陸上・駅伝

連載:M高史の陸上まるかじり

廃部を乗り越えた神戸学院大学が再び杜の都・富士山へ、地域に愛されるチーム作り

神戸学院大学女子駅伝競走部(エメラルドフェアリーズ)の皆さんに取材させていただきました(写真提供・すべて神戸学院大学女子駅伝競走部)

今回の「M高史の陸上まるかじり」は神戸学院大学女子駅伝競走部のお話です。神戸学院大学は陸上競技部時代に1995年に全日本大学女子駅伝(杜の都駅伝)に初出場し、2001年に女子駅伝競走部となってから全日本大学女子選抜駅伝(富士山女子駅伝)に出場してきました。

その後、部員が減って一時は廃部の危機もありましたが、2015年に大江秀和監督が就任、森田陽子副監督兼コンディショニングコーチとタッグを組んだ指導で復活をとげ、2015年と2019年に全日本大学女子駅伝出場。全日本大学女子選抜駅伝にも2019年、2020年と連続出場を果たしました。廃部の危機を乗り越えて、再び全国に挑む神戸学院大学さんを取材させていただきました。

廃部を危機を乗り越え、全日本に返り咲き

2001年に女子駅伝競走部が発足し、本格的な強化が始まった神戸学院大学。2003年と2006年には全日本大学女子駅伝で11位になりました。その後、監督が代わったり、他校の駅伝強化が進んだことなども重なり、部員も年々減少。2013年には部員6人という状況でした。最低6人以上いなければ駅伝の予選会に出場できず、大学からはこれ以上人数が少なくなったら廃部という話も上がるなど、チーム存続の危機がありました。

そんな2014年、神戸学院大学の選手もケアを担当していた森田陽子さん(現・副監督兼コンディショニングコーチ)が監督不在だった神戸学院大学の監督代行を務めることになりました。

選手のケアを行う森田陽子副監督兼コンディショニングコーチ

柔道整復師であり栄養士の資格も持っている森田さん。トレーナーとしても世界大学クロスカントリー日本代表チームに帯同し、女子団体優勝や男子団体準優勝をサポートされました。ただ、森田さんはケアに関しては豊富な経験があったものの当時は指導経験がなかったため、まわりの指導者の方に教えてもらいながら試行錯誤。そして、須磨友が丘高校(兵庫)で教員をしていた大江秀和先生に、大学から監督就任の打診がありました。

大江監督は洲本高校(兵庫)で9年、須磨友が丘高校で22年、指導されました。ハイレベルの兵庫県において、近畿高校駅伝には洲本高校で男子が4回、須磨友が丘高校では女子が15回、男子も6回出場しました。インターハイにも多くの出場者、入賞者を出すなど、高校の指導者として実績を積み上げられてきました。31年勤め上げた高校の教員を退職し、覚悟を持って監督に就任されました。

駅伝で戦える人数がいないところからスタートし、廃部の危機を乗り越え、大江監督就任1年目の2015年には全日本大学女子駅伝出場を果たしました。「特に地域の方、卒業生の方が喜んでくださいましたね」と大江監督。

選手の走りを見守る大江秀和監督(左)。今年で就任8年目になります

2015年の全日本大学女子駅伝出場時は応援人数も少なかったのですが、2019年出場時は大学関係者、保護者、同窓会、卒業生で100人を超える大応援団に。

競技だけではなく「地域と一体に」というテーマを掲げ、地域貢献活動にも積極的です。小学生が駅伝競走部の体験会でリレーに参加したり、総合型地域スポーツクラブでランニング教室を開催したり、走ることを通じて地域に還元する活動も行っています。森田副監督による親子マッサージからシニア世代向けの介護運動教室など兵庫県民、神戸市民への姿勢バランス講座にも選手たちがサポートで参加しています。

姿勢バランス講座にも選手がサポートで参加
駅伝競走部の体験会では小学生を招いてリレーも行いました

「地元に応援されて地元に愛されるチームに」という言葉の通り、地域貢献活動を通じて応援されるチーム作りを目指しています。そのため、大学関係者や卒業生だけでなく地域からも愛されるチームというのが、神戸学院大学女子駅伝競走部の魅力です。

チームの目標は杜の都と富士山の2つに出場

選手の皆さんにもお話を伺いました。

(左から)広内来幸主将と堀綾花副将

主将・広内来幸選手(ひろうち・きさち、4年、須磨学園)

兵庫県出身の広内選手、中学時代は1500mで4分38秒88と全中にわずか0秒88届かず。名門・須磨学園高校(兵庫)では駅伝のメンバーに入れず補欠止まりでした。大江監督が当時、須磨友が丘高校の教員をされていた頃から気にかけてくださっていたという中学からのご縁もあって神戸学院大学へ。 

