日本のEKIDENを研究するカナダ人留学生が、関西外大女子駅伝部を訪問しました!
今週の「M高史の陸上まるかじり」は、日本のEKIDENを研究するカナダ人留学生と関西外国語大学女子駅伝部が交流した1日に密着しました。
全日本大学女子駅伝の取材中、声をかけていただきました
「そのテープは何ですか? なぜ貼っているの?」10月の全日本大学女子駅伝でのこと。全チームがフィニッシュし、閉会式までの時間に、海外の方から質問されました。
選手たちが貼っていたのはファイテンのテープ。日本の駅伝を走る選手たちにはおなじみですが、海外では珍しいようです。彼女の名前はキンバリー・エクストランドさん。カナダのブリティッシュコロンビア大学から留学中の大学院生です。「日本でなぜ駅伝がこれだけ人気なのか」をテーマに研究をされていると伺いました。
なんでもキンバリーさんのお友達のレイチャル・クリフさんは、ハーフマラソンとマラソンのカナダ記録を樹立したこともあるトップアスリート。さらにレイチャルさんの夫、クリス・ウィンターさんもカナダ代表経験を持つ選手で、国際千葉駅伝に出走された経験もあります。
趣味でジョギングをしていたキンバリーさんにレイチャル選手は言いました。
「日本のコースは素晴らしいわ! 特にEKIDENが面白いのよ!」
キンバリーさんはこの時、強烈にEKIDENについて興味を持ったそうです。「陸上競技は個人種目なのにEKIDENって何? なぜ日本ではEKIDENが盛んなの?」
もっと駅伝を深く知りたいというキンバリーさんは、日本の実業団NECで活躍されていたジェフリー・シーブラーさんにインタビューもされました。長く駅伝を応援されている方にはおなじみの方ですよね!
シーブラーさんは現在、カナダで消防士をされているそうです。久しぶりにシーブラーさんのお名前を聞いてテンションが上がりました(笑)。
レイチャルさん、クリスさん、シーブラーさん。日本と駅伝が大好きな皆さんに大きな刺激を受けたキンバリーさんは、大学院の課題で駅伝を研究するため、はるばる日本を訪れたのでした。
そして、10月の全日本大学女子駅伝観戦のために仙台を訪問。ファイテンテープの質問の後も話が盛り上がり、私、M高史が色々な大学へ取材に伺っている話をしたところ興味津々! 僕もキンバリーさんを紹介したいチームが頭に思い浮かびました。
襷に押印されている検定印に、キンバリーさんは大興奮
そのチームが関西外国語大学女子駅伝部です。全日本大学女子駅伝、富士山女子駅伝にも出場していて、全日本の最高成績は昨年の12位。卒業生としてはダイハツの西出優月選手が3000mSCを中心に活躍しています。
関西外大女子駅伝部さんはその名の通り「駅伝」と「外国語」の両立が強み。英語は必修で第2外国語やそれ以上の語学の勉強する方もいます。語学力を生かして英語の教員や航空会社の客室乗務員に就職する選手もいます。
そして地域貢献、社会貢献活動にも積極的。
昨年の日本陸上競技連盟JAAF×SDGsプロジェクトの「#LETSTHINK_(レッツシンク)」 ではBEST THINK賞を受賞。今年もGOOD THINK賞をするなど、毎年新しいチャレンジを続けています。
さっそく、関西外大女子駅伝部の山本泰明監督にご連絡したところ、キンバリーさんの訪問を快諾してくださいました。
「チームに伺えますよ」と伝えると、キンバリーさんも大喜び! 富士山女子駅伝出場が正式に決まった12月上旬に伺いました。
練習風景だけでなく女子駅伝部の選手の皆さんの過ごし方も知っていただこうということで、学食でランチをご一緒することに。基本的に会話は英語です。さすが選手の皆さん、日頃の勉強の成果を発揮されていました。
昼食後、実際に駅伝で使用する襷(たすき)を初めて手にして、キンバリーさんは大興奮! 特に襷に押印されている主催者の検定印がお気に入りのようでした(笑)。
しっかり考えている事柄だから、英語でも説明できる
続いてインタビューです。選手の皆さんは駅伝でメディアの方から取材を受けることはあっても、英語でインタビューを受ける機会はめったにないですよね!
