フィギュアスケート

特集:駆け抜けた4years.2023

早大のアイスダンサー・高浪歩未が競技引退「グローバルでも活躍できる社会人に」

アイスダンスで活躍した高浪歩未は競技を引退した(撮影・浅野有美)

アイスダンスで2019年世界ジュニア選手権代表、2021年全日本選手権3位など活躍した早稲田大学4年の高浪歩未(ケイインターナショナルスクール東京)が今月、現役を引退した。2023年9月に大学を卒業後、外資系コンサルティングに就職し、グローバルに活躍できる社会人を目指す。大学時代にセカンドキャリアをどう考え、競技生活に区切りをつけたのか語ってくれた。

自分の将来像、紙に書き出して整理

高浪は7歳のとき、アメリカでスケートを始め、10歳で日本に帰国。アイスダンスで2019年世界ジュニアに出場した。同年10月に早稲田大学国際教養学部に入学し、海外を拠点にアイスダンスに打ち込んだ。2021年12月の全日本選手権で3位に。2021年3月にカップルを解消後はカナダでパートナー探しをしながら練習を続けてきた。

セカンドキャリアを考え始めたのは帰国した2022年の秋だった。大学の友人たちが就職活動中で、自分もいつかは社会人になることを考え、就職説明会やインターンシップに参加した。社会人と話していく中で、社会に出てみたいという気持ちが芽生え始めた。

クリケットクラブで指導してくれたアンドリュー・ハラム・コーチ(本人提供)

「みんな一日一日大事にスポーツに向き合っていると思うんですけど、自分もいつかはセカンドキャリアを考えないといけないと思っていました。スケートはお金がかかるスポーツだし、いつまでも親のサポートに頼っていてはだめかなと。次のステージでも成長していく姿を両親に見せられるように、と思いました」

自分が将来何したいかを考えた上で、体育会出身の社員にどういうタイミングで競技に区切りをつけたかを聞いた。しかし、日々練習を続けながら進路を決めるのは難しかった。そこで紙に書き出して思考を整理した。

スケートでかなえたい夢と社会人になって達成したい目標。そのためにいつ何をしないといけないか。タイムラインに沿って進路を考え、ときには逆戻りして自分と向き合った。

海外選手のセカンドキャリアの考え方

競技を通じて海外選手と交流も多かった高浪。セカンドキャリアの考え方も参考になった。

例えば、2020年世界ジュニアアイスダンス優勝のアヴォンリー・グエン、ヴァディム・コレスニク(Avonley NGUYEN、Vadym KOLESNIK)組(アメリカ)。「アヴォンリー選手は、U.S.FIGURE MAGAZINEの記事によると、現在スポーツ医学と整形外科のキャリアに備え学んでいるそうです。ジュニアで素晴らしい成績を残したにも関わらず、とてもつらい時期があったと思います。しかし、スケートのキャリアを生かし、次のステップに進んでいることを記事で知りとても共感を得ました」

また、2022年世界ジュニアアイスダンス2位のナタリー・ダレッサンドロ、ブルース・ワデル組(Natalie D’ALESSANDRO、Bruce WADDELL)組(カナダ)は拠点リンクで一緒に練習していたが、ダレッサンドロが大学進学を機に競技を引退した。「当時、本人から相談されたこともあり、アメリカやカナダの選手たちはセカンドキャリアに対して若い頃から考えている選手が多いという印象があります」と話す。

クリケットクラブで練習を共にした仲間たち(本人提供)

高浪には社会人としてグローバルに活躍したいという大きな目標があった。30代でそれを達成するために競技にいつ区切りをつけるのがよいか少しずつ答えが見えてきた。

幸い、インターンシップから採用選考に進み、内定も得られた。競技ではまだ上を目指せる、シニアの国際試合にも出たい……。一方でパートナー探しに苦労し、海外拠点で学業やアルバイトと両立する生活も大変だった。最後の最後まで悩んだが、「大学4年生はいいタイミングなのかもしれない」と、今年1月、競技を引退し、外資系コンサルティング業界に就職することを決断した。

スケート人生に後悔はない

「後悔なくスケート人生は過ごせたかなと思っています」

そう語る高浪にとって、特に印象に残っている大会が二つある。国際試合では2019年の世界ジュニア。「初めての大舞台で観客もいて、いろんな国の選手が集まる中で演技ができましたし、選手たちと交流もできました」

