ラグビー

特集:大学から始まり世界へ 日本ラグビー125周年

帝京大・岩出雅之前監督(上) 自分を磨き続ける力を大学ラグビーで身につけてほしい

帝京大学の黄金期を築いた岩出雅之・前監督(インタビュー時の撮影・慶應義塾大学蹴球部)

2008年度に対抗戦で初優勝を飾り、翌年度から大学選手権を9連覇するなど、対抗戦・大学選手権とも12回の優勝を重ねている帝京大学ラグビー部。1970年に創部された比較的新興の帝京大の監督に96年に就任し黄金時代を築いたのが、岩出雅之さん(現・同部顧問)です。学生時代にも日本体育大学の主将として大学日本一となったほか、滋賀県立八幡工業高校の監督として全国高校ラグビー大会(花園)に7年連続出場し、高校日本代表監督の経験もお持ちです。インタビューの前半では、大学ラグビーの魅力、意義、指導法などについてうかがいました。

大学から始まり世界へ 日本ラグビー125周年

「ラグビーから大切なものをたくさん頂いた」

―岩出さんにとって、ラグビーとはどんな存在ですか?

実は、高校では1年間ぐらいしかやっていなくて、大学に行ってから(本格的に)。これだけ長くラグビーに関わるとは思っていなかった。ラグビーから大切なものをたくさん頂いたなと思っている。僕自身の成長にもラグビーの存在があったし、それから職業として、教員として、ラグビーの分野で特に大学生の青年期の人たちと出会って、大切な物をたくさん頂いた。青年期の若さを頂いて、そして彼らの成長からの喜びを頂いて。職業としてぜいたくな機会を頂いたと思う。

「学生が青春を謳歌する姿を見られるのは、幸せな仕事をさせてもらっていると思います」

―ラグビーから得たものとはどんなものでしょうか?

ラグビーって、競技だけを考えれば激しいスポーツだし、しっかりした毎日のトレーニングが必要。そのトレーニングを積み重ねていくと、ストレスもあるし、つらさもあるけど、そこからまた仲間が生まれる。個人個人を成長させてくれるし、仲間の団結を成長させてくれるし、戦略的なマネジメントとか状況判断とか、個々の状況判断とチームの状況を重ねるとか、いろんな経験ができる。

そういうことを、学生のキャプテンと協力しながら指導者としてみんなを導いていく経験ができた。その経験を通して、活動の楽しさと成長の楽しさというか、みんなの喜ぶ顔も見えるし、また時にはやっぱり苦しいつらい顔も見るし……。青春の良さを彼らが謳歌(おうか)する姿を見られるのは、幸せな仕事だなと思う。

「多様化の時代、トップダウンではなく伴走型指導に」

―大学ラグビーで4年間を過ごした魅力をうかがいたいのですが、青春を謳歌した先に学生たちが得られるものとは、どんなことがあると思いますか?

それぞれだと思う。それぞれの意思と考え方、挑戦、仲間との関係。最後の結果が良ければ全てよしということもあるかもしれないけれど、結果が悪くても、そこまでのプロセスの中で、大学生がいろんなものを得ながら成長する。大学スポーツ、そして大学生というのは、混乱をしたり、しっかりとした大人としての気付きを得たりとか、人生の中ではバラエティーに富んでいる時代かなと思うよね。そういうことでたくさんのことも得られるんじゃないか。

僕なんかはそれを伴走しているだけだから、伴走が必要なかったらしっかり見守るだけでいい。監督としてはそういうスタンスでやってきた。彼らの卒業後の人生は長いんで、大学生活は、4年間だけじゃなくて、しっかり次につながるような、後悔のない時間にしてほしいなと思う。

―伴走というお話ですが、岩出さんは長い間大学ラグビーに携わられてどんな感想をお持ちですか?

恥ずかしい話だが、私自身も指導者として未熟な時期があり、また帝京大学ラグビー部も、未熟な状態の時期があったと思う。そういう中から少しずつ学ばせてもらったし、学ぼうとした。常に自分自身を成長させなければならないのは、実は指導者の方だということを、大学スポーツの中で私が学んだ。

また世の中の変化もある。指導者のスタンスは、トップダウン型から、今は支援型になって、伴走型の指導者とかリーダーシップに変わってきている。学生の気質も多様化しているしね。多様化の時代だから。答えを与えるんじゃなくて、考えてもらうとか。

ラグビーという土壌だったら、その中で必要な武器を、彼ら自身が理解して挑戦する道に付けていく。それがちゃんと人生の武器になっていくように、生きていく自信になっていくような経験を積ませてあげることが大事かなと。そういう意味じゃ、教えるとかコーチングが指導者の役割じゃなくて、うまくいい体験をさせてあげて、そしてそこから本人が学んでいけるような環境設定をしてあげることが一番大事かなと思うよね。(指導法は)そういう伴走型に年々変わっていったんじゃないかと思う。

退任直前の22年1月、大学選手権で優勝し選手らに胴上げされる帝京大の岩出雅之監督(撮影・西畑志朗)

「ラグビーは、組織と一人一人の個性が共存できる競技」

―学生時代、いろいろな選択肢がある中で、大学でラグビーをする意義、ラグビーを選ぶ理由は?

