ラグビー

特集:大学から始まり世界へ 日本ラグビー125周年

慶應義塾大OB廣瀬俊朗 それぞれの力を最大限発揮できることがラグビーの素晴らしさ

高校、大学、日本代表でもキャプテンを務めた廣瀬俊朗さん(インタビュー写真は提供・慶應義塾大学蹴球部)

高校、大学、東芝ブレイブルーパス、日本代表でもキャプテンを務めた廣瀬俊朗さん。2019年には株式会社HiRAKUを設立し、引退後も精力的にラグビー業界に携わっています。同年に放送されたTBSドラマ「ノーサイド・ゲーム」でもチームの司令塔・浜畑譲を演じ、視聴者を魅了しました。日本代表監督を務めたエディー・ジョーンズさんからも、「自分がラグビー界で経験した中で、ナンバーワンのキャプテンだ」と言われるほど、高いキャプテンシーを持っている廣瀬さん。今回のインタビューでは理想のキャプテン像、大学ラグビーの魅力などについてうかがいました。

大学から始まり世界へ 日本ラグビー125周年
第101回ラグビー早慶戦

「自分がどんなキャプテンかを理解して、リードできるか」

―ご自身が歩まれたラグビーのキャリアについてご説明いただいてもよろしいですか?

僕は大阪生まれで、5歳の時に吹田ラグビースクールというところでラグビーを始めて。中学にもラグビー部があったからそこに入ってとにかくずっとラグビーをして。そのあとは北野高校っていう普通の公立高校から慶應義塾大学に指定校推薦で行って。理工学部に入って、東芝に入って。今は自分で会社作って頑張っているって感じかな。

―今まで中高大社会人、日本代表でもキャプテンをされてきましたが、特に大学時代はキャプテンとしてどのように部員らと向き合っていましたか?

基本、人それぞれの良さが出ればいいなと思っていて。楽しみのためにやりたいってのが根本にあって。みんなが生き生きとワクワクしてできるといいなって。ただ勝つだけじゃなくて新しいことをやるとか。

挑戦していくことは自分も好きだし、慶應も大事にしていることだなって。当時はオーストラリア(型)のラグビーをやっていたんですけど、もう少し自分たちの判断を加えるようなラグビーに挑戦してみようと。そこのチャレンジを楽しんでいく、そんなことをやっていたかな。

―他のチームのキャプテンと慶應のキャプテンの違いを、廣瀬さん自身何か感じたことはありますか?

やっぱり環境の違いかな。まず百何十人いるってことは普段ないし。その百何十人をどうやって率いていくのかっていうのは特別だったなって思う。あとは高校卒業したばかりの子もいれば4年生もいる。4年間のギャップがある中でどうやってチームを作っていこうっていうのは大学時代にしか味わえないことだったから、苦労の方が多かったけどたくさん学べて。他にはモチベーションかな。慶應は「社会人で活躍したい」って人もいれば、「大学で(ラグビーを)満喫して次に向かおう」って人もいると思うので。思いがみんなそれぞれ違う中でどうやって一つの形、チームとして進んでいくのかっていうのは慶應ラグビー部の時に学べることかもしれないね。

2002年の早慶戦で、現・早大監督の大田尾と慶大廣瀬のマッチアップ(撮影・朝日新聞社)

―ご自身もキャプテンを務めていた中で、理想のキャプテン像とはどんなものですか?キャプテンを支える理想の組織像とは?

誰かのまねをすることはできないと思うんで。自分はどんなリーダーか、キャプテンなのかを理解して、それを信じて周りをリードできるかっていうのがキャプテンにとって大事なことかなと思う。その上で色々な人たちとの関係性をどう築いていくのか、自分たちがどんなアイデンティティーをもってやるのか、どんなチームになりたいのかということを言葉にして、みんなに伝えていくことができるとすごくいいと思うし。周りの人にも自分のリーダーシップを発揮しながら、チームに対して貢献していくということがとても大事だと思う。特に考え方や見え方はみんな違うから、思っていることをそれぞれが伝え合えればいい方向に向かうと思う。

「自分を変えなくても、自分に合うポジションはある」

―組織を作り上げてきた中で、ラグビーならではの組織像や組織づくりは何かありますか?

組織という観点で言うなら、ラグビーはポジションがたくさんあるので自分の活躍できるポジションがきっとあるんだよね。そんなに自分を変えなくても。だから存在感というか「自分はこのままでいいんだ」と思える人が多いかな。「これはない」というよりは「このよさをどう生かそう」とみんな考えられるのがラグビーっぽい組織かもしれないね。

―役割がはっきりしているラグビーというスポーツをしたことで、ご自身がこんな人間的スキルを身につけた、などありますか?

