ラグビー

慶應大・今野勇久主将 最初に来て部室を掃除、「行動と発言の一致」でめざす日本一

150人以上の部員をまとめ上げ、大学日本一をめざす(すべて撮影・斉藤健仁)

大学選手権で3度の優勝を誇る、日本ラグビーの「ルーツ校」慶應義塾大学。毎年、日本一を目標に掲げているものの1999年度から20年以上、栄冠から遠ざかっている。そんな名門大の123代目の主将に就いたのがフランカー(FL)今野勇久(ゆうく、4年、桐蔭学園)だ。「今季でラグビーは最後になるので最高の形で終わりたい」と意気込む伝統校のスキッパーに迫る。

「このチームのために勝ちたいと思える環境を」

慶應義塾大は昨年度、関東対抗戦で4位に終わり、大学選手権は準々決勝でリーグ戦王者の東海大学に敗れた。近年、日本一どころか2014年度以来、正月超えすらできておらず、過去6シーズンのうち5年間はベスト8止まりというやや苦しいシーズンが続いている。

新チームがスタートするにあたり、「最後、キャプテンになって日本一になりたいと思っていた」という今野は自ら立候補し、同期からの投票によって選ばれた。副将にはセンター(CTB)鬼木崇(4年、修猷館)とウィング(WTB)佐々木準(4年、桐蔭学園)が就いた。

今季のスローガンは「リボーン」と定めた。今野は言う。「1999年度から23年間、優勝していない。今まで見たことのないチームに生まれ変わらないといけない。また負けたときやうまくいかないときがきたら、そのたびに立ち上がり、強くなるという両方の意味を込めました」

自ら立候補した主将として、周囲に目を配る

目指す主将像を聞くと今野は「特に目標としている人はいません。『キャプテンに見えないキャプテン』とういか、みんなでやっていくという自分が描いているキャプテン像にチャレンジしています」とキッパリと答えた。

「先頭で引っ張る、模範になるのは当たり前です。ただ自分自身、カリスマ性や世界で活躍できるような選手ではない。だからこそ、試合に出ている15人だけでなく、全部員、トレーナー、マネジャーといったスタッフも含めて、一つの方向に向き、『このチームのために勝ちたい』と思える環境を作れるか」

桐蔭学園高校では「6軍」からのスタート

慶應愛、自チームに対する思いが人一倍強い今野は、3歳から東京・世田谷区ラグビースクールで競技を始めた。父の英博さんが上智大学のアメリカンフットボール部OBで、似た競技ということでラグビースクールにつれていったという。幼稚園、小学校はそのままスクールで楕円(だえん)球を追った。

中学受験で成蹊中学に合格し、ラグビー部に入部した。一貫してFWだった今野は、東京都選抜(部活動)に選ばれ全国大会に出場したが、準決勝で負けて3位に終わり、日本一には届かなかった。なお慶應義塾大で同期のスタンドオフ(SO)中楠一期(4年、國學院久我山)と副将のWTB佐々木は東京都選抜時代のチームメートだ。

「本気になれる高校で、日本一になりたい!」。そう決心した今野は、親から反対を受けたが、成蹊高校に上がらずに、一般受験で桐蔭学園(神奈川)に進んだ。しかし先輩や推薦で入学した選手の中では、6軍からのスタートだったという。

高校では、2年から徐々に試合に出られるようになり、3年では早稲田大学のスクラムハーフ(SH)小西泰聖がキャプテンを務める傍ら、副将としてFWを引っ張った。春の選抜大会こそ、ピッチの上で初の日本一を経験したが、「花園」こと全国高校ラグビー大会は決勝で大阪桐蔭に24-26で敗れ、涙をのんだ。

桐蔭学園時代は「花園」で決勝まで進出した

気になった選手とは、面と向かって話す

身長178cm。決してFWとして大きくなかった今野は「自分も(体格が)大きくなくて泥臭くやってきたので慶應でやりたい!」と、入学以前から漠然と黒黄ジャージーに憧れていた。また「文武両道も貫きたい」という思いも強く、AO入試で総合政策学部に見事合格。大学1年時からロック(LO)やFLとして試合に出場し、運動量と得意とするジャッカルで存在感を示してきた。

