ホクレンから世界陸上へ! 佐藤圭汰や金子魅玖人も出場した20周年記念大会リポート
ホクレン・ディスタンスチャレンジ2022 20周年記念大会が6月22日、深川市陸上競技場で開催されました。7月2日の第1戦・士別大会に先駆け、7月15日開幕のオレゴン世界陸上に向けて、参加標準記録の有効期限である6月26日までに挑戦できる大会でもありました。
大会当日は500人限定の有観客での開催とともに、日本陸上競技連盟のYouTubeでライブ配信も行われ、ホクレンDCディレクターの河野匡さんと私、M高史も実況でご一緒させていただきました。
初のスーパーチャットで選手たちを支援
日本選手権3位以内に入っていて、世界陸上の参加標準記録を突破すれば内定が決まるという状況。かつワールドランキングのポイントを上げて、狙う選手もいて、好記録が期待されました。
今大会初の試みとしてライブ配信のスーパーチャット(投げ銭)が試行運用されました。日本陸連によると、「選手がより良いタイムが出せる環境整備、ファンの皆さんと選手や大会との接点作りやホクレン・ディスタンスの安定した運営を目的としています。集まった収益は、ペースメーカーの導入などいい記録を出すための取り組みやナイターやカメラなど大会運営の設備に使用させていただきます」とのこと。ファンの方が直接選手を支援できる新たな形が試行され、この日は本当にたくさんの方に支援いただきました。
河野さんからも、「配信の方は手作りでやっておりますけど、少しでも皆さんに陸上を深く理解していただけるような情報を少しでもあげていきたいと思いますし、選手の裏側や我々がどういう感覚でやっているのか配信を通してお伝えできればと思っています」と温かいメッセージもいただきました。
またレース後の優勝者インタビューでは、大会のサポーターとして地元の高校生の皆さんがインタビュアーを務められました。トップ選手にインタビューできるということで高校生の皆さんにとっても貴重な経験となりますよね!
いざ世界の舞台へ、日本中距離界の挑戦!
まだほんの少し日中の暑さも残る16時15分、男子800mがスタートし、20周年記念大会の幕が開きました。400mの設定タイムが51秒5で、日本記録更新と世界陸上参加標準記録突破に選手の皆さんが挑みます。ペースメーカーだけでなく、走る隊列も決めて、入念な打ち合わせ。
入りの400mが50秒7(以下、ラップは手元の計時)、600mを1分18秒で通過。中央大学・金子魅玖人選手(3年、鎌ヶ谷)が1分46秒34で接戦を制して1位。2位には筑波大学大学院・薄田健太郎選手(修士2年、希望ヶ丘)、3位には広島経済大学・山﨑優希選手(4年、東幡工業)と続きました。
800mに続いて女子1000m。昨年、田中希実選手(豊田自動織機)が日本記録を更新した種目ですね。実は800mにつながる1000mでもあります。というのもシミラー種目という制度があり、WAランキングのポイントを稼げます。田中選手は自身が持つ1000mの日本記録を更新すれば、計算上はWAランキングのポイントにより800mでも出場圏内に入る可能性があり、3種目(800m、1500m、5000m)での世界陸上出場権をかけて、そして世界陸上に弾みをつける挑戦が始まりました。
ペースメーカーの環太平洋大学・正司瑠奈選手(1年、就実)が引っ張る展開。正司選手が400mを60秒7で引っ張り、今度は同じ環太平洋大学の江藤咲選手(2年、大分雄城台)が600mまで引っ張りました。
ラスト1周の鐘が鳴り、田中選手がスパートをかけます。先日の日本選手権では前半から積極的な走りで優勝を飾った塩見綾乃選手(岩谷産業)も粘りの走りをみせます。800m を2分04秒2(63秒1)で通過した田中選手は、2分37秒33の日本新記録で優勝を飾りました。2位の塩見選手も2分39秒27の好記録で続きました。
レース後、田中選手は「最低限、日本記録、自己ベストを出すことはできたのですが、やっぱりまだ世界陸上で1500mで出ていくにあたっては、まだ不十分なタイムだったかなと思います」と振り返りました。さらに日々の練習で心がけていることについては、「最近はやっぱりラスト400mからだけでなくて、もう一段階、二段階と段々上げていけるようなことを心がけて練習をしています」とインタビュアーである高校生の質問に丁寧に答えられていました。
田中選手は1000mを終えてから約1時間15分後の女子1500mのペースメーカーにも登場ということで、日本選手権で800m2位の後に5000mを走って優勝を飾ったときのようなタフなスケジュールにも挑みました。
参加標準記録に挑んだサンショー陣
実況席の河野さんの現役時代の専門種目である3000m障害(SC)では、河野さんならではの細かい解説でサンショーの魅力や奥深さが伝わってきます。女子3000mSCでは日本選手権で2位となった西出優月選手(ダイハツ)が登場。河野さんからも「1500mや5000mの走力が上がってきています」と走力の向上に加えて、この日は「水濠の技術が改善されてきています」と技術面での進化も解説がありました。
結果は9分49秒66と世界陸上の参加標準記録(9分30秒)には届かなかったものの、「ここ1年くらいに早狩さんの日本記録が更新されるかもしれないですね」と河野さんがお話されるほど、西出選手をはじめ女子3000mSC界のレベルが上がってきています。
レース後、西出選手は「世界陸上のランキングアップということで9分40秒切りを目指していましたが、日本選手権では4人で競り合ってあのタイムで、今回はほとんど後半1人で走ることになりかなりペースが落ちてしまったのが、まだまだ自分の弱いところだなと感じました」と課題も話されました。
ちなみに、西出優月選手の母校・関西外国語大学女子駅伝部の皆さんはちょうど練習時間の直前だったということもあって、教室で部員全員でライブ配信を視聴・応援されたそうです。お世話になった先輩の活躍は嬉(うれ)しいですよね!
