陸上・駅伝

連載:M高史の陸上まるかじり

山本有真が28年ぶりの学生新、世界陸上日本代表も ホクレンDC士別・深川・千歳

ホクレン・ディスタンスチャレンジ2022ライブ配信の実況を務めさせていただきました!(右から5人目がM高史さん、写真提供・すべて日本陸上競技連盟)

今年で20周年を迎えたホクレン・ディスタンスチャレンジ。昨年に続いて私、M高史は今年も大会ライブ配信にてホクレンDCディレクターの河野匡さんと実況をご一緒させていただきました。

ホクレンから世界陸上へ! 佐藤圭汰や金子魅玖人も出場した20周年記念大会リポート

皆さんに少しでも喜んでいただけるような実況を

実況に向けて、事前に選手の情報や最近出場したレースなどをチェックします。レース中はラップ、通過タイム、離れた選手との差などをお伝えしていきます。河野さんからもタイム計測などお褒めの言葉をいただき、学生時代にマネージャーで培ったことがここで生かされていると嬉(うれ)しく思いました!

河野さんは何をご質問しても分かりやすく的確に解説してくださるので、安心して務めさせていただきました(笑)。僕の方では、主役である選手の皆さまの現状打破っぷりをいかにライブ配信をご視聴いただく皆さんに丁寧にお伝えできるかを意識していました。そして、選手のご家族、中学や高校の恩師、チーム関係者の方、ファンの皆さんがご覧になっていると思い、細かく選手のお名前を挙げたりラップを計ったりして、皆さんに少しでも喜んでいただけるような実況したいという思いでお話させていただきました。

今回のレポでは第1戦から第3戦までを一挙に振り返ります。たくさんの選手が現状打破されていましたので、7月15日開幕のオレゴン世界陸上代表選手と現役大学生を中心に書かせていただきます。

ホクレンDCディレクターの河野匡さん(右)と実況席でご一緒させていただきました

初戦・士別から世界陸上代表も続々登場!

7月2日(土)初戦となった士別大会。士別市陸上競技場を舞台に今年もホクレン・ディスタンスチャレンジが開幕しました。

女子1500mには田中希実選手(豊田自動織機)が登場。4分07秒79でヘレン・エカラレ選手(豊田自動織機)に続いて2位となりました。6月の日本選手権で2位になる確実に力を伸ばしている後藤夢選手(豊田自動織機)が4分09秒41で3位、木村友香選手(資生堂)が4分09秒79と4分10秒を突破し、ハイレベルな女子1500mとなりました。

また、女子1500mBには今年のホクレンで唯一、中学生の出場となった一兜咲子(ひとつかぶと・さきこ)選手(杉並大宮中2年)が出場。昨年、中学1年生ながら4分32秒60をマークし、昨年の中1ランキングでは全国トップだった一兜選手。実業団選手や大学生に果敢に挑戦しましたが、4分44秒67で13選手中13位という結果に終わりましたが、この経験はきっと今後のレースや競技人生につながっていくことでしょう! 会場からも拍手が送られました。

男子3000mでは遠藤日向選手(住友電工)がハイペースを刻んでいきます。終盤、ややペースが落ちましたが7分52秒50でトップ。

遠藤日向選手(右)は3000mと5000m Aに登場。世界陸上に向けて順調な仕上がりを披露されました

レース後、遠藤選手は「個人的には7分40秒から45秒の間で世界陸上に向けていけたらいいなと考えていたのですが、実力が足らず早い段階でキツくなってしまい、後半一人になってからもペースを上げられず、ちょっと悔しい結果に終わってしまいました。残り2週間強、世界陸上まであるので、しっかりベストパフォーマンスを発揮できるようにこれから体調を戻していけたらなと思っています」と世界陸上に向けてお話されました。

遠藤選手はランニングフォームで意識していることについての質問が向けられると、「僕の場合、腕振りを重要視するタイプで、横ではなく縦で振ることを常に意識して走っています」と、中学生からのインタビューに丁寧に答えていました。

河野さんも「日本の選手が世界の舞台で対等に戦える姿を3000m障害(SC)で三浦龍司選手(順天堂大3年、洛南)が示してくれて、遠藤選手が示してくれると後に続く若手、前後の選手たちも勇気づけられると思いますし、そういった循環が(東京)オリンピック以降続いてほしいですね」と期待されていました。

男子5000mBでは田村和希選手(住友電工)が13分39秒11と復活を印象づける走りでトップ。大学生では早稲田大学の井川龍人選手(4年、九州学院)が13分48秒40で2位、同じく早稲田大学の石塚陽士選手(2年、早稲田実業)が13分48秒81の自己新で3位と、花田勝彦監督を迎え新体制となった早稲田大学ですが、エースの走りが光りましたね。

