早稲田大学・佐藤健次新主将 気負わずワクワク楽しく、でも貪欲に日本一を追い求める
大学選手権優勝16回を誇る、えんじのジャージーで名高い早稲田大学ラグビー部。2019年度以降大学日本一から遠ざかっている中、107代目のキャプテンに就いたのは、ファンの予想通り、1年から躍動してきたHO佐藤健次(4年、桐蔭学園)だった。
今季は大田尾竜彦監督の4シーズン目。佐藤は「大学選手権の決勝で、最後1点差でもいいので多く取っていれば優勝なので、本当にその景色だけを追い求めてやりたい。そして、4年間一緒にやってきて感謝しているので、大田尾監督を胴上げしたい」と語気を強めた。
昨季最終戦は「人生で一番悔しい敗戦」
昨季の早稲田大は、関東大学対抗戦は帝京大学に21-36、明治大学にも38-58と、善戦したが敗れた。対抗戦3位で進出した大学選手権では、2回戦の法政大学にこそ快勝したが、準々決勝で関西王者・京都産業大学の前に28-65で大敗した。佐藤は「(高校の先輩でもある昨季のキャプテン伊藤)大祐さんの存在もあったので、大学選手権の決勝で負けた試合より、人生で一番悔しかった」と振り返った。
年内にシーズンが終わった早稲田大は、新年は1月9日から新チームの練習をスタートさせた。「もしかしたら2、3年生は、ちょっと嫌だったかもしれませんが、4年生はラスト1年なので休んでいられない。大学ラグビーは結局、4年生のものだと思うので、別に早いという気持ちはなかった」(佐藤)。まずはフィジカル、フィットネスと個々の身体の部分と、スキル練習はジャッジ、判断に重きを置いたトレーニングを重ねてきた。また、京都産業大でプレッシャーを受けたスクラムも最初から練習しており、3月下旬からは15対15のアタック&ディフェンスの練習も始めた。
監督「喜び・熱さを表現して引っ張って」
新チームが始まると、投票と話し合いでキャプテンを決めた。学生スタッフも含めた同期の投票、そして卒業した昨季の4年生の票は、大半が佐藤に集まった。「この代は、1年からコンスタントに出ていた自分と宮尾(昌典)の2人が引っ張っていくと思っていたし、自分が一番、変えていかないといけないと思っていた。キャプテンになりたいとはあまり思っていなかったですが、もともとチームを引っ張ろうと思っていたし、票も入ったので、『やります!』となりました」
大田尾監督は「佐藤は1年から主力として活躍してきて、一番悔しい思いをしてきた選手です。持ち前の明るさ、そしてラグビーをやる喜びや熱さを全身で表現して、引っ張っていってほしい」と期待を寄せた。
副キャプテンは、佐藤が「僕同様に勝ちに貪欲(どんよく)なタイプだったので」という理由でSH宮尾(4年、京都成章)を指名した。もう一人の副将候補だったというCTB/FB守屋大誠(4年、早稲田実業)には、「委員会」と呼ばれるリーダーグループの運営を任せた。
「いいチームより、最強のチームを作る」
スローガンは、2月末の合宿で同期との話し合いの末に、自分自身と他チームに圧勝するという意味の「Beat Up」と定めた。「いいチームを作りたいという思いもありますが、僕は強い早稲田を取り戻したい、最強のチームを作りたいという気持ちがすごくあった。そうなったとき、どの言葉が一番ハッキリ伝わるか、わかりやすい言葉にしたかった。チームの共通認識として一番に来るのは、相手チームを圧倒して勝つという思いで、この言葉になりました」
目指しているキャプテン像を聞くと、佐藤は「大学1年生の時は、高校同様に、ただラグビーを楽しんでいた感覚でしたが、大学2、3年生は、勝たなきゃいけないという責任感が強くて、結果にコミットし過ぎて縮こまっていた。シーズンオフに『(佐藤)健次はワクワクしてプレーしているときが、一番いいプレーしている』と言われて、確かにそうだなと。その言葉をきっかけに変わったというか、キャプテンになったからといっても気負わずに楽しくやろうとしていて、そこからチームとしてもいい雰囲気でできている」と話した。
