみたいなと思いました。

箱根の山に挑む選手たちの気持ちを少しでも共感できたらと思っていましたが、過酷なレースでした(撮影・齋藤英明さん)

五合目で折り返してからは急斜面を駆け下っていきます。走っていて足の裏が熱くなりました。まるで炎天下のアスファルトを裸足で走っているかのような熱さ(笑)。普段出さないようなスピードに摩擦で足の皮がめくれるのではないかと思いましたね(汗)。実際、箱根駅伝6区を走った選手は足のマメ、皮がめくれたりしますし、それだけで摩擦の激しさが伝わってきますが、対策や準備の大切さも感じました。

往復の部で2位に入った岩佐快斗さんも「前半の上りで傾斜も急だったのでふくらはぎも結構使ってしまったので、下りではふくらはぎがかなりきつく、心拍も前半の上りで追い込んでいた分、下りで内臓あたりがキツく感じました。上りからの下りはほんときついと思いました!」とお話されるほどでした。ちなみに岩佐さんは中央大学時代に3年連続箱根駅伝のエントリーメンバーに入り、市民ランナーとして走り続けています。

M高史は1時間49分46秒(往路1時間10分42秒、復路39分04秒)ということで優勝した亜細亜大学の古川選手から遅れること約19分でしたが、無事に帰ってこられました!

主催・運営は元日本記録保持者

大会の主催・運営として携わられていたのは、10000mとハーフマラソンの元日本記録保持者で世界陸上代表経験もある片岡純子さん。リスタートランニングクラブのヘッドコーチをされていて、市民ランナーさんからトップ選手の気持ちまで寄り添った大会運営と準備をされてきました。「以前から須走で合宿をしていたこともありましたし、私自身、富士登山競走に出場していたこともあって、上りの大会っていいなと思っていて数年前から話には上がっていました。なかなか実現できなかったのですが、今回実現できて良かったです」と、スタート前には選手の皆さんへアスリート目線でのアドバイスもされるなどきめ細かい気配りが印象的でした。

世界陸上元日本代表の片岡純子さん(右)。中央はリスタートランニングクラブの石川哲行さん(写真・大会事務局)

フィニッシュされたランナーさんからは早くも第2回大会に向けての目標の話題も上がっているほど、キツいけど充実感満載のレースとなりました。翌日の筋肉痛はフルマラソン以上のものがありましたが(笑)。ボランティアで朝から1日中、大会をサポートしてくれた中学生にお話を聞いてみたところ、将来走ってみたいという嬉(うれ)しい感想もいただけました。魅力ある大会が増えて継続していくことで陸上やマラソンの裾野が広がっていくといいですね!

そして、今大会を経験した選手の中から箱根駅伝の山区間に出場する選手が登場するのか!? 楽しみですね。というわけで、今回は学生選手も出場した富士山須走五合目競走の出走・取材レポでした!

M高史の陸上まるかじり

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