男子5000m Bでは井川龍人選手(前から2人目)、石塚陽士選手(前から人番目)も好走

男子5000mAでは3000mSCでオレゴン世界陸上出場が決まった山口浩勢選手(愛三工業)が猛烈なラストスパートで追い上げ、13分33秒45。自己記録まであと2秒ほどにせまる走りで、世界陸上に向けて順調な仕上がりを見せました。

世界陸上3000mSC代表の山口浩勢選手(76番)は強烈なラストスパートで日本人1位に

遠藤日向選手が3000mに続いて再び登場。3000mが終わって5000mAまで約1時間という中、同じ住友電工の加藤淳選手に檄(げき)を飛ばしながら、13分35秒59。まるでペース走のような余裕度で走られていました。加藤選手も遠藤選手の檄を受け、必死のラストスパート。最後は足がもつれそうになりながら、13分37秒44と魂の走りを見せました。

深川3000mには田中選手、山中選手が登場

続いては第2戦、深川市陸上競技場で開催された深川大会は7月6日(水)についてです。

女子3000mには初戦の士別大会に続いて、再び田中希実選手が登場。1000mは3分00秒という入りでしたが、中間を過ぎてペースアップ。ラスト1000m2分46秒1、ラスト400m62秒6(いずれも手元の計測)まで加速。田中選手は8分42秒66で優勝を飾るとともに最終的には自らの日本記録にあと2秒と迫るタイムまでペースを上げられました。

田中希実選手は後半になるにつれてギアを上げて、自身の日本記録に迫る走りを見せました

レース後、田中選手は「ラストを大事にして結果的にタイムがついてきたらいいなと思っていました。日本記録はならなかったのですが、8分45秒を切ることはできたので最低限のレースはできたかなと思います。後半にいかに余力を残すかとラストの1周をいかに大事にするかということを考えていました。まだ準備段階ですが、自分の力の確認ができたので、これよりもう一段階力を上げた段階で臨めば1500mも5000mも決勝を狙っていけるかなと思うので、そこを大事にしていきたいです」と冷静に自身のレースを分析されました。なお、田中選手はこの深川大会の後に800mでも追加代表が決まり、3種目でオレゴン世界陸上に挑みます。

また、女子3000mには3000mSCで世界陸上代表入りが決まった山中柚乃選手(愛媛銀行)も出場。9分13秒06と自己新で世界陸上に向けて弾みとなる走りとなりました。レース後、山中選手は「世界陸上に向けて、昨年の東京オリンピックは出るだけで終わってしまったので、世界陸上では日本記録更新を目指して精一杯走ってくるつもりです」と意気込みを話されました。

山中柚乃選手(中央)はレース後、実況席でインタビューにも応じてくださいました!

実況席の河野さんからも「本番に強い選手ですし、大きな試合でも力を発揮できる選手です。日本記録更新を狙ってほしいですし、世界の選手としっかり戦ってきてください」と山中選手にエールが送られました。

大学生では、中央大学コンビ、國學院大學コンビが好走します。5000mAで中央大学の中野翔太選手(3年、世羅)が13分43秒53と自己新、吉居駿恭選手(1年、仙台育英)が13分47秒74と好走を見せます。10000mBでは國學院大學の中西大翔選手(4年、金沢龍谷)が28分30秒47、山本歩夢選手(2年、自由ケ丘)が28分48秒68で日本人ワンツーでフィニッシュ。

10000mAでは小林歩選手(NTT西日本)が28分08秒06と自己記録を僅(わず)かに更新。日本人2位以下を大きく引き離しこの条件下での自己記録更新。

気温と湿度がやや高く10000mで記録を狙うにはやや厳しいコンディションの中、タイム以上に力を発揮されました。

北見で道下選手がアジア新!