大学って別にスポーツしなくても学べるよね。また人とも出会える。「その中で大学スポーツ、そしてその中でラグビーを選ぶ理由はなぜ?」と問われた時に、その人がしっかり自分で思いを言葉にできることが大事だよね。自分で自分の生きる道を、野心も持ちながら、力量を上げながら、やってきたことに胸を張れる。ごまかしではなくて、気概とか、魂とかね、そういう自分自身のしっかりとした信念を宿すように育ってほしいなと。

中学校や高校生って指導者が主導になったり親が主導になったりするものだけど、大学っていうのは青年期から大人になろうとする時代。まだまだ多感な、青春という青さを持っているから、そのいいエネルギーを、どちらに使っていくか。

帝京ラグビー部では「ダブルゴール」と言っているんだけど、4年間の中で後悔のないように、そして未来にもそれがつながっていくように、しっかりとゴールセッティングして、自分で自分の方向性を決断できるように、と。ラグビーをやっている人は、社会で成功して起業したり、様々な組織の上位の一員にいる方が多いと思う。なぜラグビーの人にそういう方が多いかというと、一人一人がしっかり考えて判断する力を持っていて、組織をまとめていこうという経験を、ラグビーの中でたくさん学んでいるからだと思うんだよね。

未来にも笑顔が出るよう、自分に納得できるような人生にしていくための力を付けてほしいなと。そういうことが大学ラグビーの魅力だと思う。

帝京大ラグビー部を初の大学日本一に導いた当時の岩出雅之監督(撮影・細川卓)

―お話をうかがって、自分で考えることや、考える経験がいろいろあるのが大学ラグビーの魅力と感じました。岩出さんから見た大学ラグビーでの組織論についてお聞かせ下さい。

組織という全体像と、一人一人が持っている局面での対応力・判断力というのは、とても大事なラグビーの要素。全体像がなければみんなが迷うし、でも全体像だけに従えば依存性が高くて受け身になってしまう。自分の意思や一人一人の個性が出せるような判断と行動が必要なので、それを両方とも殺さないで共存させていける競技がラグビーかなと。

キャプテンというのは、皆を誘導していく立場の人だけど、この多様化の時代では、1人のキャプテンにみんなが意思を託すって、そう簡単なことではない。それだけに、キャプテンは1人でいいけど、リーダーシップは皆が持っていいんだよね。リーダーってのはみんなにエネルギーとか影響を与える。リーダーシップというのは、そういう影響を与える力だと思う。一人の人に引っ張ってもらうのではなく、皆が自分の意思でお互いを動かし、それでつながっていく。支援しながらそれぞれが力をつけて、実は支援されない状態になっていく。命令されるリーダーシップではなくて、みんながその気になってくようなリーダーシップ。そういう力を、若い、しかし自立心が高い大学生活の中で身に付けるということは、決して未来にマイナスにはならないよね。だから大学スポーツはいいですよ、その中でもラグビーはいいですよって言える。

ちょっと話はそれるが、帝京大学ラグビー部は連覇させていただいていて、それはとても素晴らしいことだと思う。でも卒業式でよく話をするのは、「優勝は、みんなの未来の保険にはならないよ」っていうこと。卒業したら卒業した世界の中で、自分をもっと成長させ、自分を変え続けていかないといけない。「大学4年間の過去の思い出に浸っているんじゃなくて、未来でのそのときそのときに、挑戦と自分の成長をしっかりリンクさせて、素晴らしい人生にしなよ」って話をよくする。いつまでも過去の話をずっと大切にしている人生ではなくて、もっといいものはこれからたくさんあるはずだし、きっと出会える。そういう人生にしていけるためにも自己成長をしないとダメだよ、と。卒業式はこれからまた挑戦のスタートだね、という話をよくする。

一番大事なのは自分を変える力。良い意味の野心を持って、自分を磨き続けていく力を、大学で得てくれることが幸せかなと思う。それが組織論の芯の中にあると。

―野球などでは監督のサインに従うことが多いけれども、ラグビーというのは自分で考えないといけません。

僕も、決勝戦が一番インカムで言うことは少ない。春は一番多い。伝えてあげないといけないことがAチーム、Bチーム、Cチームのそれぞれのレベルで違うけれど、最後は、自分たちで解決していくようになってほしい。そういう意味では、決勝戦は「ファイナル」というけれど、「その年の指導のファイナル」にもなってほしいよね。「最後は何もしなくて良かった」というようになるのが僕の理想。

(聞き手:慶應義塾大学蹴球部)

帝京大・岩出雅之前監督(下) 自立した学生を育て早慶明に挑戦、という大志があった

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