陸上

連載:いけ!! 理系アスリート

6年生の関東インカレで狙う、400m47秒台 慶大医学部・宮澤剛史(下)

慶應は5月の関東インカレにて、男子2部の1600mリレーで3位になった(左端が宮澤、写真は慶應義塾大学体育会競走部提供)

連載「いけ!! 理系アスリート」の第15弾は、慶應義塾大学医学部5年生で、競走部に所属する宮澤剛史(慶應志木)です。5月の関東インカレでは1600mリレーで3走を担って3位となり、チームの1部復帰に貢献しました。後編では高3で内部進学で医学部進学を決めた宮澤の大学生活についてです。

TMは高校時代から短距離も長距離も強かった 慶大医学部・宮澤剛史(上)

長距離で養った体力面とメンタル面を短距離でも

慶應志木高の競走部は長距離部門しかなかった。それで宮澤は短距離を志しながらも長距離に取り組んでいた。慶大に進むと迷わず競走部へ。慶大医学部で学ぶアスリートたちは通常、全学部を対象にした「体育会競走部」ではなく医学部生だけの「三四会競走部」に所属する。宮澤も三四会競走部の門を叩いた。

長距離をやめることに抵抗がなかったわけではない。1500mで4分10秒を切ったり、5000mを15分台で走ったりという目標には届かなかった。それでも宮澤自身は、高校3年間で長距離はやりきったという思いがあったという。また医学部生として学業に割く時間が増えるのであれば、高校のとき以上のパフォーマンスは難しいのではとも考えた。

三四会競走部の仲間たちと(写真は慶應義塾大学三四会競走部提供)

それなら長距離に区切りをつけよう。心機一転、短距離で勝負する決意をした。400mを専門とした理由は、自信のあるスプリント力と、高校時代に鍛え上げた体力面とメンタル面を生かせると考えたからだった。

戦線離脱して知った自分の欠点

平日は朝から、医学部のある信濃町キャンパスで実習と講義がびっしりだ。普段の平均睡眠時間は6時間。レポート提出や試験前などは徹夜することもある。週末には練習に参加するために日吉のグラウンドに通うが、平日はなかなか難しい。その分、ひとりで朝晩に走り込む。その努力の成果もあり、宮澤はめきめきと力をつけ、東日本医科学生総合体育大会や全関東医歯獣医科大学対抗など、医学部生を中心とした公式戦で好結果を残した。

宮澤が大学2年生の時、慶應は東日本医科学生総合体育大会で優勝した(左上が宮澤、写真は高木岳彦さん提供)

ただ、すべてが順風満帆だったわけではない。1年生の12月、スピード練習のあとに右の腸腰筋付近を痛めてしまい、1カ月ほど練習から離脱した。3年生の4月には、右のハムストリングスの肉離れで2カ月ほど休養を余儀なくなれた。そのときは痛める1カ月前から違和感があったのに、練習を続けていた。シーズンが始まったばかりの宮澤には焦りが募った。

走れない間、宮澤は体づくりに意識を向け、普段はできていなかったフォームチェックにも取り組んだ。仲間が撮影してくれた動画を見ると、ムダな動きがあることに気づけた。それ以降、コンパクトな走りを心がけるようになったという。3年生の5月末からやっと練習を再開し、レースに戻れたのは7月中旬だった。

ラグビー部前主将の古田とも励まし合った

三四会競走部に所属する学生は4年生の秋を区切りに、競技を続けたい人は体育会競走部に移籍する。宮澤も昨秋までは三四会競走部で走っていたが、体育会競走部に移った。

医学部5年生の宮澤には進路の選択が迫っている。スポーツに取り組んでいた医学部生の多くは、整形外科に進む傾向がある。宮澤が尊敬する慶應OBでチームドクターの高木岳彦さんも、その一人だ。宮澤は「まだ進路は決めてませんけど、確かに整形外科にも興味がありますね」と、尊敬する先輩に熱視線を注ぐ。

白衣を着て、颯爽と慶應病院内を闊歩(写真は本人提供)

その高木さんは学生時代、三四会競走部と体育会競走部の両方に籍を置いていた。当時を振り返り、高木さんは「陸上は基本的には個人競技なので、講義のカリキュラムや試験期間がほかの学部と違っても、自分の空き時間に一人で練習をすることはできます。だから、そこまで両立は厳しくないです。逆に言えば、しっかりと自立しないと技量を向上させていくことは難しいです」と話している。

逆に団体競技だと難しさが増すと、高木さんは考えている。それは宮澤も感じていることであり、だからこそ昨シーズンにラグビー部主将だった古田京(きょう、5年、慶應)やボート部の医学部同期らを尊敬し、互いに励まし、またパワーもらいながら、文武両道に挑んできた。

多忙を極める最終学年、明確なモチベーションが命

宮澤には、お似合いの白いアイテムが二つある。ひとつはパリッとアイロンのかかった白衣だ。腕の部分には慶應のシンボルマークである「ペンマーク」が入っている。180cmと長身なこともあり、白衣を着てさっそうと歩く姿は、学生ながら貫禄がある。

もう一つは、くるぶしの上まである白ソックスだ。走る時はいつもこの白ソックスを履く。子どものころからの習慣だ。最近のランナーはくるぶしの下までの短いソックスを履くケースが多いため、足元を見ればすぐに宮澤だと分かる。SNSでも「あの白ソックスの頑張りが……」などとつぶやかれているほどだ。今年初めて参加した関東インカレでは、1600mリレーで3走を任されて3位に食い込み、慶應の1部復帰に貢献した。そのときも、いつも通りの白ソックスで疾走した。

高木さんは宮澤についてこう語る。「まだまだ粗削りで、伸びる要素はたくさんあります。記録が伸ばせる可能性も大きいです」。さらに精神面については「来年は最終学年で、卒業後の病院も決める時期に入り、病院実習も忙しくなります。宮澤自身がいかに明確なモチベーションを持って競技に臨めるかも、大事になってくると思います」と、エールを送る。

400mのレース前、緊張で高まる胸を押さえながら「大丈夫、大丈夫」と宮澤(写真は本人提供)

大学入学当初、宮澤の400mのタイムは51秒台だった。それがいま、48秒13まできた。「走る前はめちゃくちゃ緊張するタイプなんです」と話す宮澤はスタート前、手を胸に当てて「大丈夫、大丈夫」とつぶやく。1部で挑む最初で最後となる来春の関東インカレでは、長身を生かしたダイナミックな走りで夢の47秒台を狙う。

最後に、「学業との両立が難しい」とスポーツに取り組むかどうか迷う後輩たちに、アドバイスを求めた。「絶対に医学部との両立も不可能ではないです。すべてが生活の一部で、車の両輪となるはずだから」。それは宮澤自身が大学生活の中で身をもって体験してきたことでもある。

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