ラグビー

慶應義塾大・中山大暉主将 創部125年「慶應らしさ」の原点に戻り、攻守とも攻める

慶應義塾大学の125代目主将に就任したHO中山大暉(すべて撮影・斉藤健仁)

1899年創部、125周年を迎えている慶應義塾大学蹴球部(ラグビー部)。日本ラグビーのルーツ校の125代目キャプテンに就いたのが、1年から試合に出続けているHO中山大暉(4年、桐蔭学園)だ。「No Magic」をスローガンに掲げ、2010年から勝利できていないライバル早稲田大学に勝利し、年越し(=大学選手権ベスト4)、そして創部100周年以来の大学日本一を目標に掲げた。

スローガンは「No Magic」 奇跡に頼らぬ

慶應義塾大は昨季、関東大学対抗戦では3勝4敗の5位で大学選手権に出場したが、3回戦で天理大学(関西2位)に12-41と敗れてシーズンを終えた。年越しは2014年度から遠ざかっている。

新主将に就いたHO中山は「昨季はスクラムやラインアウトといったセットプレーが、チームとしては少しうまくいかなかった。またキックでエリアを取るところがメインになりすぎていたので、ワークレートを上げてアタックでもディフェンスでも前に出て、慶應らしく泥臭いプレーをしたい」と語った。

モールは今季もチームの得点源となろう

2月、新チームが始まるとまず同期の4年生たちで話し合い、今季の目標を「日本一を目指しながら、10年間達成できていないベスト4以上」と設定。そして「奇跡に頼ることなく、ひたむきに練習を重ね勝利をつかむ」という部員全員の気持ちを込めて「No Magic」というスローガンを決めた。このスローガンは「慶應にかける気持ちが一番強く、慶應らしさを出せる選手」と新主将が信頼するFL田沼英哲(4年、國學院久我山)が案を出したという。

その後、投票でキャプテンに推されたのが、1年から試合に出続けていたHO中山だった。3代続いて桐蔭学園出身者がキャプテンに就いた。

すでにチームに一体感 天理にもリベンジ

スローガンとともに試合を見つめる青貫監督

スクール、中学、高校と主将経験はなかったが、昨季はスクラムリーダーを任されていたHO中山は「(昨季の主将のPR)岡(広将)さんにアドバイスをもらっていましたし、スクラムだけでなくFWリーダー的な役割を与えてもらっていました。自分の成長につながりましたし、今季、主将になるための土台ができた。昨季の4年生には感謝しています」と、十二分に覚悟はできていた。

昨季から指揮官を務める青貫浩之監督は新主将について「中山は冷静にチームをいろんな角度から見られるし、明るくリーダーシップも持っている。今季の4年生は、キャプテン中心に活発な代なので、チームを引っ張って〝攻める慶應〟を体現してほしい」と期待を寄せた。中山主将も青貫監督について「就任2年目を迎えて、タックルなど前に出る慶應マインドを浸透させるようなアプローチをしてくださっています。今季は、よりキャプテンやリーダー陣、学生コーチに任せてくれているので、やりやすいですね」と話す。

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4年生の代のカラーやキャラクターもあるのだろう。「試合に出ているFWは4年生が多いので、下級生に歩み寄って、チームで何をすべきか話すようにしている」と中山主将が話すように、春の段階ですでにチームは一体感にあふれていた。春季大会はBグループでの参戦となったが、開幕戦から3勝を挙げて、招待試合では昨年12月に負けた天理大に31-26と早速リベンジを果たしている。

花園連覇の桐蔭学園で2年からHO

中山が競技を始めたのは小学校3年生の頃だった。父親が高校まで野球をやっていたため野球と悩んだが、体格が大きかったこともあり、接骨院の先生に勧められたのがラグビーだった。神奈川・田園ラグビースクールで体験してみると「初めて行ったらどハマりしました!」。早稲田大のFL粟飯原謙(3年、桐蔭学園)はスクール時代からの幼なじみだ。

