慶應義塾大・山際毅雅主務 選手たちの最後の頑張りを支え、喜びを分かち合いたい
第101回早慶戦特集のトリを飾るのは、慶應義塾大学蹴球部の主務としてマネージャー陣の要を務める山際毅雅(4年、県立浦和)。高校時代に花園出場経験がありながら、慶應には一般入試で合格し選手として蹴球部に入部。3年の時は選手と副務を兼任し、4年になった現在は選手は引退し主務としてチームを牽引(けんいん)している。同期での話し合いの末に任された「主務」という仕事を、そしてその立場からチームをどのように見ているのか。
「高3でのコロナ禍の試行錯誤は、いい経験に」
―コロナ禍を振り返って、どんな日々でしたか?
僕は高校3年生の時が一番制約を受けた時期で、僕はその時主将として、2年連続の花園の出場を目標にやっていた中で、かなり制約を受けてしまう形になってしまったんです。僕の高校は僕の代も僕以外はみんな初心者で、僕だけ経験者という環境だったので、最初のチーム作りってのがすごく大事なところだったんですけど、そこの最初のチーム作りが(コロナの制約で)すごく難しくなってしまったんです。
オンラインでミーティングしたり、同じ試合映像を見ながらディスカッションしたり、少しでもチームビルドをしながらナレッジを増やして、どうしたらいいかっていうのを僕中心にリーダー陣で含めて話し合ったりしながらやったりしたんですけど、結果的に最後は県大会の準決勝で負けてしまって。悔しい思いはしたんですけど、県立の高校だったのでリソースも割けなくて、限られた状態の中でどうやって上達するかとか、どうやってチームを作るかっていうのを自分ですごく考えたっていうのは、今振り返ると、苦しかったですけどいい経験だったと思ってます。
―コロナ禍が過ぎ、何か変化はありましたか?
大学に入って1年目は、チームスポーツだし寮生なんで、4年生が設けたルールとか、感染が広がらないように結構厳しいルールの中で生きてたんですけど、だからこそ寮にいる同期とはすごく仲良くなりました。
でもその時もやっぱり寮内の部屋移動は禁止されてたんで、グラウンドだけで話してウェートトレーニングとかは一緒にやるけど、それ以外のプライベートの時間は結構孤独というか……。今は飲みにも行けたり、部屋移動して部屋で一緒にゲームしたり、そういうのもすごく楽しいんで、つながりが薄かった分、今はすごく濃い時間を過ごすことができてるかなと思います。
「主務になって、周りが見えるようになった」
―この1年間で後悔していることはありますか?
去年、副務に選ばれて、その仕事をやりながら選手と兼任してたんですけど、その時周りの人に迷惑かけてたなっていうのはすごく後悔というか反省していて。それを、自分がその時ベストじゃなかったって認めると、すごく僕のために頑張ってくれてた去年の4年生に失礼に値すると思うんで、後悔はしてないんですけど。今の自分があるのはその時の経験があるからだと思ってるし、後悔ではないのですが、もうちょっとスタッフとしてコミットすべきだったんじゃないかなっていう反省は、選手を退いた今になってみると感じるシーンは多いです。
―この1年で自分が変わったことは何ですか?
僕結構、「自分の道は自分の力で切り開いてきた」という、今考えると独りよがりな自信を持っていたんですけど、主務になって、やっぱり周りの人にどれだけ助けられたかっていうのをすごく感じるようになって。例えば両親はじめ、去年兼任してた時の4年生や同期のマネージャーとか、今年入ってからのマネージャーの後輩とか、プレーヤーの同期とか。僕がこうやって主務として仕事できてるのは、その彼ら、彼女らのおかげだなと思うシーンがすごく多くて。特に去年は自分がプレーを続けることと、仕事をこなすことで精いっぱいで、あまり周りは見えてなかったなと思うんですけど、主務になって体力的な余裕が出たからか、その主務という組織を運営する立場になって視野が広がったからか、すごく周りが見えるようになった。だから僕、自分が1人じゃなくて、いろんな人に助けられてるんだっていうことを自覚できたのが、結構大きな違いです。
―1年後の自分に何か聞きたいことはありますか?
