大学陸上

連載:いけ!! 理系アスリート

TMは高校時代から短距離も長距離も強かった 慶大医学部・宮澤剛史(上)

5月の関東インカレ1600mリレーでアンカーにバトンをつないだ宮澤(中央、後者)。宮澤の活躍もあり、慶應は3位となった(写真はすべて本人提供)

連載「いけ!! 理系アスリート」の第15弾は、慶應義塾大学医学部5年生で、競走部に所属する宮澤剛史(慶應志木)です。5月の関東インカレでは1600mリレーで3走を任されて3位に食い込み、慶大の1部復帰に貢献しました。2回の連載の前編では、短距離を志望しながらも長距離を走らざるを得なかった高校時代の話を中心にお届けします。

見違えた「ヒョロヒョロランナー」

「まさかあの宮澤が1600mリレーに出て、そのレースで1部復帰が決まるとは」。競走部OBで、宮澤が1年生のときから見守り続けてきたチームドクターでもある高木岳彦さんは、今年の関東インカレでの衝撃をそう表現した。初めて高木さんが宮澤を見たのは2015年5月、慶大入学直後の日体大記録会だった。400mを公の場で初めて走った新入生の記録は51秒台だったと記憶している。高木さんは当時の彼の印象を「ヒョロヒョロランナー」と表現する。

あれから4年の時が流れた。関東インカレの最終種目である1600mリレー決勝を前にして、男子2部の総合得点は1位の流通経済大が93点、2位の東京学芸大が90点、3位の慶大が85.5点。2位までに入らないと1部に昇格できない。慶大は厳しい状況に追い込まれていたが、森柳(もり・やなぎ、2年、金沢二水)、坂口天城(てんき、2年、福岡)、宮澤、大谷尚文(4年、桑名)とバトンをつなぎ、3位に食い込んだ。肉離れを起こしていた坂口からバトンを受けた宮澤は、上位が狙える位置まで差を詰め、アンカーのエース大谷が順位を押し上げた。3位で6点を獲得した慶大が1点の上積みにとどまった東京学芸大を逆転し、2位での1部復帰が決まった瞬間、スタンドの慶大競走部員の集まった一角は歓喜の雄叫びと涙で沸き返った。

「感動しました! この感動はほかの大会ではなかなか味わえません。関東インカレならではですね」。レース直後、興奮冷めやらぬ宮澤が満面の笑みで言った。

宮澤は関東インカレのあとの6月8日、全関東医歯薬獣医科大学対抗大会にも出場した。400mは49秒05の大会新記録で優勝。400mリレーではアンカーを走り3位。1600mリレーは2走で4位だった。宮澤の活躍もあり、チームは男子総合優勝を果たした。今回も3年前の同大会でも、宮澤が走った最終種目のリレーで総合優勝を決めた。

2018年の関東医科大学対抗陸上競技大会で宮澤はスウェーデンリレーに出走し、トップでゴール

そんな宮澤の活躍を心から喜ぶ一人が、今春慶大を卒業した根岸祐太さんだ。根岸さんは2016年にスタートした「慶應箱根駅伝プロジェクト」の初年度に、箱根駅伝の関東学生連合メンバーの一員として8区を走った。根岸さんと宮澤とは慶應志木高の競走部でも同期で、毎日16kmを一緒に走った。なぜ短距離の宮澤が長距離を走っていたかというと、慶應志木の競走部には短距離部門がなかったからだ。

高校受験を頑張るため、中学は卓球部

宮澤は小学校のころから足の速さが際だっていた。慶應志木高に入学した際、短距離部門がなくても競走部に入ることに迷いはなかったという。宮澤は短距離だけでなく、1500mやシャトルランなどでも校内トップだったからだ。

競走部の同期は17人。宮澤は高校入学と同時に即戦力として、公式戦に出た。根岸さんは入部したときの3000mタイムトライアルで、宮澤に大きく水を開けられたことをいまでもよく覚えているという。100、200mなどでも歯が立たなかった。現在の宮澤のベストは、200mが21秒79、400mは48秒13だ。「TMほど400mがここまで速くて、長距離も走れるランナーはなかなかいないと思います」と根岸。「TM」とは宮澤剛史のイニシャルからとったニックネームである。

学業でも抜かりはなかった。宮澤は高校受験に向けた勉強時間を確保するために、中学校では比較的練習が少ない卓球部を選んでいた。努力が実り、慶應志木高に合格した。

医学部は最初から目指していた学部ではなかったという。高校で優秀な成績を修めるようになり、1学年で成績上位7人に認められていた慶應義塾大学医学部の内部進学が射程圏内に入ってきた。「ここまで成績が上がってきたなら、頑張ろう」。宮澤は高3になってから、さらに多くの時間を学業に費やした。

最後の埼玉県高校駅伝で、5区を走る宮澤

それでも同期と走れるラストイヤーだからという思いで、駅伝に合わせて体をつくってきた。高校の引退レースとなった2月の埼玉県駅伝では、宮澤と根岸は襷(たすき)をつなぎ、慶應志木は16位。その駅伝は「いまでも思い出深い」と宮澤は言う。競走部の練習と両立しながら学業に取り組み、医学部への内部進学をつかんだ。

生活にメリハリをつける

「競技と学業の両立で難しいことは、限られた時間の中で両方を極めることだと思います。両者はトレードオフの関係です。競技に専念すれば学業が疎かになり、逆もまた真なりです」。宮澤はこう言いきる。

医学部で実習中の宮澤。白衣姿もパリっと凛々しく

医学部5年生になったいまも実践していることは、日々の生活にしっかりとメリハリをつけること。勉強の時間は勉強に専念し、練習時間は練習に全力で取り組む。そのためにも毎日コツコツと勉強を積み重ねることを怠らない。この積み重ねで、心と時間に余裕が生まれ、その時間をしっかりと練習につぎ込めるのだ。

そして大学で初めて、宮澤は短距離の世界に足を踏み入れた。

6年生の関東インカレで狙う、400m47秒台 慶大医学部・宮澤剛史(下)

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