国内試合なら2021年の全日本選手権。総合3位と表彰台に立てたことはもちろんうれしかったが、それ以上にシニアトップのカップルと同じ舞台に立てたことがよい経験になった。「オリンピックシーズンだったこともあり、トップのプロ意識を実感できました。長年カップルを続けてきた小松原夫婦のアイスダンスは、二人の愛情がこもった夫婦ならではの魅力があるプログラムでした。村元哉中選手と高橋大輔選手は、カップル結成から短期間で素晴らしいプログラムを仕上げてきており、アイスダンサーとして貫禄がある演技でした。二人の努力する姿を肌で感じ、まだまだ私には努力が必要だとその時感じたことを覚えています。目の前で2組の演技を見られたことも思い出です」

そしてラストシーズンには初めてインカレに出場した。シングルのプログラムがなかったため、急ピッチで服部瑛貴先生に振り付けをしてもらった。両親も会場で演技を見守ってくれた。

大学4年で初出場したインカレでは仲間と思い出を作った(撮影・浅野有美)

国際色豊かな早稲田だから学べたこと

高浪は競技とアルバイトの両立で多忙な中、学業にも励んだ。「年間優秀学業成績個人賞」を毎年受賞。英語で行われる講義も受講し、スポーツ科学から環境問題まで幅広く学んだ。

バイオメカニクスの講義では体の仕組みを勉強した。「科学的な根拠から学んだ上で体のケアやトレーニングに生かすことができたので、大きなけがなくできたのかなと思っています」。世界の環境政策を学ぶ「Global Environmental Politics and Policies」では海外の大学とオンラインでつなぎ討議した。参加する学生も国際色が豊かで、日本と海外では環境問題へのアプローチや行動習慣が違い、面白いと感じたという。

2020年のコロナ禍で活動が制限されたときは、高校時代の友人たちと子どもたちに英語を教えるボランティアを始めた。高浪がリーダーとなり、のべ15人の小中学生に英語を教えた。

「画面越しだからこそ、自分が伝えたいことをちゃんとしっかり伝わらないこともあり、メンバーにはなんでこの活動が必要かとか、子どもたちにどういう影響を与えてしまうかとか、しっかり伝えた上で、ボランティアに参加してもらえるようにしました。意見を出しにくい状況を極力なくすために、自分から声をかけ、一人ひとりの意見をちゃんと聞き入れて、尊重しながらチームを成り立つようにするのがリーダーかなと思っています」

このリーダーシップは競技を通して培ったものだという。「アイスダンスの相手は家族ではなく、パートナーなので、自分が思っていることは直では伝わりません。自分たちの目標をすり合わせるためにも、自分の意見をしっかりと言いつつ、相手が何を思っているかを理解するために自分から行動に移していかないといけません」と語った。ボランティア活動を通じても自分を成長させることができた。

学業でも優秀な成績を修めた(撮影・浅野有美)

最後のWOIでグループナンバーを振り付け

2月25日、早稲田大学のアイスショー「WASEDA ON ICE」に出演した。「海外拠点の選手や、日本国内でも違うスケートリンクで練習している選手もいるので、ほぼ唯一と言えるくらい、みんなが会えるチャンス。私にとっても貴重な日です」と高浪。オープニングとフィナーレの振り付けを他の部員と協力した。

「ファンだけではなく、家族にも思いを伝えられるようにみんなの姿を見せられるようにしました」と、ポジションや入れ替わりにこだわって作り上げた。そしてシングルの演技で「Fantasy for violin and orchestra」を情感たっぷりに舞うと、観客からあたたかい拍手が送られた。

「アイスダンスをやることによって、自分だけではなく、人とどうやって協力し合って自分が好きなスケートに対して頑張れるかということも勉強にもなりました。アイスダンスをやってきてよかったですし、今後に生かせることが学べたと思っています」

「WASEDA ON ICE」で心を込めて演技した(撮影・浅野有美)

秋からは次のステージに進む。会社の経営や社会問題に関わるコンサルティング業界で、得意の語学力を生かしてグローバル人材を目指す。

「コンサルティング業界に入ったからこそ、いろんな企業に携わりたいです。10年後には日本国内だけでなくグローバルでも活躍できるように頑張りたいと思います。まずは社会人としてしっかりと仕事に励みたいと思いますが、大好きなスケートにも少しずつ関わっていきたいと思っています。何十年後になるかはわかりませんが、国際スケート連盟(ISU)のテクニカルやジャッジにも挑戦できたらいいなと考えています」と晴れやかに語った。

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