フィギュアスケート

世界ジュニア銅の神戸大・壷井達也 シニアデビューへ「迫力がある演技を」

ドリーム・オン・アイスで演技をする壷井達也(撮影・諫山卓弥)

フィギュアスケートの「神戸組」で注目のルーキーが躍動している。昨春、愛知から拠点を移した神戸大学2年の壷井達也(中京大中京)だ。神戸学院大学4年の坂本花織(シスメックス)や甲南大学大学院1年の三原舞依(同)らとともに中野園子、グレアム充子、川原星の各コーチの指導を受け、4月の世界ジュニア選手権で銅メダルを獲得した。坂本、三原と同じく神戸市の医療機器メーカー「シスメックス」と所属契約を締結。今シーズンから本格的にシニアに参戦する壷井に、今後の目標や大学との両立について聞いた。

全日本の4回転サルコー成功が自信に

神戸を拠点とする選手たちはファンの間で「神戸組」と呼ばれている。昨シーズンの活躍はめざましく、坂本が北京オリンピックに出場し、女子シングルと団体(暫定順位)で銅メダル、世界選手権で金メダルを獲得した。三原は四大陸選手権で自身2度目の優勝。そして世界ジュニア選手権で壷井が銅メダルに輝いた。オリンピックとチャンピオンシップすべてでメダルを手にした「神戸組」はいま勢いに乗っている。

壷井は2021年4月、大学進学を機に神戸に拠点を移し、昨シーズンはジュニアで戦った。

「ジュニアで4回転をしっかり跳べるようにして、来シーズン、シニアで戦えるようにしたい」

1年前の取材でそう語っていた壷井。21年11月の全日本ジュニア選手権で2位になり、12月の全日本選手権に出場。フリーで4回転サルコージャンプを鮮やかに決めミスのない演技で総合9位に入ると、年明けにルクセンブルクで行われたクープドプランタンで2位に。4月にエストニアで開催された世界ジュニア選手権でも4回転サルコーを着氷し、3位に食い込んだ。まさに有言実行のシーズンだった。

鍵となったのは4回転の安定だ。成功したジャンプの感覚を意識的に覚えるようにして精度を上げていった。「感覚がわからなくなったときは成功したジャンプを動画で見て、大まかなタイミングだったり、動きだったりを理解するようにしていました。練習を積み重ねることで4回転の成功確率がどんどん上がっていきました。全日本で初めて試合できれいに4回転を下りることができて自信がつき、世界ジュニアで表彰台という成績を残すことができました」

21年全日本選手権男子フリーで4回転サルコーを成功させた(撮影・角野貴之)

緊張感と一体感がある「神戸組」

練習は朝と夜、週末が中心。練習方法も変わった。曲をかけてプログラムを通す回数が増え、練習からノーミスで取り組む意識が高まった。「今日はちょっとしんどいなとか理由をつけたくなるときはあるんですけど、そういうときに一歩前に行かせてくれます。しんどい中でも練習をやる。練習での緊張感がすごくあります」

クラブの“お姉さん”たちとも交流がある。世界ジュニア前に「たっしゃでな~」と明るく送り出してくれた坂本。普段から丁寧にLINEでメッセージをくれる三原。4月に日本スケート連盟の表彰式で2人と顔を合わせると「おめでとう!」と祝福された。そんなクラブに一体感を抱いていると言う。

リンクを離れれば大学でスポーツ科学を学ぶ理系男子。対面授業が再開され、週5日坂を上ってキャンパスに通う。データサイエンスやトレーニング理論などを受講し、「競技成績を向上させるために何が必要かとか、技術と体力のバランスとか、そういう勉強はけっこう楽しいです。データサイエンスもこの先もっと高度な内容が出てくると思うので継続的に学びたいです」と意欲的だ。約30人が所属する体育会スケート部の活動にも参加している。

坂本花織や三原舞依のステップを見て上体の使い方を学んでいる(撮影・角野貴之)

次は4回転トーループ習得へ

今シーズンはグランプリ(GP)シリーズに初参戦する見通しだ。シニアで戦うためには4回転を複数種類、複数本数、演技構成に組み込むことが必要になってくる。

22年世界ジュニアで優勝したイリア・マリニン(アメリカ)もフリーで3種類4本の4回転を入れていた。「フリーの公式練習が一緒で、目の前でジャンプを見ることができたのですが思っていた以上に迫力を感じました。自分も他の4回転を習得したいという思いが強くなりました」と刺激を受けた。

いまは4回転トーループの習得に力を入れている。跳び方で参考になる選手はジュニア女子の島田麻央(木下アカデミー)だという。「タイプ的に自分と似ていると思います。島田選手はコンパクトに軸に入っています。なるべく力を使わないで跳んだ方が演技後半に体力を残せると考えています」と分析する。

世界ジュニアで銅メダルを獲得、次はシニアで表彰台を目指す(撮影・角野貴之)

グランプリシリーズで表彰台に

新しいプログラムも仕上がりつつある。ショートプログラム(SP)は検討中で、フリーは映画「ハートビート」の音楽を使用する。振り付けをマッシモ・スカリ氏に依頼し、一段階上の演技に挑戦する。

スカリ氏といえば、アイスダンスで活躍する村元哉中、高橋大輔組(関大KFSC)のフリー「ラ・バヤデール」を手がけるなど世界的な振付師。壷井も「海外の振付師は初めてです」と心を躍らせる。

「シニアの選手はプログラムにすごい迫力があるなと。それがどこからくるんだろうと考えたときに、体を大きく使っていると感じました。今シーズンのプログラムはジャンプに固執しすぎず、迫力がある演技ができるかが大事になってくると思います。一つひとつの動きのメリハリも必要だと考えています」

7月初旬のアイスショー「ドリーム・オン・アイス」で初披露。上半身の大きな動きを取り入れ、壷井の伸びやかなスケーティングをより引き立たせる振り付けになっている。

世界ジュニアメダリストでも全日本の表彰台は簡単なことではない。それくらい日本男子のレベルは上がっている。「近畿選手権から4回転を跳ぶ選手が何人もいます。SPで90点を超えないと全日本フリーで最終グループに入れません。3、4年前では考えられなかったことです」。厳しい環境だが国内で勝ち抜くことで世界に通用する力をついていく。

秋以降、シニアのグランプリシリーズへの初参戦が予定されている。もちろん目標は表彰台だ。「今シーズンはシニアでしっかり戦っていけるかどうかが大事なところ。まずは目の前の試合一つひとつをこなしながら実力をつけていきたいです」

チャレンジングなプログラムで挑むシニアの舞台。勢いのある「神戸組」の波に乗り、ステップアップした壷井に注目だ。

【過去記事】昨シーズンから成長、壷井達也がめざす「文武融合」
【動画】神戸大・壷井達也インタビュー「スケートの枠の中に勉強がある」

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