中距離が熱い! 世界を目指した「THE MIDDLE」、ペースメーカーにあの人も
3月29日(火)、駒沢オリンピック公園総合運動場陸上競技場にてTHE MIDDLEが開催され、取材にうかがってきました(記事中の選手の所属、学年はレースが行われた3月29日現在で記載しています)。世界選手権(米国・オレゴン、7月開催)を見据えた「ROAD TO OREGON」を掲げ、当日はU20男子800m、男子800m、男女1500mの4種目が行われました。
記録への挑戦、特別ルールも
大会の主旨は「シーズン初戦から世界選手権の標準記録突破にチャレンジすること」。そのために、「設定ペースで進む集団から離れた場合にはレースを自主的に終了する」「最終ポイントを先頭(集団)あるいは設定タイムで通過した場合には、フィニッシュまで走り切ることができる」という特別ルールが設定されました(U20男子800mはルールの適用外)。
つまり、牽制(けんせい)してスローになってしまうことがなく、最初から世界選手権の標準記録突破に向けて記録に挑戦する熱いレースが期待され、会場のボルテージも高まります。白熱するレースはもちろん、ウォーミングアップをしている選手たちの様子も間近で見ることができるのもこの大会の魅力です。
ちなみに、設定ペースはこちら。
男子800m
400m 51秒7
600m 1分17秒9
女子1500m
800m 2分13秒0
1000m 2分47秒1
1200m 3分21秒2
男子1500m
800m 1分54秒8
1000m 2分23秒9
1200m 2分53秒1
長距離畑だった僕にとっては次元が違いすぎる見たこともない通過タイムです! 特に男子のペースは自転車でついていくのも大変なペースですね(笑)。
主催の横田真人さん自らペースメイク
熱いメンバーがそろったものの、グランドコンディションは気温9度と中距離種目には肌寒い気候となりました。最初の種目となったU20男子800mでは主催者でもあるTWO LAPS TCの代表兼コーチの横田真人さん自らペースメイク。大会の主催、選手の指導、そして自らも走られるということで、いったい何役をトップレベルでこなしてしまうのか! ただただ尊敬です!!
横田さんが500mまでペースを引っ張ったU20男子800mは前田陽向選手(洛南高3年)が1分51秒74で1着となりました。前田選手はこの4月から環太平洋大学に進学。大学での活躍にも注目ですね!
続く男子800mでは中央大学の金子魅玖人選手(みくと、2年、鎌ヶ谷)が1分49秒19で1着。日本記録保持者の川元奨選手(スズキ)は1分52秒02で3着となりました。
続く女子1500mでは慶應義塾大学・細井衿菜選手(3年、中京大中京)がペースメイク。豊田自動織機のヘレン・エカラレ選手が終盤の強さを見せて4分06秒36で1着。筑波大学の樫原沙紀選手(2年、呉三津田)が4分19秒63で2着に入りました。今回は田中希実選手(豊田自動織機TC/同志社大4年、4月から豊田自動織機)、卜部蘭選手(積水化学)が欠場となりましたが、女子中距離界も盛り上がってきましたね!
佐藤圭汰選手の高校ラストレース
そして、あっという間に最終種目の男子1500m。実業団選手に大学生が挑戦。更には3月いっぱいまでは洛南高校所属の高校記録保持者・佐藤圭汰選手がどこまで挑戦していくのか、注目のレースとなりました。
進学先である駒澤大学の大八木弘明監督も見つめる中、淡々とウォーミングアップをこなす佐藤選手。高身長から繰り出す力強いストライドとスピード感、アップを見ているだけでもワクワクしてきます(笑)。実際に応援にお越しの皆さんもトラックでアップを続ける佐藤選手に熱視線! 注目度が伝わってきます。
そして、この1500mのペースメイクを務めるのは、なんと! ランニング×コメディ×YouTuberたむじょーさんこと田村丈哉選手がペースメーカーに大抜擢(ばってき)!
