陸上・駅伝

連載:M高史の陸上まるかじり

箱根5区候補から山のレジェンドまで集結! 強風の激坂最速王決定戦を走ってリポート

今年も「仮想5区」として山候補の選手たちが出場しました(提供記載以外、すべて大会事務局提供)

11月18日に「激坂最速王決定戦2023」が箱根ターンパイクで開催されました。普段は有料道路の箱根ターンパイク。この日だけは車やバイクのエンジン音がなく、選手の足音や息づかいが聞こえます。コースは片道13.5km、高低差は実に981m! 平均傾斜7%、最大10%の坂道が待ち受けています。10%ということは1km進む間に高低差が100mありますので、まさに大会名にふさわしい激坂です!

過去にはここから飛躍した選手も!

登りの部の他にも、コースを往復するピストンの部、2往復するWピストンの部、下りの部、ウォーキングの部とさまざまな部門が開催されました。

そして、今年も登りの部には、大学招待の部として年明けの箱根駅伝出場校が集まり5区の「山候補」の選手たちが激坂に挑みました。今回出場されたのは東洋大学、国士舘大学、山梨学院大学、神奈川大学、中央学院大学、駿河台大学、東京農業大学、立教大学の8校の選手の皆さんです。

スタート前に、各大学のコーチの皆さんにお話を伺うと「箱根本戦に向けて5区候補の選手たちの確認」とお話しされていました。もちろん各大学で山対策、上り坂の練習を採り入れていると思いますが、他大学の選手と走る機会はなかなかないので、参考になりますよね。

スタート直後から傾斜10%の坂が続きます(提供・髙木聖也さん)

昨年、この大会で2位に入った城西大学の山本唯翔選手(4年、開志国際)が箱根5区で区間賞を獲得。今季はFISUワールドユニバーシティゲームズ10000mで銅メダルを獲得するなどトラックでも強さを発揮しました。その山本選手を昨年の激坂で上回って優勝したのが、同じ城西大学の斎藤将也選手(2年、敦賀気比)でした。斎藤選手は前回の箱根本戦でエース区間の2区に登場。今季は全日本大学駅伝の4区で区間賞を獲得。10000mでも27分台に突入しました。過去にもこの激坂最速王決定戦を弾みに活躍する選手が出てきているので、今後飛躍する可能性を秘めた選手が力を試す機会にもなっている印象です。

箱根駅伝の「仮想5区」 激坂最速王決定戦を実際に走って、現状打破してきました!
OTTから激坂最速王決定戦まで 法政大OB・川北順之さんの陸上界への恩返し!

登りの部は国士舘大学・山本雷我選手が優勝

M高史はゲストランナーということで出場選手をスタート地点でお見送り。登りの部、第4ウェーブ、一番後方からのスタートとなりました。第1ウェーブから大学招待の部、そのほか一般の部でエントリーされたランナーさんが勢いよくスタートしていきました。

大学生の皆さんの走りを見ることができたのはスタート地点のみ。なので、どういうレース展開だったのかは直接見ておりません(笑)。リザルトからご紹介しますと、優勝したのは国士舘大学・山本雷我選手(4年、敦賀気比)。昨年のこの大会では5位に入っており、箱根本戦では過去に2度の5区を任され、2年時に区間13位、3年時は区間11位で走っています。今年はさらなる区間上位を目指していることでしょう! ちなみに、昨年の斎藤選手に続いて2年連続で敦賀気比高校出身の選手が優勝を飾りました。

登りの部を制した国士舘大学の山本雷我選手。箱根も注目ですね!

さて、レースの途中経過を僕は見ることができなかったので、同じコースを走ったM高史の感想を交えながらお話しさせていただきます。

記録的には例年より若干伸びなかった印象がありましたが、それもそのはず。今年は強風、特に後半の向かい風がキツく、下り坂の箇所でも押し戻されるほどでした。前半から中盤も基本的にはずっと向かい風で、時折、木が大きく揺れるほどでした。

大会ゲストは今年も神野大地選手。登りの部51分02秒という大会記録保持者でもあります。今大会はスタート地点でランナーさんにエールを送られていました。

スタート前には上り坂の走り方、腕のふり、目線、気持ちの持ち方など、現役選手らしい的確なアドバイスをされました。3代目・山の神でおなじみ神野選手からの攻略法ということもあり、ランナーの皆さんも真剣に耳を傾けておられました。

ゲストの神野大地選手。スタート前、選手の皆さんにアドバイスやエールを送られました!

参考になるレジェンドのレーススタイル

ゲストランナーでご一緒したのは法政大学OBの大村一さん(長野県塩尻市役所)。大村さんといえば、第77回箱根駅伝の5区で暴風の中、記憶に残る激走をされたレジェンド。ミスター激坂です!

