フィギュアスケート

特集:駆け抜けた4years.2023

明治大学・佐藤伊吹 「スケートが好き」 飽くなき17年のスケート生活

最後の表舞台となった「明治×法政ON ICE 2023」で、思い入れのあるプログラムの一つである「ロミオとジュリエット」を踊る佐藤

2月26日、東伏見ダイドードリンコアイスアリーナ。「明治×法政 ON ICE 2023」で明治大学の佐藤伊吹(駒場学園)はスケート人生に終止符を打った。17年間の競技生活で揺らがなかった「スケートが好き」という気持ち。見る人にたくさんの感動を与えた佐藤は、この4月、新たな世界へと一歩を踏み出す。 

苦悩のジュニア時代

「飽き性の逆で、何でもずっと続けられて頑張ることが好き」。佐藤のフィギュアスケート生活を振り返る上でこの性格は欠かせない。そんな佐藤は5歳でスケートを始めた。

「ノービスは全体的にいい印象が残っている」。横谷花絵コーチに師事し、練習を重ね小学4年時から全日本ノービス選手権に出場。「単純に楽しくて上を目指していた」と振り返る。

全日本ノービス選手権に出場した佐藤(本人提供)

順調かに見えた佐藤のスケート生活に試練が訪れる。ジュニアに上がり、周りとの差を意識することや、ジャンプが跳べず悩むことが増えた。全日本ジュニア選手権には一度しか出場することができなかった。そんな中でもスケートをやめようと思ったことは一度もないと言う。「そこでやめてもどうせやる、やりたいなってすぐ思うだろうし、頑張ることは好きで試合より練習が好きだったのでなんとか耐えていた感じ」。ただ、練習しても自分の限界が見えてしまう。とにかく苦しい時代が続いた。

高校2年で初の全日本

高校2年時に心機一転、小さい頃からの目標であった全日本選手権出場を目指し、ジュニアからシニアに転向した。この決断が功を奏す。

「ジュニアでは下から上がってくるプレッシャーがあり常に緊張していたが、シニアでは追いかける側となり順位を気にせずに伸び伸びとできた」。シニアとして初出場の東日本選手権で3位入賞し、全日本への切符をつかんだ。

初めての全日本は、その後スケートをやっていく上で1番のモチベーションになる試合となった。その一方で、これまで通りの努力をしても全日本の中では下の方の順位になってしまうと気付き、これからまだやるべきことがあると感じた試合でもあった。うれしさだけでなく、悔しさも残る夢の大舞台となった。

初めての全日本でずっと滑りたかった曲である『ロミオとジュリエット』を披露(本人提供)

ガッツポーズで「過去最高の全日本」

高校3年時にも全日本出場を果たし、大学では「勉強もスケートも頑張りたい」と明治大学に進学を決めた。

大学1年時は毎日通学し、合間で練習を行うハードスケジュールをこなした。「今思えばよくやっていたなと思うが、それがあったからこそ大学生活が楽しかった」と佐藤は振り返る。2年時からはコロナ禍となり、思うように学校に行けず、リンクも閉まって練習ができない日々が続いた。氷に乗れない不安はあったが、やれることをやるしかないという持ち前のポジティブさで前を向いた。

そして、大学3年時。就職活動とともにスケートの練習を進める人生で一番忙しいスケジュールを送った。

「就活して自分が知らない世界をいろいろ見たことで、スケート一点集中というこれまでの十何年だったのが、少し変わったような気がする」。忙しいながらも新たな世界を発見し、強さに変えた。スケートとのバランスをとりながら就職活動で得た考え方を練習や時間の使い方に生かした。

「これまでは、花絵先生がすごく面倒を見てくれたのもあったし、先生が言った通りに頑張って練習していればどんどんうまくもなって結果もついてきた」。言われたことだけをこなしていたノービス時代や高校生の頃とは違い、自分で何をするかを考えるように。「このシーズンはブロックの全ミスぐらい良くないところから、どうすれば本番で練習通りのことができるのか毎日考えていた」。それに加えて、限りある時間を有効に使うことも考えながら練習を重ねた。

不調ながらもブロック、東日本を通過し、迎えた全日本。ショートプログラム(SP)では目標としていた55点を大きく上回る59.38点をたたき出し、1年前のショート落ちの雪辱を果たす。フリーでは演技中から笑顔が弾け、最後にはガッツポーズが飛び出した。総合15位に入り、試合後のインタビューでは「過去最高の全日本」と締めくくった。

演技中から笑顔があふれた大学3年時の全日本フリー

出し切ったラストシーズン

ラストシーズンと決め臨んだ今シーズン。全日本のSPでは晴れやかな笑顔で観客の心に深く届く演技をしたが、惜しくもフリーに進むことができなかった。「悔しかったけど後悔はない」。全日本に行くまでにもうこれ以上ないと言えるほど練習した佐藤だからこそ言える言葉だった。

競技生活最後の全日本で全力を尽くした佐藤

そして、年明け。「シーズン当初の状況を考えたらメンバー入りには到底遠い位置にいる」。そう思っていたインカレへの出場が叶(かな)い、フリーの演技を披露した。「インカレで引退することができてうれしい。諦めずにやってよかった」。1年間地道に積み重ねた結果が、インカレで引退という花道へとつながった。

最後の表舞台となった「明治×法政 ON ICE 2023」では全日本に初出場したシーズンのフリー「ロミオとジュリエット」、アンコールでは「過去最高の全日本」としたシーズンのフリー「Tree Of Life Suite」を披露。楽しみつつ感謝の気持ちを込め滑り切った。

「明治×法政 ON ICE」で観客や関係者に向けて感謝の言葉を伝えた

現在はスケートから離れた生活を楽しむ佐藤。この春から一般企業に就職する。「今は滑りたいと思わないが、いつか他の人が試合に出ているのを見ていいなと思うと予想します(笑)」。スケートの関わり方がさまざまある中で、ジャッジ(審判)としての未来を描いていることも少しだけ話してくれた。

「今もスケートが好き」。スケートで得た経験を武器に、4月から新たな世界へ飛び立つ。

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