ラグビー

特集:New Leaders2023

慶應義塾大主将・岡広将 イチローさんの言葉「準備とは、言い訳を排除する」を胸に

慶應義塾大で今季の主将を務めるPR岡(すべて撮影・斉藤健仁)

日本ラグビーのルーツ校である慶應義塾大学蹴球部(ラグビー部)。黒黄のタイガージャージーで知られる伝統校は、大学選手権優勝3回を誇るが、2015年度以降はベスト4に進出することができておらず、ライバルの早稲田大学には2010年以来、勝てていない。そんな中、今季から大学時代にハードタックラーでならした青貫(あおぬき)浩之監督が就任し、「打倒・早稲田大」を掲げて強化を進めている。キャプテンにはPR岡広将(4年、桐蔭学園)が就いた。

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「キャプテンはチームのもの」と選出方法を変更

昨季の慶應義塾大は、対抗戦で早稲田大、帝京大学、明治大学に勝つことができず、4位で大学選手権に出場。準々決勝で関西王者の京都産業大学を苦しめたが33-34で敗れた。岡は「近年、ベスト4にも入っていないし、早稲田大には10年以上勝っていない。ブレークスルーするには大きく変えないといけない」と冷静に振り返った。

例年、慶應義塾大は新4年生だけの投票でキャプテンを決める。だが、岡は同期と話し、「キャプテンは4年生だけのものでなくチームのもの」と2、3年の投票に加えて青貫監督の考えも踏まえ、決めるようにした。「選ばれたらやる覚悟はありましたが、正直、キャプテンはプレーもうまいし視野も広い(SO山田)響がなると思っていました。ただ選ばれたからには、自分が提供できる価値は何なのか。練習、試合からポジティブになるなど、自分しかできないことを見つけて意識してやっています」

岡は、過去3年間に接した3人の主将について、ピッチ内外でチームを引っ張っていく「強烈なリーダーだった」と振り返る。その3人と比較した上で「自分にはそんな器がない。キックオフミーディングでもみんなに言ったが、だからこそすごく周りに頼って、周りの力を借りられるような人間になりたい。それが僕のリーダー像です。その上で行動していきたい」と足元を見つめている。

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周りの選手の力を借りながら、チームをまとめあげる

青貫浩之監督「彼のために頑張る人が多い」

栗原徹監督が退任し、今季は新たに「体を当てるところにこだわる」と意気込む青貫監督が就任した。「栗原さんにはプロフェッショナル的に指導していただいた。青貫さんはビジネスの世界で戦ってきた方なので、組織にこだわっている。青貫監督に自分の考えをすり合わせていきたい」と話した。

青貫監督は岡主将について「強烈なリーダーシップがあるわけではないですが、私生活の部分が優れていて、人間的にも信頼できますし、彼のために頑張る人が多い。今のままチームの求心力になって目標達成のために突き進んでほしい」と信頼を置いている。

今季就任した青貫監督も岡のことを信頼している

慶應義塾大は今年の春季大会Bグループで、対抗戦の筑波大学と日本大学に敗れて3勝2敗の3位に終わった。また早稲田大との練習試合では17-26と接戦に持ち込んだが、勝ちきれず。岡は「ロースコアで、シーソーゲームで勝ち切ることが必要。競ったときに、クオリティーの高いプレーができるか、いつも通りのプレーができるかが大事です」と話す。

勝つために逆算する文化を作っていきたい

岡は東京都渋谷区出身。小学3年のとき、幼なじみに誘われて世田谷区ラグビースクールで競技を始め、中学時代はキャプテンを務めた。高校は「家から通えて、全国優勝できるチームでストイックに自分の力を試したかった」と神奈川・桐蔭学園に進学。高校3年からレギュラーとなり、3番をつけて春の選抜大会、冬の「花園」こと全国高校ラグビー大会で優勝を経験した。なお、早稲田大学の主将SO伊藤大祐、青山学院大学の主将CTB桑田敬士郎らは高校の同級生だ。

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大学は「スポーツだけではなく自分の人間力を重視してほしかったのと、粘り強く泥臭いラグビーが自分に合っていると思っていた」と浪人覚悟で「一番難しい選択だった」という慶應義塾大を受験。AO入試で総合政策学部に合格した。

大学ではすぐに頭角を現し、1年時はリザーブから公式戦に8試合出場。2年時から3番を背負い、主軸としてプレーを続けている。昨季も対抗戦と大学選手権の全試合に出場して存在感を示した。4年になると伊藤や桑田以外にも桐蔭学園時代の同級生が各大学のリーダーとなっている。中でも特に意識しているのが早稲田大の伊藤だ。

「高校時代は伊藤が主将で僕はペーペーだった。僕は伊藤ができることがほとんどできないので、自分ができることを探していく。チームでも同じで、早稲田は慶應にできないことがたくさんあるが、慶應しかできないことがある」

フィールドプレーは岡の持ち味の一つだ

岡は早稲田大のOBで元日本代表FBの五郎丸歩さんに「慶應の悪いところは?」と質問したことがあるという。すると五郎丸さんは「慶應は相手を苦しめられたらいい、一泡吹かせればいいと思っている」という答えが返ってきた。

「勝負なので勝たないといけない。勝つために逆算する文化を作っていきたい。温故知新というか、伝統として続けてきたディフェンスは根底にあり、そこは継続していきたいが、ただその上で、明確に変えないといけない部分がある。新しくアタックをアグレッシブにするところを見てほしい」と岡は語気を強めた。

今季もモールはチームの得点源の一つとなる

国立競技場での「慶早戦」に向けて

来年からは就職し、トップレベルでのラグビーは今季が最後と決めている。好きな言葉は、プロ野球選手のイチローさんが言った「準備とは、言い訳を排除する」だ。「才能がないので準備の部分で勝つしかない」と自分に言い聞かせるように言った。

今季の慶應義塾大は「年越し(大学選手権ベスト4)、そして早稲田大に勝利すること」を目標に掲げた。今季の「慶早戦」は100回目の節目で、東京・国立競技場で開催されることが決まっている。岡は「11月23日の慶早戦を目標にしながら、一つひとつの練習、試合に取り組んでいきたい。慶應はディフェンスが強みですが、今季それがまだあまり出せていないので、それを体現するプレーヤーになりたい。もちろんPRとして、セットプレーでもリーダーシップを持ってやっていきたい」と意欲を口にする。

新監督となり、ひと味もふた味も違う黒黄ジャージーの姿を見せることができるか。岡はセットプレーと得意のタックルでチームを引っ張り、大学選手権の前に、まずは100回目の「慶早戦」での白星をめざす。

昨季の「慶早戦」は13-19で惜敗。国立競技場で雪辱を期す

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