陸上・駅伝

特集:第51回全日本大学駅伝

環太平洋大のエース実近力丸、日本インカレ最下位の男が全日本で暴れる

選考会の10kmのレース、実近(右から2人目)は終盤でも余裕があった(撮影・篠原大輔)

第51回全日本大学駅伝対校選手権 中四国地区選考会

9月23日@広島・道後山高原クロカンパーク
1位 環太平洋大 4時間5分18秒
2位 広島経済大 4時間6分22秒
3位 広島大   4時間10分26秒

全日本大学駅伝の中四国地区選考会は9月23日にあり、環太平洋大(岡山)が初出場を決めた。12大学が参加し、全員が一斉に1周2.5kmのコースへ走り出す。4周して各校上位8人の合計タイムで競った。環太平洋大は6大会連続出場を狙った広島経済大を1分4秒上回ってトップとなり、悲願の伊勢路行きの切符をつかんだ。

選考会トップ「全カレの借り、返したわ」

全体のトップでゴールしたのが環太平洋大のエース、実近(さねちか)力丸(3年、如水館)。タイムは30分16秒だった。実近は選考会の会場となった広島県庄原市の出身。クロカンパークも庄原中学校時代から走り込んできた。慣れ親しんだコースで、悲願の全日本大学駅伝初出場が決まった。「特別なものを感じますね」。そう言って、笑った。

トップで帰ってきた直後、待っていてくれたチームの仲間に言った。
「全カレの借り、返したわ」
選考会の11日前、実近は晴れ舞台に立っていた。日本インカレ10000m決勝。環太平洋大勢として初めてこの種目で日本インカレに出た。
惨敗だった。参加した26人中最下位。タイムは33分11秒54で、自己ベストより2分44秒も遅かった。「練習から不調で『どうなるのかな』って不安でした。最初の1000からキツくて、2000からもうダメでした。日本の選手にも2周差つけられて。最下位なんて久々だったから、悔しい気持ちでいっぱいでした。でも、あれで改めて頑張ろうと思えました」

初めての日本インカレは実近にとって痛恨のレースになった(撮影・藤井みさ)

リベンジしたい、借りを返す、そんな思いで臨んだ選考会だった。3周目でペースが上がった。「落ち着いてたし、余裕がありました。ラスト1周、いけたらいこうと思いました」。そして後輩の土倉稜貴(2年、水島工)と競り合うようにゴール。「思ったより走れてビックリしました。今年はみんなで『狙える』って言ってたので、全日本が決まってうれしいです」

夏の坂ダッシュで蓄えた地力

実近たちが「今年は狙える」と感じていた理由の一つが、坂ダッシュによる地力の高まりだ。普段の練習拠点から約1km離れたところに、実近いわく「結構急な」200mほどの坂道がある。例年は冬の練習だけで使っていたが、今年は夏もここで鍛えた。「上り坂を走ってると動きがよくなるって、先生が教えてくれました」。陸上部中長距離ブロックの吉岡利貢コーチのもとで夏に蓄えた力をいま、爆発させている。

開学13年目の環太平洋大で、筑波大出身の吉岡コーチが指導を初めて8年目。かつては全日本の選考会で、広島経大との差が10分以上にも開いたことがあった。そこで吉岡コーチが着手したのが中距離の強化だ。「長距離で力のある選手はだいたい関東の大学に行ってしまいます。でも中距離なら全国で勝負できる可能性がある。まずは個人で全国へ行こう。関東に勝とうということで中距離の強化から始めました」。2016年からこの取り組みを始め、徐々に成果が出てきた。先の日本インカレ男子1500mでは3人が決勝に残る快挙。長距離勢にも全国で戦う意識が高まり、実近が初めて日本インカレの10000mを走った。

実近は右手の人さし指で小さく喜びを表現した(撮影・篠原大輔)

ギターも陸上も、できるようになると楽しい

実近は昨年の全日本にも参加している。日本学連選抜のメンバーに入った。補欠に回って走れなかったが、貴重な経験をした。当日は2区を走る選手のサポート役として付き添っていた。すると1区の石井優樹(当時・関西学院大3年)がトップで中継所へ駆け込んできた。「ビックリしました。1番で来るとは」。実近の中に全日本の1区を走りたいという思いが芽生えた。「自分も1区に挑戦したいです。10番以内では襷(たすき)を渡したい。関東のチームにも食らいついて勝ちたいです。」
あこがれのランナーは東海大4年の關颯人(せき・はやと)。「顔がかっこいいし、走りのフォームもかっこいい。もし、全日本で一緒に走れたらうれしいっすね」

大学近くの実近の下宿には、なぜか人が集まってくるそうだ。「僕が鍵をかけてないってのもあるんでしょうけど、家に帰ったら後輩が勝手に入ってたりします」と笑う。一人の時間はギターを弾いて過ごすことが多い。「昔から楽器が好きなんです。練習して、できてくるようになると楽しい。陸上もそんな感じですね」

何ともパンチの強い「力丸」という名前。これは父の尊敬する先輩の名前からとったと、母に聞かされたことがある。
最下位の屈辱から立ち上がった力丸が、初の全日本で大暴れする。

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