ラグビー

特集:大学から始まり世界へ 日本ラグビー125周年

早稲田大・相良南海夫元監督(上) 仕事をする上でも染みついているラグビーの価値観

「本当に大事なものとは何なのか」。その本質を考える重要性を語った相良南海夫元監督(インタビュー写真は提供・慶應義塾大学蹴球部)

「早稲田ラグビー 最強のプロセス」を著作に持つ、相良南海夫さんは、2018年から母校・早稲田大学を率い、20年に大学選手権を制覇し、11年ぶりの快挙を成し遂げました。社会人チームを率いてトップリーグ昇格を果たしたこともある名監督から、ラグビーがもたらしてくれた財産についてうかがいました。いまのラグビーはどのように見えるのか、3回にわたってお届けします。

大学から始まり世界へ 日本ラグビー125周年
第101回ラグビー早慶戦

「ラグビーを通したつながりが生きる助けに」

―まずは、ラグビーは、相良さんにとって、どのような存在なのか教えてください。

男らしさかな。ラグビーは、大学生で終えようと思っていたけど、社会人でも続けることになり監督にも就任しました。ちょっと競技から離れて、また早稲田の監督をやることとなり、結局、やっぱり切っても切れないものになっている。一言じゃ言えないが、大好きなんでしょうね。きっと。

―ラグビーのどんなところに男らしさを感じるのでしょうか?

ラグビーは、勇気を持たないと試合で戦えない。なので、痛いことキツイこともやらないといけない。当然、ラグビーだけじゃないけれど、試合で戦う80分のためにどれだけつらい練習をするか、キツイ練習をするかっていう。その中でメンタルを整える方法なども、すごく学んだ。ラグビーをやってきたからこそ、卒業して仕事をしていく中で、人のつながりに助けられたこともあった。

なかなか一言では言えないが、他の人と比べると、やっぱり不思議な縁がラグビーにあると思う。学校の枠を越えて人のつながりができるっていう意味では、すごく生きる上で助けられている。学びもあるし、色々な出会いが自分に蓄積されていって。僕も55歳になるけれど、これだけ年を取っても、まだまだそういう機会がいっぱいあるんじゃないかなと思う。

2020年1月、監督としてラグビー全国大学選手権で優勝を果たした(撮影・福留庸友)

「心の強い瞬間は自分を超えられる」

―ラグビーは切っても切り離せないのでしょうが、好きなところを教えてください。

試合で人が変われるところが、結構、好き。自分の性格もあるでしょうけど、意外と、普段はめちゃめちゃ戦うような男でもない。でも、今でもOB戦などでグラウンドに立つと、やっぱりスイッチが入っちゃって。絶対、勝ちたいし、「相手に負けたくない」っていう気持ちにさせてくれる。

人を気遣うことが世の中では、いっぱいある。その中で、ラグビーは、激しくて格闘技的な要素があって、ルールの中でなら何をしてもいいという極端なスポーツなので、自分の全てを出せる部分がある気がする。

―廣瀬俊朗さんも、等身大の自分が見える競技がラグビーだとおっしゃっていました。なぜ、そのような要素があると思いますか?

肉体的な強さ弱さ、心の強さ弱さも、全部出る。だから、プレーの中で、うそをつけない。弱い気持ちになったら、やっぱり弱い気持ちになった時のプレーしかできないし、体ももちろん、特に心が強い瞬間は自分を超えられる何かをできることもある。廣瀬さんが言っていた、等身大以上のものかもしれないが、そういう物が全て出るという意味では、その時の自分の気持ち、心体の状態、それが全て出るのだと思う。

「本当に成し遂げないといけないこととは何か」

―スポーツと関わることで、人はどのように成長していくのでしょう?

仕事とラグビーだと、心身が本当にきついのはラグビーだと考えている。仕事は、メンタルはきついかもしれないけれど、終わりも見える。自分の実感として、ラグビーのきつい練習や試合に比べたら、「仕事の方が圧倒的に楽だな」と感じる。タイガージャージや赤黒を着るといったゴールがある中で、やっぱりどうしてもつかみ切れないものもある。仕事は、組織として動いて色々な人で成り立つところもあるので、少し楽なのかもしれない。責任転嫁もできやすいでしょうが、ラグビーは自己完結しなきゃいけないから、そういう意味でも、本当にきついと思う。

―大学を卒業した後、相良さんがラグビーで学んだことがあると実感されましたか?

早稲田の場合、分かりやすいものとして「荒ぶる」(大学選手権で優勝したときにのみ歌える第2部歌。転じて『大学日本一』を指す)があり、明確な目標、目的になっている。結局、白か黒かということに関しては、勝ったか負けたか、「荒ぶる」を取れたか取れなかったか、というところがあって普遍的な目的、目標がある。

ただ、当たり前かもしれないが、ビジネスではそういったところがぶれることもある。目先の目的にすり替わることも結構多い。本当に成し遂げないといけないこととは何なのか、本当の目的を追い求めることが会社の中だと少なくて。その場その場で「帳尻を合わせればいいや」みたいなことも多いような気がする。

例えば、仕事では売り上げを上げる、利益を上げるということ以上に、メーカーでものづくりをしていたら、僕としては人に喜んでもらったり、使った人が幸せになったりとか、便利になるとか、本当はそこが究極のゴールのはずだと思う。なのに、そこを忘れちゃってるということをすごく感じて。そういう価値観を大事にするのは、ラグビーをやってきた、特に早稲田でラグビーをやってきたことで染み付いたものじゃないかなと思う。

そういう意味で、生意気なことを言うようだけど、会社というチームとか組織も、皆がそういう気持ちになったら、もうちょっとモチベーションが上がったり、何のために僕は仕事しているんだろうとかっていうことを感じられたりすると思う。自分自身も、やっぱり忘れちゃいけないっていうか。こう思うがゆえにつらいというか。「何のためにやっているのだろう」と思うこともある。けれど、年齢も上になってきて部下を動かさなければいけない時に、目先のことだけを言うのではなくて、「本当に大事にしなきゃいけないこと、本当に提供しなきゃいけないものを考えようよ」と言うと、やっぱり人が動くなって気はすごくします。だから、それはラグビーとかスポーツをやってきた良さかなっていうふうには思いますね。

(聞き手:慶應義塾大学蹴球部)

早稲田大・相良南海夫元監督(中) 「荒ぶる」を目指した経験こそがエネルギーに

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