続いては第3戦、7月9日(土)に北見市東陵公園陸上競技場で行われた千歳大会についてです。この日は気温も1戦、2戦に比べても気温が低く(夕方で21度)、風もそこまで強くなく走りやすいコンディションとなりました。

男女同時スタートなったブラインドT11~13の部。女子5000mでは道下美里選手(三井住友海上)が自己記録18分48秒96を大幅更新して18分21秒75。アジア新記録をマークし、昨年の東京パラ女子マラソン金メダルからさらに進化されています。

ブラインド5000mの場内アナウンスは山口遥選手(AC.KITA)が担当。ご自身も女子5000mAに出場(11位、15分52秒97)しましたが、「アナウンスの方が緊張しました」とコメント。選手の情報を丁寧にまとめて、観客の皆さまに向けて応援しやすいようにアナウンスされていました。

ブラインド5000mの場内アナウンスは山口遥選手が担当。その後に選手として女子5000mAでも好走されました

中央大学の山平怜生(やまひら・れい)選手(2年、仙台育英)が男子5000mのC組トップ。13分51秒20と自己記録(14分04秒18)も大きく更新しました。関東インカレ1部ハーフマラソンで3位に入るなどロードで強さも発揮した山平選手が、5000mでも記録を伸ばしてきました。実はこの好記録をアシストしたのが大石港与選手(トヨタ自動車)。7月4日に中央大学のコーチ就任が発表されたばかりの大石選手が「大石コーチ」として山平選手を引っ張り、背中で見せるコーチとしての初仕事を果たしました。

男子5000mCでは山平選手がトップ(252番)。駅伝シーズンでの活躍も期待ですね!

男子5000mBでは城西大学の山本唯翔選手(3年、開志国際)が積極的な走り。レース後半に集団から抜け出し、実況席の河野さんからも「走りが軽いですね」と高評価。惜しくもラスト1周に入ってから後方集団に追いつかれて13分54秒49の7位となりましたが、自己記録を更新。距離が伸びても楽しみな選手ですね!

女子3000mで山本選手が学生新!

ホクレン特別協賛ということで女子は「ミルクランド女子3000m」、男子は「ほくれん丸男子3000m」として開催。日本陸連の強化として3000mを強化することで、5000mや10000mの選手にとってのスピード強化、1500mの選手にとってはスタミナを強化するプロジェクトレースという位置付けです。

ミルクランド女子3000mでは実業団に所属する外国人選手や高校の留学生のペースアップに対応した後藤夢選手(豊田自動織機)が8分49秒65の自己新で3位に。名城大学の山本有真選手(4年、光が丘女子)が日本学生新記録となる8分52秒19で6位となりました。従来の学生記録は1994年に斎藤雅子さん(当時・中央大学)の8分58秒34でしたが、実に28年ぶりの更新となりました。

ほくれん丸男子3000mでは1500mの前日本記録保持者・荒井七海選手(Honda)が抜け出し、7分48秒50で優勝。その後に服部弾馬選手(トーエネック)が7分51秒10で続きました。荒井選手は第4戦・網走、第5戦・千歳ではペースメーカーとして登場予定とのことです。「残り2戦は自分の走りではなくて、日本の中距離のためにしっかり走っていきたいと思います」と、熱く日本中距離界を牽引(けんいん)されています。

女子5000mには名城大学の小林成美選手(4年、長野東)が出場。この日は予定通り3000mを9分22秒(手元)で通過したところでレースを終え、トラックや競技役員の皆さんに一礼。走りからも調子も上向いていることが伝わってきました。小林さんはオレゴン世界陸上女子10000m代表に決まっていましたが、出発直前に新型コロナウイルス感染症の検査で陽性が判明したため、派遣見送りとなりました。

選手の皆さんの熱い走りを実況させていただきました!

選手たちの朝練やアップにも個性あり

余談ですが、宿泊先の近くで朝練をしていると、出場する選手の皆さんも朝練をされています。体調を確かめるようにゆっくりしたペースで走る選手、朝から軽快に走る選手など選手によってペースも変わります。河野さんにうかがったところ、「力を貯めたいという選手、特に1500m、3000mの選手はゆっくり目の朝練習をする場合が多いですね。5000m、10000mの選手はある一定のリズムで走ることがルーティンとなっていて、リズムを変えないで走る選手が多いですね。特にマラソン選手はリズム感をあまり変えないで走る選手が多いです」と教えていただきました。

さらにウォーミングアップについても「長い時間走る選手もいれば、体をほぐす運動にものすごく時間をかけて走る時間は短くという選手もいます。早めにあがって、しばらく休んで呼吸を落ち着かせてからスタートに着く選手もいれば、ギリギリまで呼吸を上げてかなり刺激を入れてスタートする選手もいるので、選手によって異なります。やはり自己記録が出たり、自分がいいパフォーマンスが出た時のレースを再現するのが選手の思うところですね」と、選手のウォーミングアップについても教えていただきました。

僕も走る際に参考にしてみようと思いました(笑)。

というわけで、今回はホクレン・ディスタンスチャレンジの前半戦、士別・深川・北見の実況レポでした! 

M高史の陸上まるかじり

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