陸上・駅伝

連載:M高史の陸上まるかじり

環太平洋大学から全国、そして世界へ! 科学的根拠を裏付けに、全員が伸びるチームを

中距離界に新たな風を吹かせる環太平洋大学陸上競技部。写真は今年の日本選手権、U20日本選手権(すべて提供・環太平洋大学陸上競技部)

今週の「M高史の陸上まるかじり」は、いま中距離界に新たな風を吹かせている環太平洋大学陸上競技部のお話です。

今シーズンは学生の枠にとどまらず日本選手権に挑み、男子は前田陽向選手(2年、洛南)が800m3位に。髙嶋荘太選手(2年、中京大中京)は1500mに出場。女子は正司瑠奈選手(2年、就実)が1500mで決勝に進出、江藤咲選手(3年、大分雄城台)が800mに出場しました。U20日本選手権では男子800mで清水暖太選手(1年、宮崎北)が2位、杉本仁選手(1年、中京大中京)が8位に入賞。中距離での活躍はもちろん、男子は出雲駅伝と全日本大学駅伝に出場。女子も全日本大学女子駅伝に出場するなど、幅広い種目で活躍しています。

陸上部員は約400人、中長距離だけで120人近い大所帯

岡山市東区にある環太平洋大学は、山や木々に囲まれています。伺った11月末は秋も深まり、夕方になると一気に冷え込みました。 吐く息が白い中でも、選手の皆さんの熱さがグラウンドから伝わってきました。第1キャンパスにはジョグで最長約1.8kmほどをとることができる広大な敷地があります。

サッカー場で使わなくなった人工芝を敷き詰め、手作りのクロカンコースが出来上がりました! 選手たちはふかふかのクッションの上を走っているようです。

陸上部員だけで約400人。中長距離部員だけでも男女合わせて120人近い大所帯です。

自然に囲まれた広大なキャンパスにグラウンド。強くなるための環境がそこにありました

中長距離ブロックをご指導されているのは吉岡利貢コーチです。吉岡コーチは静岡大学を卒業後、筑波大学で体力学や運動生理学の研究を重ねてこられました。そして、2012年に環太平洋大学へ。今年で就任12年目になります。

「最初は駅伝をやるつもりで来たのですが、なかなか選手も集まらず苦しい時期もありました。2015年ごろから中距離に力を入れるようになり、そこからチームも変わっていきました」。その頃から吉岡コーチはエビデンスをベースにしたトレーニングを採り入れました。研究や論文で発表され、科学的根拠が裏付けられています。

「そこからうまくいくようになりました。メニューは毎年アップデートしています。完璧に説明できるメニューを心がけています。選手たちは4年間で格段に成長します。それが何よりうれしいことですね」

部員が多い中、試合や遠征もあり、一人ひとりに目を配るのは大変なはずです。ただ、「マンツーマンの指導よりも強くできると思っています。これだけ人数が多いと、同じ悩みを持った選手が必ずいますし、チーム内にたくさんの成功体験があります。これが人数の強みですね。今は『史上最高のチームを作ろう』をテーマにしています。全員が劇的に伸びることですね。上だけでなく全員がものすごく伸びるチームを目指しています」と吉岡コーチ。競技レベルに関わらず全員で上を目指そうというチームの雰囲気の良さが伝わってきます。

中長距離約120人の指導にあたる吉岡利貢コーチ(左)。理論的かつ選手とのコミュニケーションを大切にされています

また、駅伝ではある目標が生まれました。

今年の出雲駅伝では12位に食い込み、来年の中四国枠が増えることになりました。しかし、翌年の出雲駅伝出場権をかけた11月26日の中国四国学生駅伝ではまさかの途中棄権。増枠に大きく貢献した環太平洋大学が来年の出雲駅伝の出場権を逃すというまさかの結果となりました。それでも吉岡コーチ、選手の皆さんは前を向いています。

「過ぎてしまったことはもう変えられないので、後から振り返った時にこの経験が成長のきっかけになったと言えるようにしていこうと話をしましたし、そうできると信じています。そして、2年後の出雲駅伝に5000m13分台6名をそろえて関東の大学に挑戦しようという新たな目標を立てました」と吉岡コーチ。2025年の出雲駅伝に注目です!

