陸上・駅伝

連載:M高史の陸上まるかじり

駅伝にトライアスロン、馬術も! タイム計測のプロ「計測工房」藤井拓也さんの思い

「計測工房」代表の藤井拓也さん。選手の記録を正確に計測し続けるプロフェッショナルです! (すべて本人提供)

今週の「M高史の陸上まるかじり」はマラソンや駅伝のタイム計測をされている計測工房の代表・藤井拓也さんのお話です。都立戸山高校から慶應義塾大学に進み、箱根駅伝予選会に出場。卒業後はタイム計測一筋の仕事をされています。

校内マラソンに燃えた中学時代

徳島県生まれの藤井拓也さん。ご家族の転勤の影響で静岡、熊本、大阪、東京と引っ越し続きの子ども時代を過ごしました。 

「小学5年生の時に東京に引っ越してきたら、校内マラソン大会がありました。練習シートを1マス塗りつぶすのが楽しくて自然と足が速くなっていき、長距離に向いているのかなと思って中学から陸上部に入りました」

中学で陸上部に入った藤井さんでしたが「陸上に夢中になっていたというよりも校内マラソンを目標にしていました。今思うとすごく小さい目標ですが(笑)。校内で目立てますし、アピールできると思っていました」。陸上の大会よりも校内マラソンが目標だった中学時代を送られました。

都立戸山高校でも陸上部に。「高校できちんと競技に向き合うようになりました。高校では800mを専門にしていました。中距離をやってみて思うのは、センスが問われる種目だなと。自分の実力のなさ、限界を思い知らされた種目でもありますね」。高校時代のベストは2分04秒。部員も少なく東京都高校駅伝に参加できたのは1年の時だけ。短距離のチームメートにも走ってもらったそうです。

慶應義塾大学では箱根予選会に出場

卒業後は慶應義塾大学へ。競走部の門をたたきました。「大学でも陸上を続けるつもりでした。慶應義塾大学は自主的に部活を続けるイメージが強かったです。当時はどちらかというと短距離が強い大学で、長距離は強豪校ではありませんでした」。大学では長距離の5000mや10000mに転向しました。

「長い距離の練習も好きでした。ただ、やはり箱根駅伝に出場するチームと比べると、長く速く走るのは難しかったです。当時は箱根駅伝出場というよりも箱根駅伝予選会に出場することを目標にしていました。予選会には1度だけ出場しました。ずっと目標にしていた大会でしたし、その舞台に立てた時はうれしかったですね。自分の力を出し切ろうと夢中で走りました。競技で結果は残せませんでしたが、すべてを捧げた4年間でした」。やり切った4年間だったと藤井さんは言います。

慶應義塾大学では4年間、長距離に取り組み、箱根駅伝予選会に出場

30歳で独立「一つの仕事の専門家として」

大学を出ると、スポーツイベントの企画・運営や専門誌「ランナーズ」の発行などを行う株式会社「アールビーズ」に就職しました。

「就職を考えた時にどういう道に進むか、何がやりたいかを考えていたのですが、陸上に関係する仕事がしたいなと思っていました。市民ランナー向け情報誌である『ランナーズ』の存在は当時から知っていました。大学4年生の時に『ランナーズ』の巻末を読んでいたら社員募集の告知広告を見つけました。当時は雑誌を出している出版社というイメージでしたが、タイム計測の事業もしているんだと知りました。ちょうどタイム計測の社員募集だったんです。ピンときて応募し、採用していただきました」。その後はタイム計測の仕事一筋となりました。

アールビーズ時代の藤井さん。この頃から計測一筋です

「入社して6年目、28歳の時にタイム計測の部署の責任者になったんです。2年間、そこで会社経営側やマネジメントの経験を積ませていただきました」。そして30歳になった時に独立の決断をします。

「今まで計測の仕事を夢中でやってきて、『一生やりたい』と思ったんですね。その場合は自分で独立して、計測の会社を作ってやっていこうと。それが一生やっていくという道ではないかと30歳の時に決意しました」。さらに藤井さんはこう続けます。

「プロフェッショナル、何か一つの仕事の専門家として、そういう生き方をしたいと思いました。(計測のやりがい、魅力とは)当時と今では多少違うかもしれないですが、計測だけを専門にしているのは珍しいです。自分の希少価値、存在意義を感じることがあります。これを一生極めてみたいなと」。アールビーズには8年半在籍し、2007年に株式会社計測工房を創業しました。