主将となり「フラットな視線で1~4年生まで目配せしサポートしている」と言う今野は、みんなが使う部室を一番に来て掃除し、部員とコミュニケーションを取ることが日課となっている。また気になった選手がいれば、学年関係なく、LINEやSNSを使うことはせず、面と向かって話すことを心がけている。

今季で4シーズン目を迎えている栗原徹監督からは、主将として行動と発言の一致を求められている。「例えば試合で一番トライを取るということはコントロールできませんが、練習するということはコントロールできることなので、やっているつもりです」と今野は言う。

身長178cmながら、ときにラインアウトも担う

部員は150人以上いるため、A~Cというグレードに分かれており、練習時間が異なる。そのため今季は、SNSやYouTubeに積極的に取り組むことで、外部へのアピールと同時に、学年やグレード関係なくコミュニケーションを取る機会を増やした。今野は「みんな仲良くなってきた。どのグレードの試合でも応援するようになっています」と手応えを感じている。

心強いルーキーと同期の台頭

慶應義塾大のラグビー部は「伝統のタックル」を武器としている。今季は「タックルだけでなくボールを取り返すこと」まで強く意識し、「見ていて面白いディフェンスをしたい」。またアタック面では、近年得点源としているFW陣もモールを武器にしつつ「スペースにボールを動かしてアタックしたい」とテーマを掲げる。

関東大学春季大会はBグループで2勝2敗1分。5月の練習試合では、ライバルの早稲田大学に21-38、6月には2季前の大学王者・天理大学に19-36と敗戦。それでも今野主将は「春は(攻守ともに)自分たちの形にチャレンジができていた。勝敗も重要だが、どこができてどこができていないかが明確になった」と一定の手応えを口にした。

また高校と大学が連携して強化している慶應義塾大は、純粋なスポーツ推薦で入部する選手はいないが、ルーキーが台頭していることが心強い。フルバック(FB)今野椋平(1年、桐蔭学園)を筆頭に、CTB山本大悟(1年、常翔学園)、SH杉山雅咲(1年、大阪桐蔭)、WTB伊吹央(1年、慶應義塾)らが春、Aチームの試合に出場し、今野は「負けられない!と大いに刺激になっていますね」と目を細めた。

慶大では1年のときから試合に出て、経験を積んだ

また4年生のLO栗田大次郎と富澤友凱は、ともに慶應義塾高校出身の選手だが、コツコツと努力して4年になりレギュラーに絡んできた。今野主将は「3年間下のグレードでやっていた選手で、自分たちの代で戦力になっている。同期ですが2人とも尊敬しています」と信頼を寄せる。

156人が立場と役割を100%理解しないと

目標を聞くと今野は「もちろん日本一です!」と語気を強めた。ただ大学選手権で準決勝以上を目指すには、対抗戦で優勝や上位進出することが欠かせない。今野主将もそのことは十分承知しており、「エンジンがかかるのが遅いので、シーズンの入りから飛ばしていきたい」と意気込む。8月は、伝統の山中湖での合宿と実践を積む。そのために菅平で合宿し、力を蓄え、9月11日の初戦・日本体育大学戦に挑む。

あえて「どうしたら日本一になれるか?」という質問をぶつけてみた。今野は「一人ひとりが一生懸命になる。本気で日本一を信じて行動することだと思います。自分たちもタレントがいないわけでないが 他の強豪大に比べて少ない。だからこそ156人の部員全員が与えられた立場、役割を100%果たして、支え合わないと他校に対抗できない」と自らに言い聞かせるようにいった。

日本一になるには「本気で日本一を信じて行動すること」と語る

今野は卒業後、「リーグワン」強豪チームからの誘いを断り、父親と同じく商社で働く予定だ。そのため「3歳からラグビーをしていて、最後のシーズンになるので最高の形で終わりたい」という思いは強い。20年後、30年後の話となるが、働きながらオーストラリアやニュージーランドなど世界のラグビーを学んで「将来は慶應義塾大学の監督もやってみたいです」という希望も口にした。

「部員がそれぞれの立場、うまくいっていない状況に悩んで、もがいて、奮闘している姿を見ているので、キャプテンとして勝たせたいし、みんなで勝ちたい」。今野がピッチ内外で常に汗をかき、150人を超える部員の先頭に立って、今季こそベスト8の壁を突破し、日本一を目指す!

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