スレッド走、バイク、坂ダッシュの3グループでトレーニング

吉岡コーチにお話を伺ったあと、練習にも参加させていただきました。

中距離ブロックの皆さんの冬期練習です。動き作りでは、一つひとつの動きを丁寧に。吉岡コーチが見守る中、漠然とやるのではなく、どういう意図で、走りのどの部分につながっていくのかを意識して行っているのが印象的でした。

ボックスを使ったトレーニング。吉岡コーチからは跳ぶタイミングなど丁寧なアドバイスをいただきました

ボックスやハードルを使ったジャンプなどで、選手の皆さんは軽やかな身のこなしを披露。続いて課題別に選手個人が吉岡コーチと確認しながら「スレッド走」「バイク」「坂ダッシュ」の3グループに分かれてトレーニングを行いました。

吉岡コーチから「力×速度=パワー」という式を教えていただきました。

重りを乗せたソリを引っ張ることで、主に力を鍛える場合が「スレッド走」。「バイク」では回転数をどこまで上げていけるか、ということで速度が鍛えられます。そしてフォームに課題がある場合に「坂ダッシュ」。簡潔に分けるとこのようになります。

M高史も全部、体験させていただきました!

まずは重りを引っ張って走るスレッド走。お隣の塩原希梨選手にスタートから置いていかれました(笑)

まずはスレッド走。昔、少年野球をしていた頃にやっていたタイヤ引きに似ています。自分の体重の半分の重さを乗せて、全力で走ります。実際にやってみると見た目以上にきついです。普段、鍛えあげている選手の皆さんが倒れ込んで、起き上がれなくなるほど。まさに現状打破ですね! 限界を突破するまで追い込むことが中距離選手たちにとって必要なのかもしれません。

続いて僕が大好きな坂ダッシュ! 皆さんすでに何本かこなしていたところ、2本だけご一緒させていただき、しっかりこなすことができました。学内にはものすごい急斜面、おそらくママチャリでも上れないような急坂があります。その坂道でダッシュをすることで、選手の皆さんのフォーム改善にもつながっているそうです。

キャンパス内の急坂で坂ダッシュ。フォーム改善につながるそうです

そして、最後にバイクに挑戦したのですが、選手の皆さんとの次元の違いを感じました。人の脚ってあんなに速く回転するんだというほど回っていました(笑)。僕は学生時代、駒澤大学でマネージャーをしていて、選手の伴走でひたすら自転車ばかりこいでいたので、バイクにはちょっとだけ自信があったのですが……。その小さな自信はコテンパンに打ち砕かれました(笑)。

どれだけ回転数を上げられるかが重要なバイクトレーニング。選手の皆さんとの差を痛感しました(笑)

練習に参加して印象的だったのは、男女が一緒にトレーニングしている姿でした。大学の陸上部、特に中長距離は男子部、女子部に分かれているチームが多いですが、設定ペースや本数は違えど同じトレーニング環境で切磋琢磨(せっさたくま)し、お互いを刺激し合っていました。

選手の皆さんにもインタビューしました!

練習後、選手の皆さんにもお話を伺いました。

北尾風馬選手(3年、鳥取中央育英)1500m3分51秒13
「中距離に特化しているのと、インスパイア(測定施設)などの施設も充実していますし、吉岡先生の科学的なアプローチで強くなれると感じました。先輩たちも結果を出しています。大学に入ってから知識もついて詳しくなりました。ランニングエコノミー、酸素最大摂取量などの数値が出るのもいいですね。印象に残っているメニューは1000m+800m+400m×2です。全力で走って、間はしっかりと休みます。実践的で、レースみたいに競い合いを楽しみながら、しっかり練習できます。今後の目標は日本インカレのA標準を切ることです。また、中長距離ブロックのキャプテンをしているので、人数は多いですが、一人ひとりとコミュニケーションをとって、チーム全体がいい雰囲気になるように務め上げたいです!」

江藤咲選手(3年、大分雄城台)800m2分06秒66
「短距離が強い高校にいたので、そこで培った力を生かして中距離を専門的にやれる大学を選びました。印象に残っている練習は250m×4本を2セットというメニューです。緊張感もありますし、全力なのでキツいですが(笑)。今後の目標は日本選手権入賞、日本インカレ優勝です。そして、大分県記録2分05秒69を更新したいです」