1年生で出場した全日本大学女子駅伝では「初の全国大会に緊張しました。最初のトラックから離れてしまうという悔いが残るレースでした。富士山女子駅伝では自分の思っていた通りの走りで同級生と襷(たすき)をつなぐことができました」。1年生ながら杜の都、富士山と1区の大役を果たしました。

コロナ禍で環境も制限されたり、調子も上がらずに苦しい時期もあった中、「親の支え、心強いチームメートの声かけで乗り越えてくることができました」と感謝を口にされました。主将になってからは「最初は引っ張っていけるか心配がありましたが、後輩のみんながついてきてくれて、意見を言ってくれるので、主将になって良かったと思っています。今年の目標は全日本大学女子駅伝、富士山女子駅伝の両方に出場したいです。個人としては大学1年生の時に出した5000mのベスト16分25秒を更新したいです」と、主将としてチームを引っ張ります。

2019年に全日本大学女子駅伝で1区を走った主将の広内選手。3年ぶりの杜の都返り咲きに向けてチーム一丸で挑みます

副将・堀綾花選手(3年、日体大柏)

堀選手は6つ上の姉の影響で陸上を始めました。中学2年生のジュニアオリンピックに1500mで出場。愛知県出身の堀選手は高校から寮生活で日体大柏高校(千葉)へ。高校時代は3000mが9分30秒、5000mが16分37秒でした。

「1年の時はチームは都大路(全国高校駅伝)に出場しましたが補欠でした。2年になってからはケガが多く、大学でも陸上を続けられるとは思っていなかったのですが、高校の恩師から『まだ続けられる』と声をかけていただきました。神戸学院大学を見学して、先輩も優しく環境が良かったので、ここならやっていけると思いました」と進学理由を教えてくれました。

入寮してすぐにコロナ禍により緊急事態宣言など、大変な状況も先輩や同期と乗り越えてきました。初めての全国駅伝となった1年生の全日本大学女子選抜駅伝では「不安もありましたが、4年生からもらって4年生に渡すという区間だったので、最終学年の先輩とつなげて、感謝の気持ちでチームのために少しでも貢献できる走りをしよう思いました。ただ、全国で上には強い選手がいると実力も分かりました」と、全日本大学女子選抜駅伝では3区区間8位の走りで大学女子駅伝デビュー戦を飾りました。

関西インカレ1500m9位に入った堀副将(右)。駅伝での安定感は大江監督も太鼓判

3年生となった今年は副将を務め、「来年を見据えて(主将の)来幸さんからたくさんいいところを学んでいきたいです。今年のチームの目標は杜の都、富士山の2つに出場することです。個人では5000mで16分30秒切りを目指していきたいです」と堀選手。5月の関西インカレでは1500m予選で自己新をマークして組トップ。決勝でも9位と入賞まであと一歩と迫りました。

補強やクロカンでじっくり土台作り

お話をうかがった後には練習にも参加させていただきました。練習では走る前に補強トレーニングもみっちり。高校時代に実績のなかった選手たちも、しっかり土台作りを行うことで記録も伸ばしてきました。僕もご一緒させていただきましたが、もれなく筋肉痛になりました(笑)。こういった地道なトレーニングが走りにも生かされてくるんですね!

ジョグメンバーの皆さんは走る前にしっかり補強トレーニング。M高史も体験させていただきました!

その後は関西インカレ出場メンバーの練習もご一緒させていただきました。練習中にはジョグメンバーや練習を終えた選手たちからも応援の声が飛び、みんなでチームメートを応援し合う雰囲気の良さが伝わってきました。

取材日には不在だったのですが、ランニングコーチとして大学院1年の谷西祐哉さん(須磨友が丘)、2年生の辻井冬和さん(報徳学園)が務めていて、主に選手たちのポイント練習を引っ張り選手の走りを支えています。

大江監督就任後、グラウンドも整備されて、400mトラック、周りに土・ウッドチップのコース、その外周に起伏のあるクロスカントリーコースとバリエーションに富んだコースでトレーニングをすることもできます。森田副監督が「みんな明るくて元気で思いやりがあって優しい」とお話されるほど、素敵なチームです。練習では集中した選手の皆さん 練習後には川内優輝選手のモノマネを教えてくださいというノリの良さ。気さくに声をかけていただきました(笑)。

地域からも愛されるチームで再び全国の舞台へ

地域に貢献し、地域に愛される通称・エメラルドフェアリーズこと神戸学院大学女子駅伝競走部。仙台に富士山にエメラルドの風を吹かせるため、現状打破し続けます!

M高史の陸上まるかじり

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