昨年の早慶戦。桐蔭学園の同期である早大の佐藤と健闘をたたえ合う

後に桐蔭学園高校で、早稲田大主将HO佐藤健次、帝京大学主将FL/LO青木恵斗、立教大学主将SH伊藤光希(いずれも4年)らとともに、「花園」こと全国高校ラグビー大会で連覇を達成することになるが、実は幼稚園から桐蔭学園に通っていた。「よく高校はスポーツ推薦と間違えられますが(苦笑)、ラグビーを始める前からずっと桐蔭です」

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中学に入ると学校でもラグビー部に入り、スクールでもたまに競技を続けた。高校ではさすがに1年から試合に出ることはかなわず、2年生から2番、4番、5番、8番などいろんなポジションで徐々に試合に絡むようになった。

そして大きな存在感を見せたのは、高校2年の花園だった。一つ上の正HO平石颯(筑波大学→横浜キヤノンイーグルス)が大会に入ってすぐけがをして、中山は準々決勝から2番を背負い優勝に貢献した。

高校3年時は、HOとしてセットプレー、得意のボールキャリーで存在感を示し連覇に寄与。大会優秀選手の一人に選ばれ、高校日本代表候補にも選出され、AO入試で慶應義塾大学に合格した。 

高校2年時の花園決勝。この年と翌年に連覇した桐蔭学園の同期たちは、多くの大学で主将・副将を務めている

ピッチの内でも外でも先頭に立って走る

最終学年の今季、個人としては、あまり得意ではないというタックルにも磨きをかけており、「ユーティリティーな選手として、セットプレーはもちろん、ボールを持つ回数を増やし、前に出るタックルをし、得意とするジャッカルも決めたい。機動力のある、動くフッカーとして見てほしいですね」。また、高校同期が対抗戦の主将・副将に多いことは、「主将として、チームの象徴として高校同期のみんなと戦えるのはうれしいし、余計に勝ちたいですね」と笑顔を見せた。

高校時代から名が知られた選手で、大学2年時から2番で試合に出続けているHO中山。当然、リーグワンのチームから声がかかっており、「日本代表を目指してみたい気持ちもあります」と話すが、来季以降の将来に関しては、少々悩んでいる。同期でラグビーを続ける予定の選手は他にはおらず、「行きたい業種、会社がある」と同期と一緒に就職活動もしている。

125代目のキャプテンとなった中山。「攻守とも前に出て、慶應らしさを取り戻す」と話す

趣味はオフに家族でコースを回るというゴルフ。尊敬している選手は、高校・大学の先輩で今夏日本代表に選ばれた同じポジションのHO原田衛(東芝ブレイブルーパス東京)だ。好きな言葉は「捲土(けんど)重来」。自ら書いた「No Magic」をグラウンドに張り出したように、寮のドアに張って毎日、目にしている。「慶應として100周年で止まっている。個人としても主将としてもチームとしても、日本一に返り咲きたい」 

今季、慶應義塾大は例年よりリクルートがうまくいき、37人の1年生が入部した。特に花園で優勝した桐蔭学園の後輩が6人、さらに、日本代表につながるトレーニングスコッド合宿に参加したFB小野澤謙真(静岡聖光学院)といった有望新人も多数加わり、戦力は大きく増した。

節目の今季、ファンにどんなところを見てほしいかと聞くと、「創部125周年を迎えています。100周年で優勝したので、また日本一になれるようにチーム一丸となってやっています。今季は、とにかく攻める慶應、つまりアタックでもディフェンスでも前に出て、慶應らしさを取り戻したい。125周年をキーワードにしていますし、原点に戻って慶應ラグビーを見せていきたい」とまっすぐ前を向いた。

黒黄の2番がピッチ内外で先頭に立って走り続ける先にこそ、ルーツ校の新しい歴史が待っている。

昨年100回目を迎えた早慶戦前に校歌を歌う

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