小林舞香選手(3年、東海大諏訪)800m2分07秒16、1500m4分19秒75
「中距離をやりたいと思って、高校の時に練習体験に参加しました。雰囲気が良くて、ここなら頑張れると思いました。人数も多くてみんなで高め合えています。印象に残っている練習は毎週水曜土曜にヒップという補強(臀部<でんぶ>周辺を鍛える筋力トレーニング)があって、数種目をたくさんやっています。今後の目標は日本選手権で入賞することと、1500m4分15秒切りです」

前田陽向選手(2年、洛南)800m1分47秒54、1500m3分44秒20
「駅伝よりも中距離をメインに本格的にやっていきたいと思って大学を選びました。高校時代は長距離中心で中距離の練習を専門的にはやっていませんでした。大学での練習では、スプリント能力も格段に上がりました。印象に残っているのは今年初めて出場した日本選手権です。挑戦の気持ちで3番以内も達成できました(3位、1分47秒54)。今後は日本選手権優勝を目標にしていますし、その後の東京世界陸上につながるようにしっかりやっていきたいです。いま中距離のレベルが高くなっていますし、チームの垣根を超えて、日本チーム一丸となって世界に挑んでいきたいです」

正司瑠奈選手(2年、就実)800m2分08秒86、1500m4分19秒84
「地元で競技を続けたいと思っていたのと、環境が整っているので環太平洋大学を選びました。施設が充実していたり、測定で弱いところを知ることができます。昨年の冬期練習は坂とバイクをやってきました。特に坂をやることでフォーム改善にもつながり、記録のアベレージも上がってきています。今年、日本選手権の決勝に残ることはできましたが、全然勝負できなかったので、来年はしっかり決勝で勝負したいです」

富田奈乃香選手(2年、済美)5000m16分15秒10、10000m34分00秒41
「個人でメニューの対応をしてもらえるので、自分に合ったメニューを組んでもらえます。長距離で中距離とはメニューが違いますが、男子の距離走などに合流させてもらうこともあります。(11月19日の10000m記録挑戦会で)自己ベストを 1分以上更新できました。5000m、10000mのどちらも日本インカレのB標準を切れたので、今後はA標準を狙っていきたいです。大学4年間で5000m15分台を出したいです」

杉本仁選手(1年、中京大中京)800m1分48秒87
「中学まで岡山に住んでいて、当時から週1回通わせてもらっていました。環太平洋大学を選んだのは源裕貴さん(現・NTN)が800mで日本記録を出されたことと、結果で岡山に恩返ししたいと思ったからです。春先、けがをしてからトラック練習をあまりやれていなくて、バイクトレーニングをメインにやりました。その後もバイクとトラックを交互に、けがのリスクも減らしながら取り組み、2年ぶりに自己ベストを更新しました。バイクが自分に合っていると感じましたし、実際に自己ベストが出たので今後も積極的に採り入れていきたいです。(バイクを取り入れると)ラストも動かしきれますし、粘ることができます。今後は(800m)1分46秒台を目標にしています。2025年の東京世界陸上が一番の目標です」

塩原希梨選手(1年、大塚)800m2分09秒4
「高校時代、練習に参加させていただいて、直感的に『自分はここで強くなれる』と思いました。吉岡先生も話しやすくてトレーニングについて具体的なアドバイスをいただけます。中学、高校までも顧問の先生とのコミュニケーションを大事にしてきました。大学に入ってから1000mを3本やるメニューで4本いけた時など、キツイですが、陸上ならではのやりがいを感じます。今後の目標は、早生まれなのでU20日本選手権を目指しています。また、日本選手権に出場して入賞というのが一つの大きな目標です」

今年の全日本大学女子駅伝に出場。中距離を専門にしている選手が多い中、全国の舞台に挑みました

環太平洋大学を選んだきっかけから、大学でのトレーニング、今後の目標までお話を伺いました。岡山から全国へ、そして世界へ! 環太平洋大学陸上競技部の挑戦は続きます。

M高史の陸上まるかじり

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