陸上・駅伝

國學院大新主将・中西大翔 「変革」するチーム、自分らしく引っ張り結果で見せる

3月の学生ハーフで2位となり、ユニバーシティゲームズの出場権をつかんだ中西(撮影・藤井みさ)

2022年度、國學院大學の新主将を務めるのは中西大翔(たいが、4年、金沢龍谷)。1年生の時から3大駅伝を走り、チームを引っ張ってきた存在だ。上り調子にあるチームを引っ張る中西に、3年までの振り返りとラストイヤーの意気込みについて聞いた。

「優勝」を知る唯一の選手として

中西は今年の箱根駅伝の2週間ほど前に前田康弘監督から突然監督室に呼ばれ、「来季の主将をお願いしたい」と言われた。「少し予想はしていたけど、実際に言われるとやっぱり驚きでした」。出雲駅伝優勝、箱根駅伝総合3位と國學院史上最高の成績を残した19年度。22年度に残っているメンバーで、その2つを選手として経験しているのは中西しかいない。「みんなに勝った時の思いや経験を伝えてほしい、それを踏まえてチームを引っ張ってほしいと言われました」

國學院の主将は18、19年度の2年間を土方英和(現・Honda)、20、21年度の2年間を木付琳(現・九電工)が務めた。素晴らしいキャプテンシーでチームを引っ張っていた2人のあとを継ぐことに、プレッシャーも感じていた。物腰柔らかに話す中西は、「性格的に前に立つのはあまり得意ではない方です」と話す。人を怒ったり、まとめるタイプでもないと感じている。しかし前田監督からは「キャプテンという型を作らなくていい。大翔らしく引っ張っていってほしい」と言葉をかけられ、気持ちが楽になったという。「任命されたからにはしっかりとやり切りたいと思います」。まずは練習時の掛け声や集合の挨拶(あいさつ)から始め、主将の立場に徐々になじんできているところだ。

おだやかに話す中西。後輩も「すごく優しいキャプテンです」と中西のことを話す(撮影・藤井みさ)

前田監督は中西を支える副将として、伊地知賢造(県立松山)、鈴木景仁(國學院栃木)の2人の新3年生を指名した。副将はそれまで4年生が務めていたため、新しい試みだ。「伊地知はずっとチームの中心として引っ張ってくれていて頼もしく感じています。鈴木は中間層の選手へのアプローチをしっかりしてくれて、2人とも自分の弱い部分を補ってくれる。2人がいてくれて頼もしいし、安心感があります」

思うように体が動かず、苦しんだ21年シーズン

中西は前述の通り、ルーキーイヤーから駅伝のメンバーに選ばれ、3大駅伝を全て走った。2年生の時には11月の八王子ロングディスタンスで28分17秒84の自己ベストを出し、國學院大記録(当時)も更新した。箱根駅伝ではエース区間の2区を任されたが、1時間9分14秒で区間15位と力を発揮しきれなかった。「八王子で良かった分、走り込みの溜めがなかったですね」と思い返す。

箱根駅伝後には右足親指の付け根を疲労骨折してしまい、トラックシーズン前の練習が十分に積めなかった。3年生のシーズンには、前半期のチーム最大の目標である全日本大学駅伝関東地区選考会に出場。万全の状態でないながらも1組目で独走し、チームの本戦出場に貢献したものの、「うまくいかなかった」という思いの方が強かった。その気持ちから夏合宿では走り込みを徹底し、遅れを取り戻そうとした。しかし結果的に慢性的に疲労が抜けない状態となり、体が自分の思い通りに動かなくなってしまった。

全日本大学駅伝では3区を走ったが、苦しい走りとなった(撮影・藤井みさ)

10月の出雲駅伝では、1週間前までポイント練習にもついて行けない状態だったが、本番前に調子を戻して4区区間2位。そこから順調に練習を積むことができ、全日本大学駅伝には自信を持って臨んだが、「走ってみるとうまくいかなかった部分が大きかったですね」。エース区間の3区で区間11位と、思うような走りができなかった。

個人では快走も、箱根8位に「悔しかった」

悔しさの残る、苦しんだシーズン。シーズン最後の箱根駅伝こそはしっかりと走りたいと、トレーナーに体の使い方や動きを見てもらい、弱点を克服していった。「箱根1カ月前から調子が良くて、調子を落とさないようにしっかり走ろうと思っていました」。状態も良く、自信を持ってスタートラインに立った。

中西は1年生の時に4区を走り、区間3位(1時間1分53秒)と好走した。その時のいいイメージを思い浮かべながら自身2度目の4区を軽快に走り、前を行く帝京大学を捉えて順位を暫定3位に上げた。区間4位、1時間1分50秒の好タイムだった。「懐かしかったし、楽しかったです」と、個人としては満足できる結果だったが、チームは優勝を目標としながらも総合8位にとどまった。

区間4位と好走し、笑顔の襷リレーとなった(左が中西、撮影・北川直樹)

「悔しかったです。(卒業した一つ上の代の)4年生がいなかったら『優勝』という目標も目指せなかったと思うし、4年生に頼っていた分、状態が悪い4年生をカバーできる下級生がいなくて、それが最後の失速につながってしまったのかなと思っています。だけど先輩たちがシード権を残してくれたので、来年しっかりリベンジしたいと思っています」

「変革」するチームを引っ張って

中西は最上級生となったが、同学年では昨シーズン、坂本健悟(藤沢翔陵)が全日本大学駅伝の6区を走るにとどまった。中西の双子の兄・唯翔(金沢龍谷)も含め、「学年として力を示したい」という意気込みはあるが、中西は「まだ、言うだけにとどまってしまっています」と現状を認識する。そのため、新4年生に意識的に練習時の掛け声をかけてもらったり、練習も中心となって引っ張ったりするなど、学年として少しずつ成長していきたいと考えている。

今シーズンのチーム目標は「3大駅伝表彰台」に決まった。優勝を視野に入れつつ、確実に達成する目標として全員で話し合って決めた。そしてチームスローガンは「変革 Transformation~新時代を切り拓け~」だ。先輩たちが積み上げてきた歴史を継承しつつ、変化を恐れず新しいことに挑戦して改革していく、という意気込みを込めた。「強い(前)4年生が抜けて、弱くなったと言われるのが一番いやです。最終的に箱根でしっかり戦えるチームを目指していきたいです」と言葉に力を込めた。

学生ハーフでは優勝した平林と笑顔で抱擁を交わした(撮影・藤井みさ)

3月13日の学生ハーフマラソンでは、平林清澄(2年、美方)が優勝、中西は2位となり、伊地知も8位入賞。坂本も自己ベストを更新し18位、鶴元太(2年、八千代松蔭)も初ハーフで63分台など、チームとしての存在感を示した。平林と中西は6月末に中国・成都で開幕予定のワールドユニバーシティーゲームズのハーフマラソン出場権も獲得。「キャプテンとしていい結果でチームに示したかったので、少しホッとしている部分もあります」と柔らかい表情で話した。

学生ハーフで結果を出した中西、伊地知、平林、2月の実業団ハーフマラソンで1時間43秒の日本人学生歴代2位の記録で走った山本歩夢(2年、自由が丘)の4人が引っ張り、さらに中間層の底上げをしていきたい。個人としては5000m13分35秒切り、10000mは27分台を目標にスピードもスタミナも磨いていきたいと話してくれた中西。「新生・國學院」を引っ張る存在としてのラストイヤーに注目だ。

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