「自分を変えなくていい」と思えたところも一つかな。そう思える人って他の人にも「変われ変われ」って強く思わないし、「その人の良さはどこにあるんだろう」っていう発想になれると思うから、人としてすごく大事なことだと思う。自分一人で頑張ろう思ってもラグビーはうまくできないし。それぞれのポジションの人が、このチームのために頑張ろうと思いを持ってやってくれた時に、めちゃくちゃいいラグビーができる。人それぞれが持っている力を最大限発揮することの素晴らしさというのは、ラグビーで学べたね。

あとは対戦相手の人たちともすごく仲良くなれるかな。試合中はやりあったとしても終わったあとはもう関係なくて。レフェリーもそうだし。ラグビーを、このスポーツを好きになれたし愛せたかな。「自分たちだけがよければいいってわけでもない」と思えるようになったね。

―ラグビーに関わっている人は皆さんがまとまっているというような印象を持ちます。なぜラグビーにはそのような要素があるのでしょうか?

人として極限のところでやっていると思うんだよね。ぶっちゃけ、(相手に)けがさせようと思ったらできるかもしれないし。(でも)そういうことをやらないでプレーした時のお互いの爽快感というか解放感を感じて、どんどん積み重なって(ラグビーを)好きになっていくのかな。

あとは人間性もすごく出る。「ちょっと今サボったな」とか「びびったな」とかもやし、逆に「めっちゃ頑張ってるな」もそうやし。本来自分の中に隠してあるものが明らかになってしまう怖さもあるし、楽しさもあって。そういう等身大の人間を相手も含めて見ることができるというね。なんていうのかな、そうした透き通っている感じがみんな(ラグビーを)好きでいる理由なのかな。

―廣瀬さんは「等身大の自分」、どんな自分が見えますか?

元々そんなに勝ち負けにこだわるタイプではなくて、どちらかと言ったら成長するとかの方が好きだし。「自分が」ってよりかは、誰かが活躍する方がうれしいなあっていう感情もあって。改めてそういう自分が見えるなあと。プレッシャーかかってしゅんとしている時もミスする時もだけど、やっぱり自分はまだまだ甘いなとかそういうことも学べた気がするね。

「『自分を変えなくていい』と思える人は、他の人に対して『その人の良さはどこにあるんだろう』っていう発想になれる」

ブライトンの奇跡「世の中にインパクト、番狂わせの醍醐味」

―廣瀬さんたちが2015年ワールドカップで番狂わせを起こした時、率直に何を感じましたか?

正直やったことがないし、ワールドカップに行ったことがないから、勝てるかどうか分からなかったですけど、すごい準備してきたなという自負があって、そういう準備があったらこんなこと起こんねんな、というのが率直な思いですかね。勝てるとか負けるとかは分からへんけど、こんだけやってきたらどうなんねやろな、っていうのが試合前で、最後勝てた時はこんなことなるんやな、現実になるもんやなと。

―番狂わせの醍醐(だいご)味はどこにありますか?

世の中のインパクトはすごかったなと思いますね。日本だけじゃなくて世界のラグビーファンから「おめでとう」とか「すごかった」とか「勇気もらった」とか。ラグビーの内容も良かったと思うんですけど、誰かの人生に対して何かインパクトが与えられたというのはすごい醍醐味だなと思う。

慶應ラグビーに例えたら、強い大学に勝っていくといく姿が、ラグビーをやっていない人に対しても「頑張ろう」とか「小さくても大丈夫なんだ」とか「諦めない姿勢が大事なんだ」とか、そういうメッセージを出せるのが慶應だと思う。その喜びのために頑張ってほしいなと思う。

2015年ラグビーワールドカップ代表に選ばれた廣瀬俊朗(撮影・朝日新聞社)

「ラグビー人気のためには、社会との接点が大事」

―どうすればラグビーがもっと人気になると思いますか?

その視点で言うと、社会との接点がめちゃくちゃ大事。「ラグビーの価値はどういうもの」ということをみんなも何となく持ってますけど、多様性とかインクルージョンと言われますけど、もっと突き詰めると「どういうことなのか」とか。自分たちらしさ、ラグビーらしさみたいなものを、ラグビーの外の人たちにどう受け入れられるか、が広まっていくことにつながると思う。ラグビーの中にいたら広がらないから、ラグビーの外の人と。

例えば、スクラムユニゾンという活動をしていて、世界各国の国歌、アンセムを熱唱しようとか。そういうことをすると歌が好きな人とかが歌を通してラグビーのことを知ってくれる。そこからラグビーに興味を持つ人もいると思うので、いかにそういうコラボレーションをするのか、外の人との接点を作ってどんどん中に入ってもらうってことをやれるかどうかが大事だと思う。

―今回のインタビューは、これからラグビーを始める人たちにも見てもらいたいという思いでしているのですが、廣瀬さんから「ラグビーにはこんないいところがあるんだよ」など伝えたいことはありますか?

