ラグビー

特集:第101回ラグビー早慶戦

早稲田大・野中健吾 躍動する若きBK陣を引っ張る大黒柱「日本一にコミットする」

才能豊かなBKの1、2年生を、センターのポジションで統率する野中(すべて撮影・斉藤健仁)

関東大学ラグビー対抗戦で開幕から5連勝と負けなしで、1位の明治大学と帝京大学を勝ち点差1で追うのが早稲田大学ラグビー部だ。12月1日、100回目の「早明戦」の前に、11月23日、101回目を迎える慶應義塾大学との伝統の「早慶戦」を迎える。早稲田大のBK陣は、日本代表FB矢崎由高(2年、桐蔭学園)に加え、ともにルーキーのSO服部亮太(佐賀工業)とWTB田中健想(桐蔭学園)と若い選手が躍動している。その中で大田尾竜彦監督が「BKラインの中心」とキッパリと断言するのが、身長180cmのSO/CTB野中健吾(3年、東海大大阪仰星)である。

第101回ラグビー早慶戦
大学から始まり世界へ 日本ラグビー125周年

矢崎・服部・田中 下級生BKをコントロール

1年からアカクロジャージーに袖を通し続ける野中は、ルーキーの服部がケガの間は10番を背負い、服部が試合に出るようになると高校時代から慣れ親しんだ12番としてプレーを続けており、プレースキッカーとしてもチームの大きな得点源となっている。「早稲田のBKは若いので、僕がしっかり引っ張っていかないといけない」と前を向いた。

昨季王者・帝京大学にも48-17で快勝して開幕から5連勝している要因を聞くと、野中は「すごくいいコーチングスタッフがいるし、自分たちでもどうアタック、ディフェンスするか細部にこだわり、練習で思ったことや、内容に疑問があったらコミュニケーションを取っている。また難しく考えずにシンプルに意思統一をしているからこそ、良い方向にいっている」と胸を張った。

プレースキックも任され、大きな得点源になっている

昨季の早稲田大は、大学選手権準々決勝で関西王者の京都産業大学に28-65で大敗し、正月越えができずにシーズンを終えた。大阪出身の野中は、「京都産業大戦に負けた悔しさが今でも胸にある。その雪辱を果たしたい。大阪での試合だったから、余計に友だちからもいろいろと言われました(苦笑)」と悔しさをあらわにした。

今季は例年より1カ月ほど早く1月9日に新チームをスタートさせた。野中は個人としても、「スピードを出す」ために、半年間で身体作りをして、体重を95kgから91kgほどに絞った。チームに関しても「最初は(スタートが)だいぶ早いなと思いましたが、徐々に結果が出てくるにつれて、一人ひとりが自信を持ってプレーできている」と話した。

兄と同じく花園で優勝 AO入試で早稲田へ

野中は福岡・筑紫丘高でNO8としてプレーしていた父、そして兄の亮志の影響で、5歳の時に大阪・枚方ラグビースクールで競技を始めた。兄は東海大仰星高時代に「花園」こと全国高校ラグビー大会で優勝し、その後、筑波大学、清水建設江東ブルーシャークスでもプレーした名CTBで、昨季、ブーツを脱いだ。

現役を引退した兄は今でも憧れの存在で「ラグビー面だけではなく、ラグビー以外の姿勢も真面目だったので見習わないといけない。将来、対戦できればいいかなと思っていましたが、対戦しない方が気持ち良く尊敬できるかな」と話した。

兄と同じ高校に入り、兄と同じく花園で優勝を遂げた

野中は兄と同じジャージーを着るために中学から東海大大阪仰星に進学。中学時代から中心選手として活躍し、太陽生命カップでは連覇を達成した。さらに高校3年時も、花園のピッチに立つだけでなく、兄と同じく中軸として6度目の優勝に大きく貢献した。

「特別に意識していませんが、中学、高校でも優勝しているので、大学でも優勝したらすごいな、と思います。達成したいですね!」

筑波大に進学した兄とは違い、高校の先輩である日本代表CTB長田智希(現・埼玉パナソニックワイルドナイツ)らの影響や、高校2年時に見た早稲田大の日本一の姿を見て憧れて、えんじのジャージーを志望。スポーツ推薦ではなくAO入試でスポーツ科学部を受験し、見事に合格した。

「憧れから始まり、高校生になるにつれて、早稲田大に行きたいという気持ちが強くなった。先輩もいたし、いろんな人がいる中でチームを作っていくのがいいなと思った。勉強はしんどかったですが、今となっては小論文など対策して努力して良かった」(野中)

「高校生になり、早稲田に行きたいという気持ちが強くなった」という野中。スポーツ推薦ではなくAO入試で合格した

ルーキーSO服部とスイッチしながらプレー

ルーキーイヤーから、12番だけでなく10番でも試合に出続けて、大学選手権決勝の舞台にも立った。昨季もU20日本代表で世界の舞台を経験して、「メンタル的に通用する部分があったと自信がついた」という野中は、対抗戦から全試合で先発するなど、チームには欠かせない選手として成長し、「毎日の練習に対する意識が変わった」という。

10番、12番とゲームコントローラーとして試合に出場する中で、大きかったのは、元日本代表SOである大田尾竜彦監督からの指導だった。「大田尾監督と話していく中で、監督の考え方は自分にとってプラスになることばかりです。映像を見て『こういうところもあるよ』と教わり、毎日勉強させてもらっています」(野中)

今季、ロングキックに定評のある服部が10番、野中が12番を背負うことが多くなったが、動きの中で野中が10番に入るシーンも多い。野中は「大学に入って10番をやり、スペースを見て判断してきたことは良い経験として生きている。ただ、試合に入れば背番号は関係ないので10番、12番でコントロールしていきたい。服部のキック力はすごいですが、キック力だけではなく、聞く力があり、コミュニケーションを取って対応できるのがすごいな」と目を細めた。

ルーキー服部のキック力、聞く力、コミュ力に感心している

「早慶戦は慶應のプレッシャー・熱量が違う」

将来はリーグワンでラグビーを続けるつもりだ。趣味はドライブで、友人と海に行ったりしているという。目標としている選手は、日本代表のSO松田力也(現・トヨタヴェルブリッツ)だ。「(松田選手は)キックの使い方、スペースを見るところがすごいなと思います。ああいった選手が日本を代表する選手だなと思います」(野中)

対抗戦は残り2試合。11月23日に「早慶戦」、12月1日は国立競技場での「早明戦」だ。「2回戦って、慶應義塾大のプレッシャーをすごく感じています。他の試合と熱量が全然違うと思っているので、その熱量を僕らは超えていかないといけない。また明治との伝統の一戦は100回目ということですが、そこまで意識することなく、自分たちの戦いにしっかりフォーカスすることが大事だと思っています。FWが頑張っているのでBKで助けたい」と先を見据えた。

ファンにどういったところを見てほしいかと聞くと、野中は「チームとしては、細部にこだわることやミスを少なくするなど、まだまだ成長しないといけないが、早稲田らしいアタック、ディフェンスを毎試合やっていくので見てほしい。個人としては状況判断よくプレーし、ディフェンスではしっかり前に出てプレッシャーを与えたい」と話した。

CTB野中は「自分がBKをリードしていかないといけない存在なので、チームを勝利に導き、早稲田大の日本一にコミットしたい」と意気込んでいる。ゲームコントローラー、そしてプレースキッカーとしてアカクロの12番の存在感は、日に日に増すばかりだ。

対抗戦の残り2試合、「早慶戦」と「早明戦」を前に、腕を撫(ぶ)す

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