フィギュアスケート

早大の石塚玲雄「フリーを絶対に滑る」 全日本選手権で最高のラストダンスを

ラストシーズンのショートプログラムは自ら振り付けした(撮影・浅野有美)

12月23日にさいたまスーパーアリーナで全日本選手権が開幕する。北京オリンピック最終選考会を兼ねる特別な大会。そして今季で現役引退する選手にとっては最後の大舞台となる。早稲田大学スポーツ科学部4年の石塚玲雄(駒場学園)も卒業と同時に競技生活にピリオドを打つ。最高のラストダンスを観客に届けるためラストスパートをかける。

スポーツ科学を学ぶために早大へ

石塚は東京出身。3歳の頃、シチズンプラザのリンク(東京都新宿区、2021年1月閉館)に父と遊びに行ったのがスケートを始めたきっかけだ。そのリンクには板井郁也(ふみや)さん、鎌田英嗣さんら全日本選手権に出場する男子選手がそろっていた。石塚も全国レベルで活躍する先輩たちの背中を追いかけた。中学時代からダイドードリンコアイスアリーナ(東京都西東京市)に拠点を移し、東京を代表する選手に成長した。

スポーツ科学を学ぶため早稲田大学に進学。駒場学園高校の1学年上の先輩で国際大会の表彰台も経験した永井優香さん(昨季引退)の存在も大きかった。「スポーツの科目が充実していて、強い選手が多いというイメージだった」と言う。スポーツの科目といっても生体力学や心理学、栄養学、経営学などアプローチは多方面にわたるが、石塚は筋肉の種類や動作の分析、ストレッチの方法やトレーニングの組み立て方など科学的な視点から学んだ。得た知識は練習や試合で生かすようにした。

「こういう方向からもスポーツって学べるんだというのをすごく感じて、新しい発見が多くありました。スポーツをいろんな側面から考えられるようになったし、視野が広がったと思います」

朝練をして授業に出席し、リンクに戻って夜まで練習する生活。大学の試験と大会が重なった時は早めに課題を提出したり、レポートや小テストに変更してもらったりして乗り切った。いまはスクワットジャンプの跳躍法をテーマに卒業論文を執筆中。「前方重心、後方重心、中足部重心、どの重心で跳んだ時が一番跳びやすいか研究しました。スクワットジャンプは上肢や膝関節の反動を使えないためジャンプ力が試され、結果としても個人差が出やすくわかりやすいと考えて選びました」と話す。

2020年2月に鎌田英嗣さん(右から2人目)の引退エキシビション「HIDES ON ICE」に出演した石塚(左端、撮影・浅野有美)

スケート部で自信を持てた

スケート部に所属し、今年度はフィギュアスケート部門の主将を務める。4年間で一番成長したのは精神面だという。

実は大学に入るまでは自分に自信が持てなかった。「考えすぎてしまうタイプで。大学でいろんな人と関わってちょうどよくなってきた感じです。スケートの考え方とかスケート人生の話を聞いて、いろんなパターンがあるんだと知りました。自分の中で一番いいところをわかるようになってきたと思います。それに部員やリンクの後輩たちがどうやったらスピンがうまくなるか聞いてくれて。頼ってもらうことで自信がついてきました」。スケーター同士の交流が石塚を変えてくれた。

部の選手層も厚くなってきている。人間科学部eスクール2年の島田高志郎(木下グループ)や社会科学部2年の川畑和愛(ともえ)ら全国トップレベルの選手が所属し、切磋琢磨(せっさたくま)している。「高志郎と全日本選手権で会った時にスケート部に誘ったら元気よく『入ります!』と即答してくれてうれしかったのを覚えています。心強い後輩たちです」。スイスを拠点とする島田とは東日本選手権で久しぶりに再会し、そろって全日本選手権出場を決めた。

ゴールを決めて全力ダッシュ

卒業と同時に現役引退を決めている石塚。その理由を「法政大学を昨年度卒業した小林建斗くんがラスト1年と決めて1年間がんばっている姿を見て、ゴールを決めて、そこに向かって全力ダッシュした方が一番自分らしく現役を終われるんじゃないかなと思いました」と明かす。

競技生活のピリオドを決めたことで変化が生まれた。「一番変わったのは気持ちの面です。練習に関していま振り返るとまだ甘い部分があったと思います。ウォーミングアップの内容を深めて、練習1回1回、ジャンプ1本1本、その一瞬一瞬を大事にするようになりました。気持ちの準備というのが本当に大切なんだなと改めて感じています」

練習に対する姿勢をリンクの後輩たちも見ている。「拠点のリンクでは年下ばかり。自分が見本になりたいなと思っています」。石塚も鎌田さんや永井さんをはじめ目標を持ってコツコツ練習する先輩たちの背中を見てきた。次は自分が背中を見せる番だ。「後輩たちが僕を見て、こういう練習をしたいと思ってもらえる練習をしたいと思っています。先輩たちのいいところを受け継いでいきたいし、バトンを受け取ったつもりで頑張っています」と語った。

フィギュアスケート部門の仲間たち(本人提供)

ラストシーズンは高橋大輔の曲で

ラストシーズンのショートプログラムは「The Beatles Concerto」を選んだ。アイスダンスで活躍する高橋大輔(関西大学カイザーズフィギュアスケートクラブ)が2013~14年シーズンのフリーで使用した「ビートルズメドレー」にインスパイアされた。「いま見返しても好きなプログラム。特にコレオステップで鳥が羽ばたく振り付けが好きで、この曲でラストシーズンを滑りたいと思いました」。振り付けも自分で手がけた。高橋のプログラムと同様、羽ばたく動きを取り入れている。

フリーは「雨に唄えば」を選曲。「ミュージカルを見に行った時、観客がわくわくしているのを覚えていて、人を楽しませるミュージカルってすごいなって思っていました。僕も見ている人たちに幸せな気分になってほしいという思いがあります」。服部瑛貴(えいき)さんが振り付けし、コレオステップは石塚がアイデアを出した。

過去3度、全日本選手権に出場するもフリー(24人)には進出できていない。だからこそに今年かける思いは強い。「フリーを絶対に滑りたい。今年はいろんな面で成長できて一番自信があります」と力を込める。

「自分の中でいろいろつかんだ感覚もあるので、染矢慎二コーチと一緒に同じ方向を向いて完成に近づけていきたいです。全日本の舞台ではショートもフリーもお客さんに僕の演技で楽しんでもらうことを目標にしっかり演技していきたいです」

2020年東日本選手権の演技。ラスト1年と決めたことで充実した練習ができている(代表撮影)

いつかコーチとして全日本に

卒業後は指導者の道をめざす。「現役をしっかりやり遂げて最高な終わり方をする。その後は小学校高学年くらいからの夢だった指導者をめざしています。スケートは個人個人特徴が出ていて、ひとりひとり味が違います。それをコーチがうまく導いてくれて本当にすごいと思っていました。自分がコーチになったら、ひとりひとりの長所を発揮できるように教えたいと思っています」

コーチとしての所属先はまだ決まっておらず「就活中」だ。「コーチの人数に対してリンクの数が少なく難しい状況です。さらに学んでコーチとしての力をつけていきたいですし、振り付けにも携わりたいです」。将来、教え子を全日本選手権やグランプリシリーズの舞台に立たせてあげることが夢だ。

大学の学びやスケート部の交流を通して成長した石塚。全日本選手権では最高のラストダンスで競技生活のフィナーレを飾る。

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