昨季の反省を踏まえて、今季、新たに取り組んでいることを聞くと、佐藤は「優勝するためには、もっと主体性を持ってやっていきたい」と強調した。「昨季は監督、コーチ陣にやらされてしまったという反省があがりました。コーチ陣が悪いわけではなく、選手たちから言わなければいけなかった。だから今季は、自分たちから何をしたいか話すという主体性を意識し、コーチ陣も教えすぎない環境を作ってくれている」と説明した。例えばFW練習のレビューは、昨季はコーチに全部任せていたが、今季は1週間ずつ一人の選手に任せて、その選手がコーチ陣とすり合わせをした後に発表しているという。
エディーさんから「80分相手の脅威になり続けろ」
個人としては「昨季は大学3年間の中で一番パフォーマンスが良かった」と振り返る。2月にはラグビー日本代表の指揮官に再び就任したエディー・ジョーンズHCから、福岡で行われた強化合宿に呼ばれた。2日間という短い期間だったが、初めて日本代表活動に参加した。
「エディーさんに、『オールブラックスだったHOデイン・コールズ(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)みたいなフッカーを目指して、80分間、相手の脅威になり続ける、ずっと働き続ける忙しい選手になりなさい』と言われました。また、メンタリティーのところで、『テストマッチに出る選手として、大学のレベルに合わせちゃダメ』とも言われました。スクラム周りは自分の中でもだいぶつかめてきましたし、ディフェンスも良くなってきていますが、ワークレートやラインアウトのスローイングは自分の中では課題です」
代表活動参加で変わった意識
4月に入って5日から20日まで、4人いるオーバーエージの一人としてU20日本代表とともに「JAPAN XV」として「パシフィック・チャレンジ」にも参戦している。いいアピールができれば、6月の日本代表合宿に呼ばれる可能性も十二分にある。佐藤は「大学在学中から日本代表に呼ばれたらうれしいし、名誉なことですが、もし今回、呼ばれなかったとしても、2027年のワールドカップにスタメンで出場できれば」と先を見据えた。
日本代表活動に参加して、「食事、睡眠などすべてにおいて意識が変わった」という佐藤。オフでもお酒を飲むこともなくなり、体重は110kgから現在は105kgに落とした。ベンチプレスは、高校時代のマックスは110kgだったが、今は155kg回を5回、160kgを3回上げられるようになった。大学卒業後は、リーグワンのチームにプロ選手として進む予定だ。
ラストイヤー、有終の笑顔で飾れるか
2019年度に優勝してから、早稲田大は2度決勝に進出しているものの、頂点に立つことができていない。今季の目標は、もちろん大学選手権で優勝して「荒ぶる(優勝したときにしか歌えない第二部歌)」を歌うことだ。佐藤は「優勝できると思って早稲田大に来たが、自分の思うような3年間ではないしんどい時間が続いている。でも過去は変わらないので、今季勝つために何ができるか、しっかり考えて行動したい。そして今季、優勝して、強い早稲田を取り戻したい。そのためにも春シーズンから結果を意識して勝ち癖をつけていきたい」と、ラストシーズンへ向けての思いを語った。
今季の早稲田大の見てほしい点を聞くと、佐藤キャプテンは「今季のチームでは『オールタイムアタック』というのを掲げていて、アタックだけでなくディフェンスでも、80分攻撃し続けるところに注目してほしい。また、高校日本代表に入ったことがないような、小さな選手でも受験で入ってきて頑張るのが早稲田の良さだと思う。今季は、昨季はなかった『ラグビーを楽しむ姿』を見てほしいし、僕はその一番先頭に立って、笑顔でラグビーを楽しみます!」と、トレードマークである大きな笑顔を見せた。
中学、高校時代もキャプテンとして日本一を経験している佐藤。ラストチャンスとなった今季、早稲田大でもキャプテンとして優勝し、有終の美を飾ることができるか。