陸上・駅伝

連載:M高史の陸上まるかじり

日本中距離界の歴史的快挙の1日! ホクレンディスタンス千歳大会実況レポート

ホクレン・ディスタンスチャレンジ第5戦も河野匡さんと実況席でご一緒させていただきました(写真提供すべて日本陸上競技連盟)

7月17日、ホクレン・ディスタンスチャレンジ第5戦となる千歳大会には東京五輪代表の選手も多く出場しました。気温も30度以上という千歳では異例の暑さの中、激アツなレース展開。1500mでは男女で日本記録、男子の高校記録、女子の学生記録、800mで日本タイ記録と中距離種目での記録ラッシュとなった大会をレポートします。

M高史のホクレン・ディスタンスチャレンジ第1戦・士別大会、実況レポート!
自己ベスト続出! M高史のホクレン・ディスタンスチャレンジ深川大会実況レポート

今回も実況席で河野さんとご一緒しました。河野さんの陸上競技への情熱、選手への愛情、そして多くのご経験・膨大な知識など、お隣で勉強させていただくことばかりでした。

河野さんによると会場となった千歳市青葉陸上競技場は100mのスタート地点が南側、フィニッシュ地点が北側という珍しい設計になっていて、南風が吹きやすい夏場はホームストレートが追い風となるそうです。通常の陸上競技場は秋の国体をイメージして風向きを考えられていることがあるとか。

さらにバックストレート側は、高さ10m以上はあろうかと思われる高い木々が風を遮ってくれるため、夏のこの時期は選手たちにとって走りやすい競技場だと解説していただきました。

800mでいきなり日本タイ記録!

男子800mでは今年の日本選手権優勝の田母神一喜選手(阿見AC)がペースメーカーを務め、好アシスト。フィニッシュ直前まで激しい競り合いの中、源裕貴選手(環太平洋大4年、美祢青嶺)が1分45秒75の日本タイ記録で優勝。日本記録保持者の川元奨選手(スズキ)が1分45秒83で2位、金子魅玖人選手(中央大2年、鎌ヶ谷)が1分45秒85で3位となりました。3人が1分45秒台という日本初の快挙でした。

ハイレベルな男子800mを制した源選手は「日本記録を破りたかったので、自分でもちょっと悔しいです。(日本記録を)狙っていた部分はあったのですが、ラスト300m付近でポケットされたので休みながらラスト切り替えようというレースプランにしました。(ラスト激しい競り合いに)日本選手権の場面を思い出してここは勝たないといけないと思い、ラスト胸の差で勝てたのはよかったと思います。今後は国体と日本インカレでしっかり優勝できるようにしっかり調整していきたいです」と少し悔しい表情を見せながらも次を見据えていました。

800m1分45秒75の日本タイ記録をマークした源裕貴選手

男女の2000mSCでは以前に「M高史の陸上まるかじり」で取材させていただいた選手やゆかりのある方が登場!

女子2000mSCを6分41秒69で優勝したのは大宅楓選手(大東建託パートナーズ)。元々は800mで日本選手権4位など中距離で活躍していた大宅選手。現在ご指導されている上野敬裕コーチの勧めもあり、3000mSCに転向されました。バセドウ病という甲状腺の病気で手術を乗り越えて競技復帰された選手です。

大宅選手はレース後「日本選手権が終わってからあまり調子が上がっていなかったので少し不安もあったのですが、とにかく優勝することを目標に今日はレースをしました。今後は秋に控えている全日本実業団があるので、大幅に自己ベストを更新して、来年の日本選手権で戦いたいです」と秋や来季への意気込みを語られました。

日体大OGの大宅楓さん 中距離から3000mSCへ、病気を乗り越え世界への挑戦!

男子2000mSCでは注目の坂口竜平選手(SGホールディングス)がまさかの転倒、途中棄権という波乱の展開。松本葵選手(大塚製薬)が逆転し優勝を飾りました。松本選手の奥様は「M高史の陸上まるかじり」でも取材させていただいた小島一恵さん。優勝インタビューではご家族へのメッセージもあり、ライブ配信を見ていた皆様もほっこりされたのではないでしょうか。

松本選手はレースについても「このような状況の中、5戦開催していただいて、その中で自己ベストを出すことができたことは感謝を込めてありがとうというレースになりました。今年34歳なりますが、もう1回戦っていけるように頑張っていきたいと思います」と話し、解説席の河野さんも「まだまだいける!」と太鼓判を押していました。

立命館大で4年間全て区間賞を獲得した小島一恵さん 現役引退後、再び走り出す!

東京五輪代表選手が続々登場!

この日、新谷仁美選手(積水化学)が15時50分スタートの女子3000mB、16時10分スタートの女子3000mA、そして16時45分スタートの女子1500mと3本のレースを走るのにも注目が集まりました。

1本目を9分11秒19。2本目を9分09秒27とわずかなリカバリーの中で2本を走りきり、1500mにも挑みました。1500mでは4分28秒03のタイムでした。

東京五輪10000m代表の新谷仁美選手は3種目に登場

そして女子1500mには、 東京五輪代表で日本記録保持者の田中希実選手(豊田織機TC)が登場しました!

