ラグビー

連載:いけ!! 理系アスリート

数学に苦しみつつ両立、ラグビー観をSNSで発信 早大教育学部数学科・岸岡智樹(下)

岸岡はSNSで丁寧に自分のラグビー観を説明している(撮影・斉藤健仁)

連載「いけ!! 理系アスリート」の第16弾は、早稲田大学教育学部数学科4年生で、ラグビー蹴球部のSO(スタンドオフ)をして活躍している岸岡智樹(東海大仰星)です。2回の連載の2回目では、同世代を代表する選手のひとりである岸岡が、ハイレベルな数学という壁にぶつかり、どうやってラグビーとの両立を果たしてきたのかに迫ります。

多忙な上、ほとんど分からない授業もあった

2016年春、高校3冠いう実績を携えた岸岡は念願かなって早稲田大学に進学し、もちろんラグビー部の門を叩いた。

いきなり大学生活に挫折しかけた。「本当に、このままやっていけるのか……」。朝6時からグラウンド脇の部屋でウェイトトレーニング。大学に行って9時に始まる1時限目から授業を受け、午後3時半ごろにグラウンドに戻ってくる。すぐに着替えて4時から練習が始まり、個人練習も含めて7時ごろまでという忙しさだった。

正確で飛距離の出るキックも岸岡の持ち味だ(撮影・斉藤健仁)

さらに岸岡を苦しめたのが数学だった。「計算が得意」という軽い気持ちで数学科を選んだが、教育学部数学科では90分の授業で一つの数式の証明に取り組むことが多かった。「高校の数学とはまったく違うので、何をやっているのかほとんどわからない授業もありました」。しかも、出席などの平常点などはほとんど関係なく、試験で一発勝負というケースがほとんどだった。

寮生活も初めてであり、最初はそれもややストレスとなっていた。試験前には、同部屋だった2人の先輩に配慮して、食堂で夜中まで勉強していた。午前4時まで勉強し、2時間弱しか寝ずに、6時からのウェイトトレーニングに参加した日もあった。このまま4年間やっていく自信が持てず、岸岡は学部内での転科や、もう1度ほかの学部を受験し直した方がいいのでは、とも考えるようになっていた。

授業中に必死で理解、同級生と助け合った

「練習が終わって寮に戻ってきてから勉強する時間も体力もなかった」という岸岡。90分の授業の中でどうにか理解することに努めた。すべて理解できたわけではなかったというが、月曜日から土曜日の授業のすべてに出席し、教授とコミュニケーションを取り、同級生と助け合う中で、どうにかギリギリの単位を取得することができていった。

一番つらかったのは、シーズンが終わったあとの1月だったという。ほかの学部のラグビー部員はオフとなるが、岸岡にとっては1月末からのテストに備えて、しっかりと勉強をしなければならない時期と重なる。一緒に遊びにいったとしても「やることが残ってる」と思うと、遊びに集中できなかった。

苦しい時期もあったが、逃げずに文武両道を貫いた(撮影・篠原大輔)

3年生が終わる時点で100単位以上を取得し、残りは20単位ほどとなり、どうにか4年間で卒業できるメドは立った。まずは4年生の春学期は、秋にラグビーに専念するため、できるだけ多くの単位を取ることに専念した。

現在、岸岡は「代数幾何」のゼミに所属している。まだ卒業論文のテーマは決めていないが、先輩たちは暗号を数式で証明したり、5~6語の英単語をしりとりを最も長くつなげていくにはどうするかという研究をしたりしていた。自分ひとりで書いてもいいし、複数人で取り組んでもいいという。

ラグビーをプレーにするあたり、理系で学んでいることのメリットがあるか聞くと、岸岡は言った。「数学の証明は人に説明しないといけないので、論理的思考力がつきます。ゴールがある中で筋道を立てて、物事をかみ砕いて分かりやすく人に伝えるのは、コミュニケーションスポーツであるラグビーにも役立ってると思います」。今年6月に教育実習に行って、母校で高校生に数学やラグビーを教えたことで、より、そう思うようになったという。

理系学部・学科で学びながら部活を頑張っているアスリートに対して、どう思っているかを尋ねた。岸岡は「やっぱり同じ苦しみというか、勉強も部活も頑張っているということがわかるので親しみは覚えます。ただ僕は工学部ではないので、1日中、実験や研究で拘束されないので、まだ時間がある方だと思います。実験とか研究がびっしりある中でも頑張ってるアスリートは尊敬します」と目を細めた。

大学3年生までは「大学卒業後にラグビーを続けるかどうかはわからない。考え中です」と言っていた。実際に就職活動をして、IT系の企業に内定ももらったという。ただ、いまは「大学卒業後もラグビーを続けるつもりです」と言いきる。来年度以降もトップリーグでプレーを続行する決意を固めた。

卒業後もプレーを続ける気持ちを固めた(撮影・斉藤健仁)

チームの司令塔として11年ぶりの大学日本一へ

6月に母校での教育実習を経験し、セカンドキャリアの一つとして「教師もいいかもしれない」とも思うようになった。最近では自分のラグビーに対する意見や考えが少しでも人の役に立てばとSNSなどでも積極的に発信するようになった。

秋はもちろんラグビーと卒業論文に集中するつもりだ。昨年度、早稲田は岸岡の活躍もあり、8年ぶりに関東大学対抗戦Aグループで優勝を飾った。だが、大学選手権準決勝でライバル明治に敗れた。岸岡の最終学年の目標は大学選手権優勝、つまり日本一である。「今年こそは、という思いはあります。最後は大学ラグビーの集大成として優勝したい」と、静かに闘志を燃やしている。

ゲームコントロールに長けた頭脳派の司令塔は、最後まで文武両道を貫きつつ、早稲田大学ラグビー蹴球部を11年ぶりの大学日本一に導けるだろうか。

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