陸上・駅伝

連載:M高史の陸上まるかじり

「走る歯医者さん」好士理恵子さんは日大歯学部から大学駅伝へ、20年ぶりの自己新を

日本大学OGの好士さんは「走る歯医者さん」として学生時代の記録に挑んでいます(写真は全て本人提供)

今回の「M高史の陸上まるかじり」は好士(こうし)理恵子さん(旧姓:西原、42)のお話です。日本大学歯学部の陸上部時代には、全日本歯科学生総合体育大会では800mと3000mで6連覇、全日本医歯薬獣医大学対校陸上競技選手権大会3000mでも6連覇を達成。4年生からは女子駅伝部として関東大学女子駅伝にも出場。現在は久我山あおぞら歯科医院の院長をしながら昨年、マラソンで2時間47分21をマーク。約20年の時を経て、学生時代に出した自己記録(2時間45分50秒)の更新を目指す「走る歯医者さん」です!

体育のスポーツテストで陸上の道へ

昔から走るのが好きだったという好士さん。ところが、中学に陸上部がありませんでした。「高校野球が好きだったこともあって、ソフトボール部に入りました。ただ、入ったはいいものの肩も弱くて、1番バッターでバントして盗塁して足で稼いでいましたね(笑)」という中学時代を過ごしました。

高校入学後は野球部のマネージャーに。「甲子園に憧れていました。スコアを取ったり、玉拾いをしたり、楽しい部活生活がスタートしましたね」。そんな中、体育のスポーツテストで人生が変わりました。「スポーツテストで1000mを走ったところ、陸上部の顧問にスカウトされて陸上部に入ることになったんです。もしスカウトされていなければ、マネージャーとして高校生活を送っていたかもしれないですね!」。ありがたい出会いだったと振り返ります。

陸上部に入ってからはシンスプリントなど故障にも悩まされましたが、「部活のメンバーといるのが楽しくて、部室でおしゃべりしているだけで楽しかったですね(笑)」と仲間にも恵まれました。

高校時代、特に印象に残っているのは妙高高原で行われた夏合宿。男子チームに混ざってロードでの練習のことでした。「上り坂で男子を次々と抜き去ることができました。そこで上り坂が得意だと気づいたんです。普段はトラック練習がメインだったので、ロード練がすごく楽しかったですね! ロードを走る楽しさは、今でも市民ランナーとして走り続けるモチベーション、原点となっています」とロードへの適正を感じる体験となりました。

高校時代、妙高高原での夏合宿は特に記憶に残っています(前列右端が好士さん)

高校駅伝では2年生の時に神奈川県高校駅伝で7位に(6位までが関東高校駅伝出場)。1区で区間2位の好走を見せた好士さんでしたが、チームとしてはあと一歩届かず。「6位までが関東だったので、本当にショックでしたね。誰を責めるわけでもなく、みんなあと1歩ずつ及ばなかったです。本当に駅伝が好きで、今、ランニングチームに所属していることにもつながっていますね」。進学校ということで、高3のインターハイ予選で部活を引退するため、2年生の駅伝が高校ラスト駅伝となりました。

高2の県高校駅伝(右端が好士さん)

ただその後、高2の春休みのこと。「実家が全焼する火事があり、家族全員無事だったもののユニホーム、メダル、賞状、シューズ、思い出の写真など、部活の道具が全て燃えてしまったんです。ショックで走るのをやめてしまいました。先生に励ましていただいたり、他の部員がお金を出し合って私が履いていたのと同じシューズをプレゼントしてくれたりもしたのですが、そこまでしてくれたのに部活をやめてしまいました」。やめてしまったものの、仲間からプレゼントされたシューズに一度も足を入れることなく終わりにしていいかな、という思いがずっと引っかかっていたそうです。

日大歯学部の陸上部に

高校卒業後は日本大学歯学部へ。大学では歯学部の陸上部に。「高校でみんなからプレゼントしてもらったシューズが日の目を見ました!」と心機一転、スタートを切りました。

日本大学では大学本体の陸上部とは別に学部ごとに陸上部があり、歯学部の陸上部に入部することに。歯学部と勉強、陸上の両立は大変でしたが、「走りながら授業を思い出したり、テスト勉強でも暗記して走りながら覚えていましたね(笑)。先輩方にもいろいろ教えていただいてました」。走りながら勉強するという技も身につけました!

