フィギュアスケート

特集:フィギュアスケート×ギフティング

法政大・渡辺倫果「昨シーズンの自分を超える」 スーパーヒーローになるために

「昨シーズンの自分を超えていく」と意気込みを語る渡辺倫果(すべて撮影・浅野有美)

フィギュアスケート女子で昨年の全日本選手権6位と飛躍した法政大学の渡辺倫果(2年、青森山田)。初めて出場した4月の世界ジュニア選手権は悔しい結果で終わった。シーズン入りした7月下旬、千葉県船橋市のリンクで練習に励む渡辺の姿があった。今シーズンの目標は「昨シーズンの自分を超える」。より高いステージに進むために渡辺の挑戦は続いている。(※ギフティング受付は終了しました)

【動画】ロンバルディア杯優勝!法大・渡辺倫果インタビュー「自分に勝つことが大事」

世界ジュニアの大舞台 “世界”を知った

全日本で好成績を残し、舞い込んできた世界ジュニア代表。これまでジュニアグランプリシリーズでさえ経験がなかった彼女にとって初の大舞台だった。しかし来年の出場枠確保や日本代表のプレッシャーなどから力を出し切れず、総合10位で終えた。

「率直に悔しい。自分の不甲斐なさや弱い部分が見えた試合でした」と振り返った。一方で「今後につながるようなたくさんの収穫があった試合でもありました。あの場で“世界”を知られてよかったなと、いまでは思えています」と冷静に見つめる。

シニアでは同じ失敗をしない。そう心に決めてオフシーズンを過ごしてきた。

7月には全日本選手権の上位選手だけが出演できるアイスショー「ドリーム・オン・アイス」に初めて参加した。

「坂本花織選手、樋口新葉選手、河辺愛菜選手などオリンピックに出た選手を練習からたくさん見る機会があり、自分との違いとか、どうやったら点数が出るかとか、どういうのが評価されるのか、いろいろ見ることができました。やっぱり見せ方が上手だなと思っていて、滑っているだけで、踊っているだけで魅了される。それが点数につながっていくんだと思えました」。とくに樋口や河辺は、渡辺と同じくトリプルアクセル(3回転半)ジャンプをプログラムに入れており、自分のジャンプにとり入れられる跳び方のコツがないかも研究した。

練習でトリプルアクセルを調整していた

ねぇさんが引っ張るアカデミー

所属先のMFアカデミーは誕生して1年余り。その中で年上の渡辺は「ねぇさん」と慕われている。

リンクでは選手たちが切磋琢磨(せっさたくま)し、着実に力を伸ばしている。渡辺のトリプルアクセルが安定したきっかけも同じリンクで練習する高校生の周藤集(すとう・つどい)の存在が大きかった。「周藤くんはすごく力を抜いてジャンプに入っていく。私もやってみたらハマりました」と言う。他にも全日本ジュニアで活躍が期待される中学生の中井亜美や高木謡(よう)。そして21年全日本ノービス選手権カテゴリーA優勝の中田璃士(りお)も加わった。

渡辺の世界ジュニア代表に続くように、ジュニアグランプリシリーズなど国際大会への出場が決まっている。「国際大会に派遣される選手が増えているのでみんなすごいし、いいプレッシャーというのもあります。若い子たちが頑張っているなら、私も『ねぇさん』と呼ばれている以上やらないといけない」と力強い。

MFアカデミーで切磋琢磨する中田璃士(左)と周藤集(右)

フリーはトリプルアクセル2本

今シーズンのショートプログラム(SP)は宮本賢二さん振り付けの「El Tango De Roxanne」。宮本さんから「タンゴが似合うと思う」と勧められた妖艶(ようえん)で情熱的なプログラムだ。

プログラムを仕上げる中で、過去に同じ曲を使用していたアイスダンスの高橋大輔(関大KFSC)に「特別レッスン」をしてもらった。「『もうちょっとこうやってみて』と動きを見せてくれたときの高橋選手がめっちゃかっこよすぎて。体の使い方とか表情とか目線とか理想そのもので、見ていて鳥肌が立ちました」

今月行われたげんさんサマーカップ女子SPの演技

フリーはキャシー・リードさん振り付けの「JIN-仁-」。聞きなじみのある音楽で盛り上がるクライマックスのステップが見どころだ。ジャンプ構成ではトリプルアクセル2本を組み込む攻めのプログラム。技術点は昨シーズンより上がるが大技のリスクを伴うため、プログラムの完成度をどこまで高めていけるか、もしミスをしても演技全体を通してまとめられるかが鍵になる。

大技に挑戦し続け、オリンピック2大会連続で金メダルを獲得した羽生結弦のプロ転向の話題に触れ、「とくに羽生選手はみなさんから愛されていて、スタンディングオーベーションは本当にすごかったです。自分自身もいつかみんなが感動してくれる演技をしたいと思っています」と語った。

スーパーヒーローは成功だけじゃない

今シーズンの意気込みを聞くと、「昨シーズンの自分を超えることが最大の目標」ときっぱり。昨年の全日本選手権は8位以内を狙って6位。今年は5位以内を目指す。「人に勝ちたいというより自分に勝つことが大事で、その先に得られることもあると思います。一個一個段階を踏んでいって、国際大会に派遣していただけるような成績を残したいと思っています」

目標に向かう過程でうまくいかないこともある。8月上旬に開催されたげんさんサマーカップの直前は「自分のスケート人生の中で一番調子が悪かったんじゃないかなというくらい気持ち的にしんどかった。スケートが嫌になったぐらいだった」と明かした。そんなとき、トレーニングの先生に相談すると、「スーパーヒーローは成功だけじゃなくて、失敗とか敗北を味わってから成長していく。敗北はかっこいいこと。あなたはいま一番かっこいい」と励まされ、救われた。

「いつかみんなが感動してくれる演技をしたい」

1年前まではオリンピックは夢の舞台。いまは目標の舞台になった。新しいステージに上がったからこそ、いままで経験したことがない失敗や敗北を味わうことがあるかもしれない。それでも自分に勝ち、過去の自分を超えていく。それを積み重ねた先に“スーパーヒーロー”の渡辺倫果が現れるのかもしれない。

法政大・渡辺倫果、必然の「ミラクル」 世界ジュニアではばたく

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