スタート後からペースメーカーの澤井柚葉選手(筑波大2年、星稜)ににぴたりとつき、700m以降は独走体制に。400mを65秒、800mを2分10秒、1000mを2分43秒、1200mを3分15秒(いずれも場内アナウンスより)で通過し、ラスト300mでさらにギアを上げ、自らの持つ日本記録を1秒以上上回る4分04秒08で日本記録を更新!

連戦の中、1500mで自身のもつ日本記録を更新した田中希実選手

また、第2集団は800mを走り終えた陣内綾子選手(九電工)が急遽ペースメーカーを務め、後藤夢選手(豊田織機TC)が4分12秒45の自己新で2位、道下美槻選手(立教大2年、順天)は日本学生新記録となる4分12秒72で3位と好タイムで続きました。

レース後、田中選手は「ベストが出るとは思ってなかったのですが、今季ベストを出したいとは思っていて、先日5000mで不甲斐ない走りとなってしまった怒りをしっかりぶつけることができました。(連戦について)まだスタミナの面でも自信が持ちきれていない部分があって、今日もスタートラインに立った時は、調子に自信を持ってはいなかったのですが、その中でもタイムが出たので、それをしっかり自信とリンクさせるようにしたいです。(日本記録が出ると思った地点について)ラスト300m、200mといったあたりでコーチの方々が檄を飛ばしてくださったのが聞こえて、いけそうなんだと思ったのでそれが良かったのかなと思います。(東京五輪に向けて)五輪の標準記録は期間には間に合わなかったのですが、出場前にしっかり(標準記録を)切っていけるということが本当に嬉しいので、五輪の1500mと5000mの両方にぶつけていきたいと思います」。すでに1500mでもワールドランキングにより五輪代表を決めていた田中選手ですが、東京五輪参加標準記録に加えて来年の世界陸上標準記録である4分04秒20を突破する激走でもありました。

田中選手は来年の世界陸上参加標準記録も突破しました!

男子1500mでも快挙!

女子1500mの日本新に場内も沸き、続く男子1500mもいけるのではという空気感が漂いました。

ペースメーカーも安倍優紀選手(東海大2年、清陵情報)、馬場勇一郎選手(明治大2年、中京大中京)、田母神一喜選手(阿見AC)と3人体制。田母神選手はエントリーリストになかったものの800mに続いて1500mでもペースメーカーを務めることになりました。

日本記録を上回るペースでレースは進み、1000mを2分23〜24秒あたりで通過。1100mまで引っ張った田母神選手はトラックに倒れ込むほど出し切っていたのがとても印象的でした。

田母神選手の好アシストに、河村選手、佐藤選手と続き、五輪代表の松枝選手、坂東選手も続く熱い展開

河村一輝選手(トーエネック)が日本選手権も制した勝負強さも発揮し、3分35秒42の日本新記録で優勝。前半から積極的な走りを見せた佐藤圭汰選手(洛南高3年)は、1999年にあの佐藤清治さんが樹立された高校記録(3分38秒49)をついに更新する3分37秒18で堂々2位。

ちなみに解説の河野さんは当時、日本陸連中距離の副部長だったそうで、当時高校生だった佐藤清治さんとヨーロッパ遠征に行ったお話もされていました。僕は当時まだ中学生で陸上雑誌を見て「とんでもない選手がいる!」と衝撃を受けましたが、それから22年もの間、記録が破られていなかったということに改めて佐藤清治さんの偉大さも感じました。

レース後、河村選手は「日本選手権で勝った時から、ここを狙ってきていたので、ちゃんと目標が達成できて良かったです。最後(スタッフさんの皆さんの)応援が本当に聞こえてきて、しっかり出しきれました。(タイムについて)あと0.42秒で世界選手権の標準だったので、それが悔やまれるところですね。もうちょっとどこか頑張っていたらいけてたかもしれないというのもあったので、少し悔しさが残ります。(今後は)3分35秒を切って世界選手権の舞台に立って日の丸をつけて走れるように頑張りたいと思います」と日本記録更新もすぐに次の目標を見据えていました。

佐藤選手は「この大会で高校記録を更新しようと思い、目標を達成できて良かったと思います。(いけると確信したのは)2周目の通過が1分54秒で自分の予定していたタイムより1秒以上速く、そのペースでいけばいけると思っていたので、2周目が終わった時点で確信しました。(今後は)インターハイで2冠を狙っているので、1500mでも5000mでも最初から積極的にいく走りを貫き通して、留学生にも負けない走りでしっかり2冠を達成したいと思います」。

1500m高校記録を22年ぶりに更新した佐藤圭汰選手にインタビュー

800mに続いて1500mでも快挙が続き、解説の河野さんも「日本の中距離界の歴史的な1日」と評されました。

5000m東京五輪代表の松枝博輝選手と坂東悠汰選手(ともに富士通)は1500mと5000mBに出場(3000mまで)。1500mでは坂東選手が自己記録を大幅に更新し3分37秒99で3位に入り、好調ぶりが伺えました。