これまでの人生でも何個か、迷って決断したこととか、苦しかったことがあって、どんな形になるかはわからないながらも、なんとなく将来に生きるんだろうなとか思いながら乗り越えた経験っていうのは結構あって。それこそコロナ禍で色々考えた経験が、自分が大学生になってこうチームと考えることにつながってたりとか。
例えば(副務と選手を)兼任した経験とか、兼任をどうしても諦めなきゃいけなくて諦めた気持ちとか、主務としてチームのために何が大事かってのを考えながら、たまには板挟みになりながらもがいた経験が、社会に出てどういった形で生きるのかなってのが気になりますね。
「同期と一緒に正月越えして国立の景色を見たい」
―仲間に伝えたいことは何かありますか?
「僕が正解だ」という風に思いながらプレーしていた高校時代からすると、選手をやめなくてはいけなくなってしまった今っていうのは、自分にとっても正直後ろめたい気持ちもあったし、高校の同級生に対して申し訳ないって気持ちもあったんですけど、彼らと会った時に、「山際がそういう風にしてるのはらしくないし、俺はそんなお前見たくない」って、もう怒られたぐらいの勢いですごくいろいろ言われて。
その言葉があったから、僕は今胸を張って堂々と主務として仕事ができています。高校の同級生みんなのおかげで今の僕があると強く思ってるので、本当にありがとうっていうのを高校の同級生には伝えたいです。
大学同期は、選手やめさせられたっていう表現もできるし、みんなにこう頼られて主務になったって表現もできるので、難しい思いはあるんですけど、頼られてやってる分、僕はしっかり頑張るので、僕が選手をやめた分まで、みんなも最後まで戦い続けるのはやめないでほしいなという風に思ってます。みんなが僕を成長させてくれたと思ってるんで、すごく感謝はありますし、最後までみんなと一緒に戦って正月越え(大学選手権で4強入り)して国立(競技場)の景色を見たいなという風に思っています。
「最後に花が咲いた瞬間を、一緒に感動してほしい」
―対抗戦に向けて、夏にどんな準備をしましたか?
夏を越えると、慶應ラグビーって上のチームと下のチームの戦術やスケジュールがずれてきちゃうんですよね。そうするとどうしても一体感を持ちづらいというか、同じチームなので応援はしていても、ちょっと距離ができちゃうというのは、僕が選手だった時から感じていたことで、それをなんとかこう打開したいなと思ったんです。
そこで僕は、今年のスローガン「No Magic」の横断幕を作ったんですよ。そこに全選手が名前を書いて、それを毎回試合に持って行って掲示しているんですよね。一体感を持つためにどうしたらいいかっていうのを、僕は夏合宿で結構考えてて。もちろん今までやってきた準備はやっているんですけど、僕がプラスアルファで考えたことはそれかなと思います。
―早慶戦を控えていますが、今までの対抗戦で何か得たものはありますか?
僕が学びを得たのは、ノンメンバーのあり方ですね。慶應義塾蹴球部として、歴史ある組織としてふさわしい振る舞い、見え方っていうのが、僕がノンメンバーだった時はあんまり意識できていなかったですけど、主務として、試合の結果だけではないそれ以外の部分も僕は気を使わなきゃいけないと思ってるので。
やっぱりそういうチームが応援されるし、例えば試合に勝った後に、「今年の慶應は会場での振る舞いもいいし、良いチームだな」と思ってもらいたい。少しでも勝敗ではない部分でチームの価値を上げたいと思っています。やっぱり帝京(大学ラグビー部)さんとかはそこをしっかりやってて、メンバーに対するリスペクトを試合の観戦態度とかから感じた部分があって、学ばないといけないなと思わせていただいた部分なので、僕はそこが他校に学ばせてもらった部分かなと思います。
―4years.の読者の方々にメッセージをお願いします。
僕は無数の選択肢がある中で、大学時代をラグビーという1つの競技に注いできた人間で、他の人もみんな大学生活4年間のみならず、多分それまでの10年、20年近くを(ラグビーに)費やしてきた人たちが、最後花を咲かせるために必死に頑張ってる。4年生になるとその自覚がすごく芽生えるんですけど、最後まで花を咲かせようと頑張る人たちを温かく見守って、彼らが花を咲かせる瞬間を一緒に感動してほしいし、喜んでほしい。誰かのために頑張ってる部員も多いので、そういう部員や選手やスタッフが喜びを分かち合う瞬間っていうのを、ぜひ応援してもらいたいなと思います。