2007年に計測工房を創業しました

陸・海・山、さまざまな競技で計測

ランニング大会のタイム計測を中心に担っていますが、それとは違うジャンルの計測も手がけています。

「トライアスロンだと、スイムは海、湖、プールなどで泳いでから、自転車そしてランニングに移ります。マラソンの計測の時には経験したことがないトライアスロンの計測の奥深さを知りました。トレイルランニングの計測もやっています。マラソンに近いですが、マラソンとは比べものにならないほど長時間計測します。160kmのレースとか、競技時間がべらぼうに長いです(笑)。そういう計測の場合、20時間、30時間と計測し続けるノウハウも必要です」。トレイルランニングではスタッフの方も途中で休憩し、山中で寝泊まりするノウハウや装備も大事になってくるそうです。計測するスタッフさんも体を張っているんですね!

トレイルランニングの大会では長時間の計測をします
トライアスロンの計測はマラソンとは違う奥深さがあったようです

近年ではSUP(サーフボードの上に立ちパドルをこいで進む競技)の計測もしているそうで、海・山・陸の競技すべてを網羅しています。さらに、珍しい種目として一輪車マラソンと馬術も計測されるのだとか。

SUPの計測も行います。海、陸、山、どんな環境でも計測します!

「一輪車マラソンもトップはスピードも速くて、マラソンのキプチョゲ選手といい勝負をしますよ。馬術のエンデュランス競技、長距離種目の計測もします。長いと160kmを走る種目があります。タイムも測るのですが、他の競技と違って馬の体調管理もしなければなりません。スタートからフィニッシュまでの間に、馬を必ず休憩させなければいけないんです。160kmの場合、40kmごとに休憩させるのですが、その時間はタイムには含まれません。休憩時間に獣医師さんが脈を計って体調をチェックするんですよ。それに引っ掛かるとリタイアとなります。休憩時間を除いて測るので、特殊な計測方法になります」。まさにプロフェッショナルとして、藤井さんは依頼を受けた種目に全力を注いでいます。

馬術のエンデュランス競技。ルールに沿ってタイムを計測します

そして、創業当初から駅伝の仕事もされています。「陸上競技の世界では全日本大学女子駅伝、全国中学駅伝、春の高校伊那駅伝などの計測もしています。そのほか、各市町村など地元のローカル駅伝の計測が冬場は多いですね」。現在活躍している選手の皆さんが走ってきた駅伝も、実は藤井さんが計測していたということもありそうですね! さらに学校の校内マラソンの計測もされており、そのジャンルは多岐にわたります。

トレイルランニングに魅せられ、トレーニング再開

コロナ禍でマラソン大会やスポーツイベントが軒並み中止になった際も、再開後は小さな大会から計測し始め、乗り越えてきました。

「マラソン・ランニング以外の仕事も増えてきています。今までやってきたことをさらに続けて、計測会社として成長していきたいです。会社を少しずつ成長させていくのが僕がやるべき仕事です。僕がいなくなって会社がなくなってしまっては何の意味もないと思っていまして。僕が作った計測工房という会社を次の世代に引き継いでいきたいですね。いずれ僕が引退したとしても、次の世代に託せるまでやりきるというのが目標です」

全日本大学女子駅伝の計測風景

さらに最近、約20年ぶりにランニングを再開したという藤井さん。大学卒業後、ずっと走らないまま仕事に没頭してきたそうですが「トレイルランニングの仕事が増えてきて、山に行く機会が増えてきました。山を走る人を見ていると楽しそうに見えてきたんです」と言います。

20年間も走っておらず、いきなり山を走るのは無理ということで、最初は登山から始めました。そしてジョグ、さらにはインターバルトレーニングと練習の幅を広げ、トレイルランニングの準備に1年をかけたそうです。

トレイルランニングに刺激を受け、藤井さんも約20年ぶりに走り始めました

2019年夏に初めて山のレースに出場。「レースに挑むと気持ちも高ぶりますね!」以来、年に数回は藤井さん自身もレースに出場されているそうです。仕事に打ち込み、再び走る魅力を知った藤井拓也さんの挑戦は続きます!

M高史の陸上まるかじり

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