ラグビー

慶應義塾大の新監督に青貫浩之氏 元主将の38歳、サラリーマン退職して異例の転身

左から、和田康二GM、青貫浩之新監督、栗原徹前監督(すべて撮影・斉藤健仁)

1月11日、日本ラグビーのルーツ校・慶應義塾大蹴球部(ラグビー部)が、神奈川・横浜のグラウンド横にある寮で監督交代記者会見を行った。登壇者は慶應義塾高校の指揮も務める和田康二GM(ゼネラルマネジャー)、今季で退任した栗原徹監督、そしてFWコーチから昇格し新たに指揮官となった青貫(あおぬき)浩之監督(38歳)の3人だった。3人はともに茨城・清真学園、慶應義塾大のOBだ。

FWコーチからの昇格

大学選手権では惜しくも準々決勝で敗退した部の現状について、和田GMは「他校が大学をあげて強化している中で、OB、OGの力、学生の頑張りで、ギリギリのところでベスト8を維持している。ベスト4、決勝、優勝を狙える時期が来るかもしれないが、慶應の置かれている立場は簡単ではない。ただ、慶應でラグビーをやる価値は他とは違うと思っています。文武両道でラグビーを頑張りたい、日本一成長したいといった学生が目指す部で、強いチームでありたいというのが我々の思いです」と話した。

続いてGMは「2019年から4年間指揮を務めていただいた栗原監督と話しながら、体制の継続も大事という考えもあり、栗原監督の下、FWコーチをしていた青貫氏が新監督になりました」と監督交代を説明した。

2022年度で退任する栗原前監督は、「この4年間、3年をコロナ禍で、未知のものに対して非常に濃い時間を、学生とともに試行錯誤しながら進めてきた。タフだったが、かけがえのない時間を過ごせた。成績をもう少し上げて青貫監督につなぎたかった。慶應は現時点で長期はないので、体制を継続しながら、いいものを引き継ぎ、改善すべきところを改善して、それぞれの監督がしっかりバトンをつないでいくことが大事。4年間、いっしょにFWコーチをしてくれた青貫新監督に絶大なる信頼もありますし、人間性、タフさ、誠実さ、本当にどれをとっても一級品の人間にバトンを渡すことができて、安堵(あんど)しています」と話した。日本代表経験もあるプロコーチの栗原氏は、監督やヘッドコーチという立場ではないが、他のチームで指導は続けるという。

「慶應らしいひたむきなラグビーを」

青貫新監督は「味の素株式会社で、(大学卒業後は)普通に一般のサラリーマンをしていました。最新のラグビーを教えることはできないかもしれないが、魅力的な人間を育てて、魅力的な組織を作って、慶應らしいひたむきなラグビーを体現していきたい。長所は厳しさ、人に対して誠実に接することかなと思います。40歳もいっていない、かなり未熟者なので、いろんな人に教えていただき、フラットに接して学生とともに一緒に成長していきたい」とまっすぐ前を向いた。

会見で拳を握りしめる青貫浩之新監督

監督の任期は2年だが、現在の段階では、青貫新監督は、2期4年は指揮を執る予定だという。週末の社会人コーチは何人か新たに呼ぶ方向だが、三井大祐ヘッドコーチら主要なコーチは留任するという。

ハードタックラーから営業部隊のトップへ

青貫監督は、高校の先輩である栗原前監督や和田監督が慶應大で優勝した姿に憧れて、清真学園中からラグビーを始めた。高校時代は主にWTB、FBといったバックスとしてプレーし、3年連続で「花園」こと全国高校ラグビー大会に出場。高校日本代表に選ばれるだけでなく、後にラグビーワールドカップに出場したFB五郎丸歩(静岡ブルーレヴズCRO=クラブ・リレーションズ・オフィサー)、CTB今村雄太(サニックスアカデミー)、PR川俣直樹(三菱重工相模原)らとともに、日本ラグビー協会の「エリートアカデミー」にも選出された逸材だった。

新監督としての抱負を述べる青貫浩之監督

念願がかなって慶應義塾大に進学した後はFLに専念し、ハードタックラーとして名をはせ、大学4年時にはキャプテンを務めた。当然、社会人チームからもオファーはあったようだが、「(大学卒業後は)ラグビーを心の底からしたいと思っていなかった。慶應が好きで、慶應以外でやろうと思わなかった。今回も慶應じゃなかったら、監督を引き受けてなかったと思います。(慶應のラグビーに)恩返しをしたい」と語気を強めた。

そのため、慶應大バスケットボール部出身という妻の理解も得て、「任務をまっとうしたい」と3月末に勤めていた味の素を辞めて、退路を断ってフルタイムで指導にあたる。

グラウンドに立つ青貫浩之新監督

青貫監督はサラリーマン時代、大阪、タイなどで営業に従事。特にタイでは英語を話せる人がほとんどいない状況の中、1000人の営業部隊のトップを務めた。また最近では、新商品の開発やマーケティングに従事するなどビジネスの最前線で体を張っていた。サラリーマン時代の手腕、組織改革に大いに期待がかかっている。

「(一番の強みは)学生の身になって一緒に考えることができることです。細かい戦術は教えることはできませんが、一緒に成長をサポートできると自負しています。慶應大は、人材獲得が難しい状況ですが、全員でラグビーする流れは、慶應が目指すべき姿です。今のラグビーを習得することで成長していきたい」

意識するのは、現役時に勝てなかった早稲田大

栗原監督と青貫コーチ時代の4年間は、関東大学対抗戦で明治大、帝京大にも勝利したが、早稲田大だけには勝利できなかった。青貫監督も選手時代は早稲田大に勝つことができず、「早慶戦」の白星は2010年から遠ざかっている。「(早稲田大を)意識するなと言われても意識してしまいますね(苦笑)」と正直に話した。

新主将にはPR岡広将(3年、桐蔭学園)、副将にはFB山田響(3年、報徳学園)が就く。

新チームの主将となるPR岡広将
新チームの副将FB山田響

青貫監督は「日本一を目指すことから逃げない。ディフェンスを軸に全員でハードワークして、少しずつ得点を挙げていきたい」と腕を撫(ぶ)した。早速1月14日にキックオフミーティングを行い、15日から本格的に始動にあたる。

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