フィギュアスケート

世界ジュニア銅の法政大・吉岡希 「初めて勝ちたいと思った」シーズン終え、シニアへ

世界ジュニア選手権で銅メダルを獲得した法政大学の吉岡希(撮影・柴田悠貴)

今シーズン、ジュニアグランプリ(GP)シリーズで優勝し、また世界ジュニア選手権での活躍で、法政大学の吉岡希(のぞむ、西宮甲英)の名前を目にした人は多いのではないだろうか。無駄な力のないジャンプが持ち味で、軽々とトリプルアクセルや4回転を決める。大好きな選手はデニス・テン。魅(み)せ方などが好きで今でも時々YouTubeなどで見ており、少しでも近づけたらと日々努力を重ねている。

田中刑事や櫛田一樹から学んだ競技への向き合い方

吉岡は大阪府生まれ。スケートとの出会いは、家族でリンクに遊びに行ったところから始まる。そこでスケート教室があることを知り、母の勧めで始めることになった。当時サッカーや武道など他の習い事もしており、どの習い事も楽しく通っていたが、スケートは自分のペースで練習ができるということもあり、気付いた頃には習い事はスケートだけになっていた。今でこそ4回転ジャンパーとして実績を上げているが、小学校低学年の頃はジャンプが苦手で苦労したことも多かったという。高学年になり跳べるジャンプが増えてくると、全日本ノービス選手権で3位になるなど、少しずつ結果を残せるようになってきた。

そんな伸び盛りの頃、ホームリンクであった大阪府柏原市のアクアピア・スケートリンクの閉鎖が決定し、練習拠点の変更を余儀なくされた。当時のコーチは滋賀県のリンクに行くことになったが、自宅がある奈良県から通うことを考え、関西大学たかつきアイスアリーナに拠点を移すことに決めた。

今年3月の世界選手権エキシビションで演技を披露した(撮影・瀬戸口翼)

移籍先のリンクには同世代の男子選手がたくさん練習しており、練習に行くというよりも、友達と遊べるという感覚の方が強かった。また反抗期だったことも重なり、オフアイスの時間の方が長いということもしばしばあった。しかし、シーズンを通して少しずつ結果を残せなくなってきていることに気付き、このままではダメだという意識が芽生え始めた。長光歌子コーチと話し合い、ひょうご西宮F.S.C.への移籍を決めた。

西宮のリンクでは、当時は田中刑事さん(2022年4月引退)や櫛田一樹(倉敷FSC)といった同世代よりも少し年上の男子の選手が多く在籍しており、競技の向き合い方や練習の仕方を近くで学ぶことにより、少しずつ意識の変化が出てきた。ジュニア3年目の2019~20年シーズン、環境を変えて1年で結果を残し、全日本選手権に推薦出場。また初めての国際大会となったチャレンジカップ(オランダ)では、ジュニアクラスで優勝という大躍進の年になった。

ジュニアGPファイナル進出、全日本ジュニアも初優勝

いよいよこれからという時、新型コロナウイルス感染症が流行となり、ジュニアGPシリーズなど全ての国際大会の派遣が中止に。また緊急事態宣言などもあり、普段通りに練習することもままならなくなってしまった。

制限付きながらも練習ができるようになった頃、4回転の練習を増やしたためかけがをしてしまい、しばらくはスケーティングしか練習できない日々が続いた。しかし、その時期はスケーティングを伸ばすチャンスと捉え、コツコツと取り組むようになった。けがから回復し、ジャンプにも安定感が出てきた高校3年生の2021~22年シーズン、全日本ジュニア選手権で3位、エーニャスプリングトロフィー(イタリア)でも3位と再び結果が出始めた。

大学は、練習拠点を変えたくない思いから通信でも学べる法政大学に昨春進学。スケートを軸にスケジュールを立てることができるということもあり、ジュニア最後のシーズンは気持ちを強く、初めて勝ちたいと思うシーズンになった。シーズン序盤、初めての出場となったジュニアGPで優勝。2戦目は5位に入り、ファイナル出場が決まった。全日本ジュニアでも初優勝を飾り、世界ジュニアの出場も決め、その勢いは止まることがなかった。

シニアでどんな成長を遂げるか楽しみだ(撮影・瀬戸口翼)

シニアに本格参戦、チャンピオンシップ出場が目標

しかし、年始のインカレが終了した後、ホームリンクであるひょうご西宮アイスアリーナが緊急メンテナンスとなり長期の臨時休館が決まった。近隣にジャンプなどエレメンツが練習できるリンクはあるが、プログラムを練習するにはリンクを貸し切らなければならず、練習時間の組み直しが必要となった。

その様子を聞きつけた他府県のリンクで指導するコーチ陣が吉岡に声をかけてくれ、平日は名古屋や京都のリンクなど、それぞれのリンクで行われている強化選手のための貸切に参加し、週末はNTC(ナショナルトレーニングセンター)に指定されている関空アイスアリーナで練習することになった。どの貸切も常に強化選手と共に練習ができるため、吉岡自身のモチベーションは上がり続け、毎回緊張感のあるいい練習ができた。

その自信を持って挑んだ世界ジュニア(2023年2月27日~3月5日、カナダ)。ショートのジュニア課題は、吉岡が苦手とするループジャンプだ。今シーズンはこのループジャンプに苦しめられていたが、世界の大舞台で成功。目標としていたノーミスの演技で7位につけた。来年の出場枠のことは考えなくもなかったが、自分の演技がきちんとできれば結果がついてくると信じ、自分の演技だけに集中をした。

迎えたフリーの演技では、耐える形になったジャンプもあったが、大きなミスなく終えたことが奏功し、最終順位は3位。1位の三浦佳生(オリエンタルバイオ/目黒日大高)とともに表彰台に立つことができた。また世界ジュニア終了後、来シーズンからの本格的なシニアデビューを前にトリグラフトロフィー(スロベニア)のシニアカテゴリーにて出場。ショート、フリーともに4回転トーループを決め、ノーミスの演技で優勝となった。

世界ジュニアで銅メダルを獲得した吉岡希(本人提供)

現在もホームリンクは休館となっておりコーチ不在で練習をする時もあるが、週に1回トレーナーとともに行っている陸上トレーニングの効果もあってか、ジャンプで大崩れすることなく、黙々と練習に取り組んでいる。

来シーズンではGPシリーズで結果を残せるようスケーティングをより強化し、またチャンピオンシップと名が付く大会の代表に選ばれるようになるのが目標だ。謙虚で何事にも真摯に取り組む吉岡であれば、きっと今シーズンよりも成長した姿で華々しいシニアデビューを飾ってくれることだろう。どんなシーズンを過ごすのか今から楽しみだ。

in Additionあわせて読みたい