ラグビーをもしやろうと思ってるんやったら、そのままの思いで活躍できるかなと思う。(体が)大きかったら大きいでポジションがあるし、(体が)小さかったら小さいでポジションがあるし。例えば、ロックは2人いるから、1人背が高かったらもう1人は背が高くなくても試合に出られるかもしれない。何かを変えないといけないというよりも、自分の持ってるものをどんどん伸ばしていくことでチームに貢献できるスポーツがラグビーだなということが一つ目。

二つ目は、リスペクトとかインテグリティーっていう部分。ラグビーやってたら対戦相手も相手じゃなくて仲間やし、レフェリーも仲間やし、っていうような発想を持つことができるかなと思っている。必ずしもトップ選手になるということだけじゃなくて、ラグビーを通して人生観が養われると思う。自分の人生を豊かにしていくことにつながると思うので、一度でいいから触れてくれるとうれしいなと。

もちろん、けがのリスクもあるし、怖さもあるし、でも痛さを知るということもすごく大事。こんなにぶつかったら痛いんやって思ったら、誰かとぶつかった時に大丈夫かなとか、すごい心配できるようになると思うんですけど、知らないから何も恐れずにやってしまう。痛みを知っていたら、何かをすることにちょっと怖いなとか、やめておこうとかにつながると思うので、体が覚えていくということも教育的には大事なことだと思う。

2010年1月、東芝をトップリーグ2連覇に導いた廣瀬俊朗主将(撮影・細川卓)

―文武両道についてなのですが、大学卒業後にトップリーグ・東芝に進まれるかどうか悩んだとお聞きしました。その時の廣瀬さん自身の気持ちはどのようなものでしたか?

僕は最終的に、「今しかできないことはなんやろう」っていう考えに行きついたんですよね。その時に、ラグビーを40年近くトップリーグでできることなんてないなと思って、「じゃあ今できることは何なのか」というところで、「ラグビーをやり切ろう」というのが一つ。二つ目は、大学選手権最後の試合で関東学院大に負けたんですけど、その時の関東学院大のチームの雰囲気がめちゃくちゃ良くて、何でこんなチーム作れるのかなとすごく悔しかった。その時に、もうちょっとこの世界で学ぶことがたくさんあるなと思って、ラグビーをやりたいと思った。

―ビジネスの世界で活躍される中で、ラグビーの経験が生きている部分はありますか?

活躍という点ではまだまだ全然なんですけど、ただ考え方は変わっていないですよね。人それぞれの役割があって、その人たちがここのチームにいてくれた方が力を発揮してくれるなと思っている。あんまりあーだこーだ言うよりも、「みんなどう思ってるのかな」「それって何のためにやってるのかな」とかは、みんなで話し合いながらやっている。「あとは任せて」「じゃあ頼みます」という感じです。そういうのはラグビーだろうが、ビジネスであろうが、一緒だなと思う。違うところは、信頼関係の作り方だと思う。体をぶつけ合って試合をやっていると明らかにお互いのことが分かるけど、(ビジネスでは)「どういう人なんやろな」とかを理解することに少し時間がかかる部分があるなと思う。

「大学の4年間と同じ4年間はないから、その瞬間を大事に一生懸命生きてほしい」

「学生スポーツの儚さに、みんなが思いをぶつける」

―廣瀬さんの中で、大学ラグビーに求めることはありますか?

一つはやっぱり教育だと思うので、人としてさらに成長していくことがラグビーを通してできたらいいなということがまず大前提ですかね。インターナショナルの観点から言うと、U20もそうですけど、若い世代で活躍していく選手が世界にはいるので、視点を大学だけにとどめないで、「世界で」ということ考えながら、どうやって日々頑張っていくのか考えることが大事な選手もいると思うので、グローバルに視野を広げてほしいなということが一つある。

―大学ラグビーが変化する中で、変わらない大学ラグビーの魅力はどこだと考えますか?

学生スポーツは、「儚(はかな)さ」ということが一つ魅力ですよね。この代はこの代でしかないとか、そこの切なさ、儚さとか。その部分にみんなが思いをぶつけるんだと思う。うまくいかなかったとか、みんなそこで人生を踏襲するというか、思いを寄せていくことが魅力だと思うので、そこが学生らしさだと思う。

―現役でラグビーを行う選手たちにメッセージをお願いします。

その環境は今しかないと思う。社会人だったら3年目終わっても4年目があるし、5年目終わっても6年目があるし、まだなんとか次があるんですよね。でも大学の4年間と同じ4年間はないから、その時は大変かもしれないですけど、すごくいいチャンスだし、その時にしか学べないことがたくさんあるのが大学ラグビーだなと思うので、その瞬間を大事に一生懸命生きてほしいなと思う。

(聞き手:慶應義塾大学蹴球部)

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