フィギュアスケート

同志社大・友野一希「メダルをとれる選手に」 雑草魂で目指すオリンピック

9月の「ドリーム・オン・アイス」に出演した友野一希(代表撮影)

「あの友野選手が最年長?」。そう思ったファンも多かったかもしれない。9月に行われたフィギュアスケートのアイスショー「ドリーム・オン・アイス」で男子シングル最年長で登場したのが、2018年世界選手権5位、同志社大学スポーツ健康科学部の友野一希(4年、浪速)だった。愛されキャラの男の子がいつの間にか後輩を引っ張るお兄さんの顔になっていた。競技で世界トップを目指す一方、大学では卒論研究も意欲的に取り組んでいる。競技と学業の両面を通して見える22歳の素顔を紹介する。

同志社大学が「大好き」

「本当にこの大学に来てよかったと思います。同志社大学が大好きです」。そう嬉しそうに語る友野が同志社大学を選んだ理由は「一番学びたいと思えるものがあった」から。それがスポーツ健康科学部だった。いざ入ってみると「想像以上にサイエンスでした」と笑う。

大学には未知の世界が広がっていた。「入学前はスポーツといったら体を動かすことだけでした。それがトレーニングや栄養学、コーチングなどが教科書になっていて、スポーツにもしっかり学問があると知ったときに感動しました」。1、2年次に栄養学やトレーニング方法、バイオメカニクス(生体力学)などスポーツ健康科学の基礎を学び、3年間でほぼ単位を取り終え、いまは生理学専門のゼミに所属して卒論研究に取り組んでいる。

演技の心拍数や乳酸値を調査

卒論のテーマはフィギュアスケートのパフォーマンス向上法の検討だ。自身のショートプログラムとフリーで心拍数や乳酸値を計測し、運動強度の違いや数値の変化を調べる。「演技前半から後半にかけて乳酸値がどう変化するのかを明確にし、疲れが溜まった状態でエレメンツの正確性を上げるにはどんなトレーニングをしたらよいかを考察していきたいです」

陸上との違いにも興味がある。陸上のインターバルトレーニングに近いのではないかというのが友野の考えだ。「フィギュアスケートは陸上と違い、有酸素と無酸素の繰り返し。ジャンプを跳ぶ前やエレメンツの後は呼吸を整えていて心拍数も上下します」。そこで立てた仮説はプログラムをしっかり滑り込んで体力を作るのが一番だということ。研究を通して検証していく計画だ。

インカレも大事な大会

トップ選手であっても友野にとって学業との両立は特別なことではないという。「昔から学校に行くのは当たり前でした」ときっぱり。シーズン終盤の多忙な時期は教授に相談して課題を出してもらうなどやりくりした。出席が求められる「基礎実習」は特に大変で2年がかりで単位を取った。「大学はリフレッシュにもなっています。スケートを忘れられる時間で、それは僕の中では大事な時間です。たくさんの人と話して学べましたし、知識も吸収できました」

大学同士が競うインカレも大切にしている。「競技を突き詰めると自分のことが嫌いになることもありますが、インカレはフィギュアスケートを楽しめる試合なんです。応援もすごいです」と語る。最終学年で臨むはずだった年明けのインカレは中止が発表された。「めちゃくちゃ悲しいです。引退する同期はショック受けていて……」と肩を落とす。代替大会が開かれることを祈りながら、自身は年末の全日本選手権、そして世界選手権を見据えて練習に励んでいる。

2020年四大陸選手権フリーの演技(撮影・朝日新聞社)
【写真】全日本の表彰台を目指して、友野一希の挑戦

前進できた昨シーズン

2018年世界選手権で5位入賞して以降、伸び悩んでいたが復活の兆しを見せている。「苦しくて、また世界のトップで戦いたいという気持ちの中で自分の演技ができない試合が続いていました。ですが昨シーズンの最後は練習してきたことがやっと形になってきて、自分の実力を出し切れるようになってきました」。振り返れば「大きく前進できたシーズン」だった。

だからこそ、いい演技をした四大陸選手権は悔いが残った。SPでは優勝した羽生結弦(ANA)と同じジャンプの構成で20点以上の差が開いた。総合順位でもほぼノーミスの演技をした星槎国際高校横浜1年(当時)の鍵山優真の後塵を拝した。

再びトップで戦うために必要なことは何なのか。友野の答えははっきりしている。完成度だ。「鍵山選手や佐藤駿選手(埼玉栄高校)のように勢いのある若手を見ていると、宇野昌磨選手(トヨタ自動車)が出てきたときのような感じです。上にいく選手は演技の完成度もすごい。一つ一つの技、プログラムの流れ、スピンやスケーティング。自分に足りないところを痛感しました」

オフシーズンは自分に足りないところを補うため、スケーティングやスピンも意識的に練習した。新型コロナによる活動自粛で氷上練習は約1ヶ月半できなかったが、ウェートやスクワットなどの陸上トレーニングに加え、足の左右の筋力差をなくすトレーニングにも取り組んだ。「歩いていても滑っていても、足の裏から体全体につながっています。足の裏の筋肉はすごく大切だと思っていて、リンクにのったときその感覚がよくなるようにやっていました」。スピードスケート選手のトレーニングも参考にしたという。

メダルのとれる選手に

ジャンプに関しては昨シーズンからトーループとサルコーの2種類の4回転ジャンプを投入、精度も上がってきている。プログラムは継続し、SP2本、フリー3本の構成を予定している。

先月の近畿選手権で優勝した友野は、今月末の西日本選手権に進んだ。そして年末の全日本選手権、世界選手権でメダルを狙う。常に目指しているのは「メダルをとれる選手」だ。来シーズンは北京オリンピックも待っている。「毎年毎年ちゃんと進化できていると実感しています。僕は『雑草魂』でこれまで下から這い上がってきました。伸びしろがたくさん、と思って頑張っています。まだ限界を感じていないのでやれるだけやりたいです」

フィギュアスケート・友野一希の動画メッセージ

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