暑さの中でも学生選手が台頭

中距離では好記録が続出しましたが、その後の5000mや女子10000mで記録を狙うには気温の高いコンディションとなりました。

そんな中、5000mBでは大学生も各大学のエース同士の争いに火花。学生では砂岡拓磨選手(城西大4年、聖望学園)が13分37秒08、野村優作選手(順天堂大3年、田辺工業)が13分44秒61、地元・北海道出身の藤木宏太選手(國學院大4年、北海道栄)が13分45秒52、中西大翔選手(國學院大3年、金沢龍谷)が13分49秒28と好記録をマーク。秋の駅伝シーズンの弾みとなりましたね!

ななつぼし女子5000mAには東京五輪10000m代表の安藤友香選手(ワコール)も出場。この日は15分45秒57で12位。五輪本番に向けての調整といった印象のレース運びをしていました。この組では不破聖衣来選手(拓殖大1年、健大高崎)が積極的な走り。関東インカレ優勝、日本学生個人選手権は小林成美選手(名城大3年、長野東)と僅差の2位、U20日本選手権優勝と快進撃を続ける中、4000m以降は外国人選手にも果敢に挑戦し、15分20秒68の自己新で3位となりました。

不破選手はレース後「最近のレースでは自分が引っ張るレースが多かったので、久しぶりにペースメーカーの方と一緒に走ることができて、しっかりつくことができたので良かったです。最初の入りがそこまで速くなかったので、途中や最後の急なペースアップがちょっときつかったです」とレースをふりかえりました。日本代表に決まっていたU20世界選手権がコロナ禍により派遣中止となってしまいましたが、秋・冬の駅伝シーズンの不破選手の走りにも注目ですね!

外国人選手に果敢に挑み、自己記録を更新した不破聖衣来選手

5000mAでは、今年の日本選手権優勝者の遠藤日向選手(住友電工)に、駒澤大学の大エース・田澤廉選手(3年、青森山田)が挑む展開。また今季、関東インカレ2部で2種目で日本人トップなど急成長をとげた唐澤拓海選手(駒澤大2年、花咲徳栄)も果敢に挑んでいきました。

鈴木芽吹選手(駒澤大2年、佐久長聖)が前週の網走大会で13分27秒83と駒大記録を更新(従来は村山謙太選手の13分34秒58)。また、唐澤選手も網走で13分32秒58と好走し、今回の千歳大会にも出場となりました。

最初の1000mが2分44秒。13分20秒前後の記録を狙う選手にとってはスローな展開でスタートを切りました。解説の河野さんによりますと「外国人選手同士が勝負を意識して牽制してしまうことがある」ということでした。終盤は外国人選手同士の激しいペースアップがあり、ジェームス・ムオキ選手(コニカミノルタ)が13分19秒92で優勝。遠藤選手が13分26秒14で3位(日本人トップ)、田澤選手が13分29秒91で4位に。田澤選手は自己記録更新も鈴木選手が更新したばかりの駒大記録に届かず、表情からも悔しさが伝わってきました。

5000mAでは遠藤選手が日本人トップ。田澤選手が僅差で続きました

遠藤選手はレース後「最初の1000mがちょっと遅過ぎて、そこで本当に力があれば自分から上げるのですが、まだまだ力がなくて後ろで待機する形になってしましました。1シーズンで13分20秒台で複数回走る選手はあまりいないですし、そこは今後自信を持っていいところだと思うので、また来シーズン強くなった走りをお見せできればと思っています。来年のユージーンの世界陸上に向けて頑張ります!」。東京五輪出場がかなわなかった悔しさを来年にぶつけると話してくれました。

実況席で感じたこと

第1戦・士別、第2戦・深川、第5戦・千歳と実況席からホクレン・ディスタンスチャレンジを間近で感じることができ本当に感謝です。

たくさんの方の支えがあって、開催されているということを実感することができました

特に伝わってきたのは支える皆さんたちの情熱です。普段、実業団で選手を指導されている監督さんたちが場内実況や裏方に徹して、選手たちの熱い走りをサポートしていました。「頑張っている選手の皆さんが輝ける場所、練習の成果を発揮できる場所、このコロナ禍でもなんとか工夫して用意してあげたい!」という熱意が伝わってきました。また、その思いに選手の皆さんも応えて現状打破しているのを感じました!

来年はホクレン・ディスタンスチャレンジも20年という節目の年になります。

今回のライブ配信をご覧になったからも「実際に、現地に応援に行ってみたくなりました!」というありがたいコメントもたくさんいただきました。例えば、ホクレンディスタンスを観戦して、翌日は応援でご一緒された皆さんと北海道を走る「観戦&ランツアー」なんてあっても面白いかもしれません。もしかしたら、ひょっとしたら、ホクレンを走られた選手の皆さんもサプライズ登場で来ていただけるかもしれませんね(笑)!

M高史の陸上まるかじり