歯学部の学生日本一を決める全日本歯科学生総合体育大会では800m、3000m(大会記録樹立)で6連覇を達成。また、医療系の学生日本一を決める全日本医歯薬獣医大学対校陸上競技選手権大会でも3000mで6連覇を達成します。大会記録10分00秒19は現在も大会記録として残っており、好士さんの自己ベストでもあります。歯学部は6年間のため、ルーキーイヤーから最終学年まで全て優勝という快挙です!

「歯学部だけに限らず、各大学とも部活の人数が少なくて、他の大学と一緒に練習もしていました。大学の壁を越えて交流がありましたし、今でもつながりがありますね」と、学生時代のご縁は今でもつながっているそうです。

学生時代の好士さん(右)。当時の仲間とは今でもつながっています

女子駅伝部からのスカウト

転機となったのは、日大の中で各学部の陸上部が参加する学部対抗の大会のことでした。「当時、大学で女子駅伝部を創部するにあたって監督がスカウトに来られて、3000mの記録で声をかけていただいたんです」と、歯学部に所属しながら4年生の年から大学の女子駅伝部に入部することになりました。

歯学部の勉強と女子駅伝部での競技の両立に加えて、当時の女子駅伝部は静岡県の三島キャンパスが拠点ということで、「基本的には土日しか行けず、練習メニューや食事内容の報告など、監督とはメールでやりとりしていましたね。当時はお金もなかったので、東海道線で移動していました(笑)。マネージャーの家に泊まらせてもらったりもしましたね」と、勉強に競技に移動に慌ただしい日々を過ごしました。

そして、関東大学女子駅伝に出場を果たします。「憧れのNのユニホームを着ることができました。駅伝では雰囲気にのまれましたが、襷(たすき)をつなげたことが嬉(うれ)しかったですね!」と、母校の襷をつなぐことができました。

日本大学女子駅伝部として関東大学女子駅伝に出場(後列左端が好士さん)

駅伝だけではなく、学生時代からマラソンにも挑戦。三浦国際市民マラソンで3度優勝、荒川市民マラソン(現:板橋Cityマラソン)でも3度優勝を飾りました。6年生で迎えた東京国際女子マラソン。「東京国際女子マラソンを最後に引退しようと思っていました。次の日に卒業試験があったのですが(笑)、なんとか頑張って出ようと練習していました」。高橋尚子さんも出場していた年の東京国際女子マラソンで、好士さんは24位となりました。

次の日に卒業試験がありながらも東京国際女子マラソンに出場し、学生ラストランを飾りました(左が好士さん)

学生時代のマラソンの自己記録は2時間45分50秒。まさか20年近く経って再びこの記録に挑戦しようとは思っていなかったそうです。「あの時はいっぱいいっぱいだったですが、もっと走れたんじゃないかと今は思いますね! あの頃の自分に言ってやりたいですね(笑)」と、現在の充実ぶりも伝わってきますが、勉強に陸上に打ち込んだ6years.となりました。

本気のスイッチ再び

大学卒業後は大学院で研究を続けました。「学生時代で燃え尽きたので競技としてのランニングはやめようと思っていました。ミズノランニングクラブで市民ランナーさんのペーサーもやりましたが、大学院が忙しくて離れてしまいましたね」。大学病院では診療もあり、働きながら、診療時間が終わってから夜に研究をする日々。大学院では歯周病と糖尿病の関連についての研究をしていました。

大学院修了後、結婚を経て、走る調子も少しずつ戻ってきました。「ぼちぼち練習して、段々走れるようになってきました。一度、ミズノランニングクラブを離れて、中途半端な形になってしまいましたが、監督からもう一度声をかけてもらいました」。久しぶりのフルマラソンを3時間17分台で完走。ただ、得意なのはマラソンよりもハーフマラソン以下の距離という自覚から、10kmやハーフマラソンをメインに出場していました。

