バスケ

連載:いけ!! 理系アスリート

移動時間は勉強の時間、メリハリつけて両立 青学大理工学部・佐野龍之介(下)

春の新人戦、反省もあったが佐野(左端)は果敢にゴールアタックを仕掛けた(撮影はすべて青木美帆)

連載「いけ!! 理系アスリート」の第17弾は、青山学院大学理工学部で学びながら少数精鋭の男子バスケットボール部で奮闘する佐野龍之介(2年、厚木東)です。数学の教員になることを夢見て進学した佐野は4年間をバスケにかけ、卒業後に通信教育などで教職課程をとる道を選びました。2回の連載の後編は、理系の学びとバスケを両立するための佐野の日常についてです。

バスケで挫折せずして先生になるべからず 青学大理工学部・佐野龍之介(上)

練習を抜け出し、ひとり授業へ

青学男子バスケ部の21選手のうち、理系学部は佐野を含めて2人だけ。チームは文系学部の都合に合わせて活動するため、佐野らはさまざまなやりくりをしながら学生生活を送っている。例えば水曜日はチーム練習を1時間ほどで早退し、授業へ。

「青学では水曜日は午前中しか授業がないので、チームの練習も午後3時半くらいからスタートするんですけど、なぜか理工学部だけは午後にも授業があるんです(笑)。4時半くらいになると『すみません、抜けます』と。授業が終わると練習も終わってるんで、先輩たちと一緒にトレーニングをしてます」と佐野。1年生のときは金曜日の練習は遅刻で、土曜日午前の練習にはすべて参加できなかった。

チーム練習に出られない分を補うために、コーチの指導内容をチームメートに確認し、空き時間に自主練習で課題をつぶしておく。チームが練習場所のひとつとする相模原キャンパスのアリーナは、基本的にバスケ部専用。そして理工学部生の佐野はいつもこのキャンパスで授業を受けている。「みんなが青山キャンパスから移動してくる間や、授業の空き時間に自主練ができるのは有利なところですよね。なんせ体育館をいつでも自由に、しかもひとりで使えるんで」。佐野はそう言って笑った。

文系学部とずれる試験期間

試験期間が文系学部とずれるのは、結構やっかいだ。出席回数やレポートも評価の対象になることが多い文系とは違い、理系は原則、一回のテストの点数で成績が決まる。にも関わらず、理系学部のテストは大学が定めた試験期間とは別になることがままあるという。

「期末試験の前後は練習も休みになるんですけど、数学の場合、試験期間でなく最後の授業にテストするという先生が多いんです」と佐野。テストが近付くと、朝5時起きでテスト勉強、深夜0時半ごろに帰宅してから勉強し、2時半に就寝というハードな日々が続く。

睡眠時間と自主練やトレーニングの時間を確保しつつ、勉強もおろそかにできない。そんな事情から、佐野には普段の移動時間を有意義に使う意識が芽生えている。自宅から相模原キャンパス、相模原キャンパスからメインの練習拠点である青山キャンパスの移動時間はともに1時間程度。この時間で参考書を読んだり、スマホに撮影したノートを見返したり、数学の問題を解いたりしながら過ごす。「数学の問題を解く」という作業は、あくまで頭の中でやるのだという。「解き方を頭に入れるって感じですかね。『この流れだったらこっちの式を使った方がスムーズだな』とか、そういうことを考えてます」

純粋な数学を極めることが何より楽しいと目を輝かせ、液体系の実験はあまりおもしろくないと渋い顔。佐野の価値観は、高校時代に数学で2点の答案を拝受した筆者にはまったく理解しがたいが、バスケも学業も手を抜かない姿勢を貫き、一般学生に混じって平均以上の成績をキープしている。

プレーと声掛けで存在感を示す

今年6月4日からの新人戦で、佐野は大学入学後、初めてまとまったプレータイムを得た。プレーしたのは、登録ポジションのガードではなくパワーフォワード。主力選手の欠場を受けて、身長180cm、体重80kgの体格で、190cm超の選手たちと対峙するという大役をまかせられた。しかし佐野はチームに190cm超の選手がいなかった厚木東高校時代から、こういった役割には慣れている。とくにディフェンスでは相手にしつこく食らいつき、恐れることなくボディコンタクトやハンドチェックを繰り出すことで、対等に戦えた時間も長かった。

春の新人戦では身長2mの留学生センターとマッチアップする場面もあった

「ディフェンスで相手の嫌なところを突いたり、オフェンスで外に開いて仕掛けたり。背は高くないですけど、まあまあプレーできたのかなって思ってます。自分の存在価値もある程度見えてきました」

練習すら参加させてもらえなかった時期を乗り越え、ようやく持てた手ごたえ。佐野は目の上にアザ、腕に幾多のひっかき傷のある状態で、大会を振り返った。表情には充実感がにじみ出ていた。

ベンチでもキャプテンとして仲間を引っ張った。力強い声掛けを欠かさず、タイムアウトでコートの選手が戻ってくるときは一番に出迎えた。どちらかというと感情を表に出す選手が少ない青学で、佐野の存在は際立っていた。「廣瀬さん(昌也ヘッドコーチ)はそこを評価してくれて使ってくれてると思います。3、4年生が加わったメンバーでも、自分の武器として大切にしたいです」と話した。

そして8月24日から、リーグ戦が始まった。新人戦のときに「まずはベンチに入らないと話にならない」と最低限の目標を話した佐野は、これを達成し、シックスマン(6番手以降の控え選手)としてゲームの流れを変えられる選手になるという次の目標に向け、日々を過ごしている。

ベンチでも佐野(左端)は自分ができることに意識を向け、実践している

「文武両道って言うのは簡単ですけど、実際は簡単なものではありません」。佐野はそのことをきちんと理解している。だからこそ両道を達成するために「ここは絶対、っていうポイントを外さないようにして、メリハリをつけてやっていきたいです」と、自分なりの方法論を確立している。挫折も成功も創意工夫も、すべてひっくるめて大きく成長し、魅力的な先生として子どもたちを導く日が、いまからとても楽しみだ。

いけ!! 理系アスリート

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