ラグビー

早大の桑田陽介と慶大の鬼木崇 回り道して分かる伝統の価値、誇りをかけて早慶戦

早稲田大のLO桑田陽介(左)と慶應義塾大CTB鬼木崇(撮影・朝日新聞社)

大学ラグビーで大正11年(1922年)に始まった早慶戦が11月23日午後2時から東京・秩父宮ラグビー場で開かれる。早稲田大のLO(ロック)桑田陽介(4年)と慶應義塾大のCTB鬼木崇(3年)はともに2年間浪人して入部後、先発の座をつかんだ。人知れぬ苦労をして伝統チームの主力となって何を感じているのか。直接顔を合わせる98回目の定期戦を前に聞いた。

県立高から一般受験

桑田は愛知県立明和高、鬼木は福岡県立修猷館高と公立の進学校でラグビーに打ち込んだ。最後の全国高校大会はともに県予選の準決勝で敗れて「花園」には届かなかった。2人は秋まで楕円(だえん)球を追っていたこともあり、「現役で合格するのは現実的に難しい」(桑田)、「本当に勉強していなかった。絶対、受からないだろうな」(鬼木)。同じように早慶を受験したが、お試し感覚で不合格だった。

桑田は入部テストで不合格。追試で滑り込んだ(撮影・斉藤健仁)

桑田は早大を目指した理由を「高校は初心者の寄せ集めのような集団だった。それも楽しかったが、高度に計算されたラグビーをやってみたいと早稲田に心を寄せた」と言う。慶大を目指した鬼木は「高校と似たようなチーム。福岡で(全国トップレベルの)東福岡高を明治、早稲田に例えるなら、修猷館は慶應みたいなスタイル。タレントがいない中で勝っていき、自分の持ち味に合うと思った」。

鬼木の1浪目は5点届かなかった(撮影・朝日新聞社)

2年間の浪人生活

1浪目はともに地元の予備校に通った。鬼木は翌年、慶大の複数の学部を受験したがどこにも受からなかった。ただ、文学部は5点足りずに補欠合格だった。関西の私立大学に合格したが、「行きたいところに行きないさい」という親からのアドバイスもあり、前向きに2浪を決めた。大学ラグビーに備えて週1回、ウェートトレーニングをしていたが、「その時間を勉強していれば、あと5点は届いたのでは」と2浪目は体を動かす時間も勉強にあてた。

桑田は苦しんだ。センター試験を利用して早大を目指したが、点数がついてこなかった。その後、関西の私大も受けたが不合格に。桑田が愛知県豊田市から名古屋市の明和高に通ったのは「文武両道を実現したい」と親に無理を言った経緯があった。「自分のやりたいようにやらせてもらったのに、学業をおろそかにして、浪人しても結果を出せない。何をやっているんだろう」。2浪目に入ると目の前の勉強に向き合うことで精いっぱいで、ラグビーのことはほとんど考えなかった。3度目の受験を控えた秋、たまたま自宅で数年前の早慶戦の録画をみた。「やっぱりいいな」。追い込みの勉強に力を与えてくれた。

本当の苦労は入部後

早大スポーツ科学部に入った桑田は浪人時代に増して苦労した。身長185cm、高校時代は85kgだった体重は最も多い時で110kg(現在は100kg)ぐらいまで増えた。全く走れない。「気合で乗り切れると思った」というラグビー部の入部テスト。初日の最後は1500m走を3回繰り返したが、ビリを走っていた3本目の残り200mほどで意識がなくなった。気付いたら病院のベッドの上に。当然、不合格。「来年、また挑戦を」と言われたが、「来年なんて考えられない、今年入りたいと」と食い下がった。肉体改造のメニューを渡され、3カ月の猶予を与えられた。孤独なトレーニングと食事で体を絞った。入部が認められのは夏合宿前。稲穂のマークが入った練習着などを手渡され、涙があふれた。

最上級生になった桑田は後輩に目配りする(撮影・斉藤健仁)

2浪目に慶大の三つの学部に合格した鬼木は法学部に入った。桑田とは逆に落ちた体重を戦える体に増やすのに苦労した。今、部内で2浪は鬼木だけ。「最初は気を遣いましたが、ラグビーをやれば名前で呼び合うし、同期も気にせず接してくれた」。小柄だがラグビーセンスがあり、1年目から試合に出る機会を得た。小学生からラグビーを始め、草ケ江ヤングラガーズに所属した中学3年生の時には太陽生命カップ全国大会で3位に入った。その大会の準決勝で敗れた芦屋ラグビースクールのFW小林賢太(東福岡高-早大4年)は、当時一つ下の2年生。迎える早慶戦では一つ「先輩」として対戦する。

早慶戦は3年連続出場になる鬼木(撮影・朝日新聞社)

桑田は大学2年生の春の明治大戦で初めて「アカクロ」のジャージーに袖を通した。「先輩のけがもあり巡ってきた。中身はスカスカでした。でも、どんな理由であれ忘れられない」。真っ先に親へ報告した。部の後輩では2浪に加え、3浪も頑張っている。「いろんな過去を持つ選手をわけへだてなく受け入れてくれるのも早稲田のよさと思う。後輩たちを応援しているし、自分もそういう面で何か影響を与えられれば」

「体を張る」「防御で流れ」

早慶戦では、桑田が4年目で初めて先発する。「ロックは一番チームに勢いを与えられるポジション。うまいプレー、器用なプレーができるほうではないので、泥臭く愚直に最前線で体を張る」。今季から13番で起用されている鬼木は3年連続の出場。「すごいアタック力を持つチームに対し、80分粘り強く戦えるのは慶應だけ。ディフェンス重視でやってきたので、そこから流れを作りたい」

早慶戦の通算対戦成績は早大の70勝20敗7分け。関東大学対抗戦で早大は1敗、慶大が2敗とともに自力優勝の可能性はないが、今年も意地と誇りをかけた戦いは変わらない。

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