僕が高校生の時にテレビで見ていた大村さんと一緒に走れるということで、すごく楽しみでした。

実は昨年もご一緒していて、そのときは大村さんが故障明けだったこともあり、わずかな差で僕が勝たせていただきました。今シーズンは大村さんの調子も良さそうでしたので、大先輩の胸を借りてチャレンジさせていただきました。

大村さんのレーススタイルは学生選手の皆さん、ランナーの皆さんにとっても参考になるかもしれません。スタートから勢いよく飛ばしていって、僕はそこで一気に差を開けられてしまいました。その後、いったん追いつくのですが、そこで意外と体力を消耗させられてしまいます。そして追いついたと思ったら、再びペースアップされて離されていきます。また近づいてきたと思ったら、ジワっとペースを上げられて、登りから下りに切り替わる瞬間も動きを一瞬で変え、スーッとペースを上げていかれます。結果的にはじわじわ離されて、最後まで追いつけませんでした。

熱い走りを披露した法政大学OBの大村一さん

前回の箱根5区でも逃げる駒澤大学・山川拓馬選手(2年、上伊那農)、追う中央大学・阿部陽樹選手(3年、西京)、両選手の走りは手に汗を握りました。詰められそうで詰まらないというのは、追う側ももちろん追われる側もきついですよね。山はカーブが多いため、直線では前の姿が見えるものの、カーブで見えなくなると気持ち的に堪(こた)えます。また見えてくると元気が出てくるので、体力だけでなくメンタルの強さも必要になってくるでしょう。そのあたりも応援やテレビ観戦で感じていただけると、面白いかもしれません。

結果的に大村さんが1時間04分36秒。M高史は1時間05分11秒でした。強風の中でしたが昨年の自分の記録をちょうど3分更新して激坂ベスト! 一方の大村さんは昨年の記録をなんと約4分更新されました!(昨年はM高史が1時間08分11秒。大村さんが1時間08分33秒)

M高史も登りの部に出場。選手の皆さんの気持ち、坂の傾斜、風などを体験させていただきました

登りに強く、強風にも立ち向かっていく姿勢は第77回箱根駅伝5区を彷彿(ほうふつ)とさせる激走でした。大学を卒業してからも大村さんの熱い魂の走りを拝見できるというのは、この大会の一つのだいご味だと思います。

現役の大学生はもちろん、過去に箱根の山区間を走った選手も、山候補だったけど惜しくも本戦を走れなかった方も、ぜひチャレンジして、4years.の続きに挑んでいただきたいですね!

レース後、大村さんと「このコースで1時間切りを目指して、大学生招待の部と一緒にスタートしたいですね!」と誓い合いました。

大村さんにとって4years.を過ごされたのはもう20年以上前のことですが、今も青春されています!「登りで人生が変わりました。僕にとってワクワクさせてくれるものです」と走り終えた大村さんの目は、少年のように輝いていました。なんと翌日には長野県縦断駅伝に出場されたそうです。なんというタフさ、鉄人ぶり!

女子は萩谷楓さんが総合優勝!

学生時代に箱根6区山下りに憧れていたものの、故障続きで走ることができなかった外村翼さん(放送大学関西)は、先日の箱根駅伝予選会に最年長の34歳で出場され、話題にもなりました。

この日は下りの部に出場。優勝を狙って走ったそうですが、苦手だという上り坂で先頭から離されてしまい、後半の10kmを28分04秒、特にラスト5kmは13分54秒でカバーする追い込みを見せましたが総合3位に。「来年は登りも鍛えて優勝を目指します!」とさらなる現状打破を宣言されました。

驚異的市民ランナーチームGRlab 代表・外村翼さんのランニング人生!
下りの部で総合3位となった外村翼さん(放送大学関西)。先日の箱根予選会では出場選手最年長(本人提供)

そして、なんと今大会には萩谷楓さんが一般参加で出場! 萩谷さんといえば東京オリンピックと世界陸上の日本代表。今年4月末に現役引退を発表され、驚かれたファンの方も多かったと思いますが、現在も楽しみながら走られているそうです。

登りの部・女子の部で総合優勝。タイムは1時間07分02秒で、女子の部では2位の選手に約7分、3位の選手に約15分の差をつける圧巻の優勝でした。スタート前とレース後には丁寧にごあいさつしてくださりました。ホクレン・ディスタンスチャレンジで、萩谷さんの走りを拝見していましたが、実際にお話しするのは初めてでした。

今年4月に現役を引退された萩谷楓さん。女子の部で総合優勝を飾られました!

今大会は風が強く、やや寒さも感じられるコンディションでしたが、出場選手の熱い走りで会場は熱気に包まれました。というわけで激坂最速王決定戦、出場リポートでした!

M高史の陸上まるかじり

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