ランチでは日常会話という感じでしたが、インタビューではより専門的に駅伝のお話になっていきます。
主将の山岸みなみ選手(4年、新潟明訓)を中心に、この日に向けてしっかり準備をしてきてくださいました。山岸選手は大学卒業後にお仕事で英語を使う予定ということもあって、流暢(りゅうちょう)な英語でインタビューに答えたり、周りのサポートをされていたりする姿が印象的でした。
関西外大女子駅伝部では、希望者は短期留学に行くことができます。コロナ禍でなかなか難しかった時期もありましたが、部員の半分くらいは留学に行くそうです。
チームにとって選手が留学のために代わる代わるチームを離れることは、競技の成績だけを考えると痛いかもしれませんが、「陸上だけでは経験できないこと、留学でしか経験できないことがありますし、行けば視野も広がります。社会に出たときに役立ちますし、より人生を豊かにするためです」。山本監督。選手の気持ちをとても尊重しています。
キンバリーさんから選手の皆さんに、「競技を始めたきっかけ」「関西外大を選んだきっかけ」「駅伝がなぜこんなに日本で人気で特別なのか」「駅伝に対する思い」など、様々な質問が投げかけられました。
主将の山岸選手は駅伝の魅力について「走るときは個人でありながら、メンバーがお互いにカバーしあうチームスポーツであるところが面白いです。また、一人ひとりの思いが込められている襷の存在も、駅伝という競技を特別なものにしていると思います。長距離を走るのは苦しい場面も多いですが、選手たちが次のランナーのために1秒でも早く、必死に襷をつなぐ姿に多くの日本人が魅了されているのではないかと思います」と語りました。「駅伝を海外の方に直接伝えられる機会に、とてもワクワクしました。取材を受ける中でキンバリーさんの大きな駅伝愛を感じ、日本で駅伝を走る選手として誇らしい気持ちになりましたし、私たちも駅伝の魅力を再確認することができました」と丁寧にお話しされました。
インタビューで感じたのは、「日本語でしっかり考えている事柄だからこそ、英語でも説明できるんだな」ということです。逆に言えば、考えが曖昧(あいまい)で日本語でも説明できないことは、当然ながら英語でも説明できないですよね(笑)。
英語はコミュニケーションをつなぐツールであることを、キンバリーさんと関西外大さんの交流を間近で見ていて感じました!
練習が終わる頃には、すっかり打ち解け
インタビュー後、キンバリーさんが見学される中、M高史は練習に参加させていただきました。
駅伝を現地観戦されているので、スピード感は味わっていると思いますが、先ほどまで学食や教室で一緒に過ごしていた学生さんが、すごいスピードで走っているというギャップに、キンバリーさんは驚かれていました。
この日は富士山女子駅伝に向けたポイント練習。グループに分かれてインターバルやペース走が行われました。トラックの周りにはウッドチップが敷かれたクロカンコースもあって、あえて走りにくい路面で走ることで足の運びも磨かれ、体幹やバランスも鍛えられそうです。
学食で初顔合わせの時は、ほんの少し緊張の面持ちだった皆さんですが、練習が終わる頃にはすっかり打ち解けて、好きなアイドルグループのお話などのトークで盛り上がっていました(笑)。
練習後、山本監督にもお話を伺いました。「襷は駅伝というスポーツを超えて、様々なものやことを受け継いでいく際の象徴に例えられます。自分たちも様々な場面で先人から襷を受け取り、責任を持って全力を尽くし、アレンジを加え、次の世代に受け渡したいです。先人が発想し、発展させてきた駅伝競技の文化を自分たちも支えているのだという自負を学生たちには持ってほしいですし、その良さを周りの人に、そして次の世代に広めていってほしいと願っています」。競技成績だけでなく、駅伝への思いも込めてご指導されているのが伝わってきました。
今回の取材を通じ、「日本で盛んに行われている駅伝って独特なんだ」ということに気づかされました。日本では駅伝が入り口となって陸上競技を始めた方も多いはずです。私、M高史もそうでした。もちろん駅伝を通過点に、世界へ羽ばたく選手もいますし、駅伝がゴールとなって社会人になってからは別のフィールドで輝く方も多くいます。そこで培ったコツコツ続けること、粘り強さ、あきらめない姿勢、仲間との絆は、きっと社会人になってからも生かされるのではないでしょうか。
キンバリーさん、関西外国語大学女子駅伝部の皆さん、貴重な機会をありがとうございました!