「2018年の一関国際ハーフマラソンでは10kmの部で優勝しまして、2019年のグアムマラソンに派遣していただきました。そこでまさかの優勝を飾ることができました! 2019年の一関国際ハーフマラソンではハーフの部に出場して4位になったのですが、上位の選手たちが辞退した結果、私がホノルルマラソンに派遣されることになりました!」。ホノルルマラソンには学生時代に2回、研修医時代に1回、招待の話(大会優勝による派遣)があったものの学業や研修医の関係で休めず、4度目の正直で初出場となりました。

「応援が絶えなくて、すれ違うランナーさんに手を振ったり、それからフルマラソンって楽しいんだと思えるようになりましたね」。念願だったホノルルマラソンで改めてマラソンの楽しさを肌で感じ、主戦場をマラソンに伸ばしていきました。

それまで学生時代の知識でほぼ1人で走っていた好士さんでしたが、「えもと塾」というランニングチームに加入して、動き作り、ドリル、補強などに取り組んだ結果、「見違えるほどフォームも改善できました。故障しなくなったので更に練習を積めるようになりました。タイムが伸びるような歳じゃないと諦めていたのですが、まさかこんなに走れるようになるとは」と、自身も驚くほど進化がありました。

昨年11月の富士山マラソンでは、2時間51分46秒で優勝。更に12月の防府読売マラソンでは2時間47分20秒と学生時代にマークした2時間45分50秒が射程圏に入ってくる快走を見せました。今年3月の名古屋ウィメンズマラソンでは暑さの中、果敢に自己記録更新ペースに挑み、記録更新はならなかったものの、2時間49分47秒で走り切りました。

今年3月の名古屋ウィメンズマラソンでは果敢に自己記録挑戦に挑みました(左が好士さん)

「学生時代から20年近く経って、自己ベストも見えてきました! 原動力となっているのは練習しているメンバー、そして学生時代からの歯学部のメンバーのおかげですね。当時の気持ちのまま、気持ちも若いですし(笑)、仲間の存在がモチベーションになっています!」と、42歳となった今でも全身からパワーがみなぎります!

「学生の時よりも練習はキツいメニューをやっています(笑)。学生時代はキツい練習の前は沈んだ重い雰囲気になっていましたが、今はそれが全くなくて、『うわ、このメニュー、マジ!?』とか言いながら、1本1本こなして笑いながらやっているんですね(笑)。市民ランナーの立場だからというのもありますが、楽しいのにこんなキツいメニューをこなせちゃうんだというのが続けられる理由ですね!」。同じ走るという行為でも、気持ちの持ち方1つで全く違ってくるんですね!

学生時代よりキツいメニューを楽しみながらこなしているという「えもと塾」の仲間と(前列中央が好士さん)

アスリートの口をサポート

現在は久我山あおぞら歯科医院の院長をしながら、仕事とランニングの両立を続ける好士さん。

「歯の健康とランニングはつながっています。ランナーの方は疲労回復でクエン酸飲料や給水でスポーツドリンクをこまめに飲むと思うのですが、汚れが停滞すると虫歯や歯周病の悪化につながります。ランニング中も甘いものを飲んだら、水を飲んで口の中をさっぱり洗い流してほしいですね」と、“走る歯医者さん”ならではの給水アドバイスも。

ホッケー女子元日本代表の藤尾香織さん(右)にスポーツマウスガードを提供しています


また、アスリートの口をサポートする分野にも携わり、「歯周病認定医、スポーツ歯科認定医の資格を生かして、アスリートの口の健康を守っていきたいですね」と、マウスガードを作るなど様々な角度からアスリートをサポートしています。「健康は歯から」と話す好士さん。かみ合わせのバランスが悪いと体の軸などバランスにも影響があるそうです。

「走る歯医者さん」として、仕事にランニングに青春の汗を流します

アスリートの挑戦を支えながらも、「個人的な記録がどこまで伸びるか、自分自身に挑戦していきたいですね!」とご自身でも現状打破し続ける好士理恵子さんのランニングライフは、白い歯のように今日も輝き続けます!

M高史の陸上まるかじり

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