続いて、男子3000mSCでは楠康成選手(阿見AC)と潰滝大記選手(富士通)に注目が集まる中、神直之選手(北星病院)がペースメーカーを務めました。神選手は北海道千歳市で理学療法士として働きながら日本選手権にも出場しています。大障害や水濠がある分、3000mSCは他の種目に比べてペースメイクが難しいと言われています。
8分29秒33で優勝を飾ったのは潰滝選手。「8分22秒という標準タイムを狙う大会だったので、せっかくいい環境で大会を開いてもらったのですが、それに遠く及ばない結果で、そこは残念だったなと思っています」と悔しさも伝わってきました。インタビュアーの高校生からレース前のルーティンを聞かれたところ、潰滝選手は「散髪に行きます」とのことでした! ちなみに、河野さんは前日ショートケーキを食べられていたそうです。僕がものまねさせていただいている川内優輝選手は前日にカレーを食べるということで、選手それぞれ色々なルーティンがあるんですね!
大学生では立教大学・内田賢利選手(3年、駒大)が積極果敢な走りで8分38秒47で2位に。日本選手権でマークした自己記録の8分37秒24には届かなかったものの、河野さんからも「積極的で内容が良く、結果としての記録よりプロセスが良かったですね」と好評価。3位には8分39秒25で吉田洸太選手(埼玉医科大グループ)が入りました。中央学院大学時代に関東インカレ2部で優勝経験もある吉田選手は、自己記録(8分46秒55)を更新する走りでした。
男女のセンゴも果敢に挑戦!
女子1500mでは、つい先ほど1000mで日本記録を更新したばかりの田中選手がペースメーカーで登場! 400mを65秒4、800m 2分13秒4(68秒0)で通過し、1100mまでペースメイク。ラスト1周の鐘とともに前へ出た同僚の後藤夢選手(豊田自動織機)に声をかけます。後藤選手は4分12秒12とわずかに自己記録に届かなかったものの、先日の日本選手権1500m2位の実力を発揮されました。
ライブ配信では河野さんも「競り合う相手がいたら4分10秒切る力がありますね」と、後藤選手の走りを高く評価されていました。後藤選手は「今日は日本選手権でできなかった4分10秒切りというのを目標にしていたので 感覚的にもラスト上げれなかったのがすごく悔しいのと、まだしないといけないことがたくさんあるなと課題もすごく感じました。これからもホクレンが続いていくので、そういったレースに出ていくことで来年またトラックで勝負できるように頑張っていきたいなと思います」と、すでに次を見据えています。
男子1500mは日本選手権の決勝かというくらい豪華メンバーが揃いました。Two Laps・横田真人さんが700mまで、その後は東海大学・安倍優紀(あんばい・まさのり)選手(3年、清陵情報)、さらに高橋選手が1200mで前に出て世界陸上参加標準記録ペースで引っ張りました。
400mが56秒0、800mが1分54秒1、1000mを2分22秒で通過し、記録への期待が高まりましたが、惜しくも届かず、荒井七海選手(Honda)が自己新となる3分36秒62で優勝。2位には館澤亨次選手(DeNA)が3分38秒35でこちらも自己新となりました。
レース後、荒井選手は「世界選手権の標準がターゲットでした。そこには及ばず中距離のチームとしては少し情けないなというタイムではあるのですが、個人的には自己ベストということで、成長できてるなというのを実感できたレースでした」とレースを振り返りました。
10000mで早稲田大・井川選手が2位に
5000mには13分13秒50の世界陸上参加標準記録を目指して、ペースメーカーを含めて13人の選手が出場。唯一、大学生で出場したのは駒澤大学・佐藤圭汰選手(1年、洛南)。実業団の先輩選手たちを果敢に挑戦しましたが、2000mを5分16秒というハイペースで通過したところで集団から遅れる展開。その後、立て直して遅れてきた選手を拾って順位を上げていき、9位13分48秒28でフィニッシュ。レース後、佐藤選手からは悔しさが伝わってきました。
10000mでは早稲田大学・井川龍人選手(4年、九州学院)が積極的な走りで、市田孝選手(旭化成)とラスト1周までもつれる日本人先頭争い。市田選手が28分13秒65で先着し、井川選手は28分15秒95で続きました。
若干、風が強かったことや5000m以上の距離では少し気温が高かったこともあり、世界陸上参加標準記録突破はなりませんでしたが、選手の皆さんは最後の最後まで可能性を信じて、記録に挑み、現状打破されていました!
というわけで今回はホクレン・ディスタンスチャレンジ20周年記念大会の実況レポートでした! 本当は全種目、全選手のお話を書きたかったところでしたが、ここでは書ききれませんでしたので、気になる種目、選手の走りはぜひホクレン・ディスタンスチャレンジの動画の方からご覧ください(笑)。7月2日から始まるホクレン・ディスタンスチャレンジ2022第1戦も楽しみです!