帝京大学時代に箱根駅伝出場、日本インカレ3000mSCで5位に入賞しているとはいえ、大学では出場機会のなかった1500mでYouTuberになってからポテンシャルを発揮。注目されればされるほど力を発揮する楽しいことが大好きなお祭り男が真剣にトレーニングに打ち込み、準備を重ねてきました。
見ているこちら側も緊張するような独特の空気感の中、号砲が鳴り、選手たちが駆け抜けていきました。100mだけダッシュしてもついていけないようなスピード! アナウンスも100mごとにタイムが読まれます。通過したなと思ったらもう次の100m! あっという間に選手たちは駆け抜けていきます。
400mを56秒8、800mを1分56秒6で通過。たむじょーさんは800mまでペースを引っ張り、無事に大役を果たしました。5レーンあたりまで前に出て選手の走りを見ることができ、選手に声援を送ることができます。ファンの方にとっても嬉(うれ)しいですし、そういった応援の熱量が選手にも伝わっているかもしれないですね!
ラスト1周の鐘が鳴り、HONDAの荒井七海選手が抜け出し、3分40秒91でトップでのフィニッシュとなりました。
2位争いを制した愛三工業の木村理来選手が3分43秒32。積極的な走りで3位となった佐藤選手は3分43秒77で洛南高校ユニホームではラストレースを飾りました。4月から佐藤選手が通う駒澤大学は、今回の会場となった駒沢オリンピック公園総合運動場のすぐお隣。佐藤選手にとって洛南高校ユニホームのラストレースを今春から4years.を過ごす駒澤大学に隣接するトラックで飾るというのも、なんだかご縁を感じますね!
佐藤選手「次は3分40秒切りたいです」
レース後、注目の佐藤選手にお話をうかがいました。
「順調に練習できていましたが、スタートして(思ったより)動かなくて、スピードに乗れていなかったです。課題はラストの切り替えです。この悔しさを晴らせるように次は3分40秒切りたいです。スピードを磨いて、更にレベルアップして世界陸上に出場できるように質の高い練習を継続していきたいです」と、レースの反省や課題を口にされた佐藤選手。目指すべき目標の高さが伝わってきます。
高校を卒業し、駒澤大学での寮生活がスタート。寮生活にも少しずつ慣れてきたようで、両親への感謝もお話されていました。
レース中、M高史は僕の恩師でもあります大八木監督のお隣に。佐藤選手への熱い檄(げき)が飛ぶお姿に、僕の学生時代から全く変わらない指導への情熱、選手のことを本気で思う愛情が伝わってきます。「ラストのキレ」「切り替え」「実業団選手に勝つ」といった言葉が並び、大八木監督の佐藤選手に対する期待もうかがえました。
大八木監督はレース中だけではなく、アップやスタート前の仕草、ダウンなど本当に細やかなところまで選手のことを見ていらっしゃいます。学生時代によく「感性が大事」と教えていただいてましたが、改めて勉強させていただきました。
そして、見事、ペースメーカーの大役を果たした、たむじょーさんにもお話をうかがいました。
「緊張しました! 自分のレースではないので失敗できないですし。初めての雰囲気で、日本のトップ選手たちを引っ張るといういい経験をさせていただきました」。次戦は4月9日の金栗記念1500m。自身もYouTuberとしてエンターテイナーとして、そしてアスリートして日本選手権出場を目標に現状打破し続けます!
フィニッシュ後は、横田真人さんが選手に声をかけ、お客さんに「ありがとうございました」と1周トラックをまわることに。これはファンの方にとっても嬉しいですね! 陸上界でなかなか見られなかった取り組みですが、陸上界に新たな風が吹き、陸上競技の試合を観に行きたいというファンの方が増えるきっかけにもなりそうですね!
というわけで、今回は中距離界が熱い! THE MIDDLEのお話でした。