陸上・駅伝

立命館大・栗林隼正 伸び盛りの400mハードラー、ユーチューバーとして発信にも力

春先から好調をキープする栗林。目標はインカレ優勝だ(撮影・立命スポーツ編集局)

今、大学ハードル界で熱視線を浴びている男がいる。立命館大学で400mハードルを専門にする、栗林隼正(4年、広島国際学院)だ。今シーズン、4月の日本学生個人選手権で5位入賞を果たすと、そこから躍進劇が始まる。木南記念陸上では、滋賀県記録を更新するタイム(50秒43)で5位入賞、関西インカレでも自己記録を大幅に更新する大会新記録(49秒45)で初優勝、西日本インカレでも初優勝を飾った。一方、初出場の日本選手権では、タイムで上位8人に入ったものの、着順で決勝を逃し悔し涙をのんだ。「一週間くらい落ち込みました。何がいけなかったのか分析もして。ですが、大舞台でセカンドベスト(50秒01)を出せたことで、自分の実力がある程度通用すると自信になりました」と前を向いた。

「92点」手応えと自信得た春シーズン

春先から好調をキープしている栗林。春シーズンを自己採点してもらうと「92点」と、手ごたえと自信を確かなものにしているようだ。

「小西勇太コーチのおかげで、競技レベルが格段にあがりました。大舞台を経験してきたコーチからメンタル的にも成長させてもらい、それらが生きてきたのだと思います。また、日常生活の充実も大きいです。最終学年になり、オンオフの切り替えや陸上を楽しむために行動できています」と、好調の要因を語った。更なる躍進を目指し「400mでも自己ベストが出るなど、走力があがってきています。全体的なハードル技術は、長く続けることで進化してきていると感じています。もっと技術を上げてタイムをどんどん出したいです」と、あくまで貪欲(どんよく)だ。

400mでも自己記録を出し、走力も上がってきた(本人提供)

元々はサッカーをしていた栗林。陸上を本格的に始めたのは、中学3年生の時だ。親の転勤に伴い、心機一転、新しい地で陸上部に入部した。幼い頃から走ることに自信があったが、ただ単に全力で走って終わりではなく、足の接地や筋肉についてなど、論理的に考えれば考えるほど陸上競技の深さにハマったという。

400mハードルは、10台のハードルを飛び越えながらタイムを競う競技。栗林はその魅力を「どのポイントからも切り替えられて、たとえミスしても巻き返せる点が楽しいです。400mは長くてきついですが、走り終わったら楽しさが勝ちます」と笑顔で語った。

競技を心底楽しむ姿勢が自身の強みだという(本人提供)

コロナ禍、相次ぐけがを乗り越えて

大好きな競技に全力を注いでいた栗林にも転機が訪れる。当時立命館のコーチをしていた大塚光雄氏(現・日体大コーチ)に声をかけられたことだ。「特別タイムが速いわけではなかったのですが、『君には才能がある』と僕の可能性を見いだして頂きました。速いからではなく、こうしたらきっと伸びるから立命館に来てほしいと誘っていただき、うれしかったです」と振り返る。

しかし、立命館に進学して待っていたのは、新型コロナウイルスだった。練習はおろか、大学も休学になるという不安しかないスタート。最初は「むしろチャンス」と、公園で走るなど練習に励んだが、再開のめどが立たない状況でモチベーションが保てなかった。「休んでもいいかなと思いましたね」。徐々に練習が再開されたが、そのタイミングでけがをする。「練習ができていない焦りから一気にエンジンをかけて、肉離れをしてしまいました。そのあとも、焦って無理に練習してけがしての繰り返しで。実際に試合に出られるようになるまで約1年半かかりました。この期間は本当にしんどかったというか、挫折しましたね」と言葉を詰まらせた。

今季は副主将としてもチームを引っ張る(撮影・立命スポーツ編集局)

立命館に進学し、最高の練習環境と仲間に出会った。「全体で拘束される時間が少ない分、自主的に練習に取り組まなくてはなりません。何が自分に足りないのか、空きコマも使用して練習に励んでいます。強いチームの中で、強い仲間と切磋琢磨(せっさたくま)できる。立命館に来て本当に良かったです」

今季は副主将としてチームを引っ張る栗林。「僕はコミュニケーション能力が高い方なので、チーム全員に積極的に話をしに行って、チームの輪を広げることを意識しています。競技で結果を残すことで、同期にも後輩にも良い刺激を与えたいと頑張っています」と、言葉に力を込める。その頼もしい視線から、自分の成長でチームを引っ張るという覚悟があふれていた。

第一人者・黒川和樹は「ライバルでもあり尊敬」

最終学年の今シーズン、栗林は「日本インカレ優勝」を大きな目標として掲げている。「好調を維持していることで、自信を持って練習に挑めています。あとは本格的に形をつくっていければ」と青写真を描く。「コンスタントに安定した記録を出していかなくてはならない」と課題も明確だ。「大会では、実力以外の運という要素も絡んできます。でも僕は、運ではなく実力で優勝したい。栗林なら優勝すると思っていたよと言われて勝ちたいです」と意気込んだ。

コンスタントに記録を出すことを課題に挙げる(本人提供)

倒したいライバルもいる。法政大学の黒川和樹(4年、田部)だ。「僕らの世代の第一人者でもあって、ライバルでもあり尊敬している一人。前半の圧倒的スピード、それを落とさないハードル技術は世界的に見てもトップレベル。考えられないくらい速い。勝たなくてはならない最強の相手です」と難敵を評し、次こそは勝つという思いを強くしていた。

栗林は、「何事も全力で楽しむ」をモットーにひた向きに陸上競技に取り組んでいる。「そもそも笑うのが好き。みんなでワイワイするのが好き。どんなにつらい時も楽しくいれば苦じゃないと思っています。だから陸上競技をする上で楽しむ姿勢は捨てたくありません。競技を一番心の底から楽しんでいるのは自分だと思います。この競技に取り組む姿勢こそ僕の強みだと思っています」

トレードマークの真っ白なヘアバンドをつけ、笑顔でレースに臨む(本人提供)

他方、ユーチューバーとしての一面も持つ栗林。大学2年生の夏から、自身の練習の様子や試合結果の振り返りなどを発信している。自身が撮影から編集まで行うチャンネル「栗日記」は、登録者数2000人超えと人気・知名度ともに上昇中だ。試合ではトレードマークでもある真っ白なヘアバンドをつけ、皆の視線を集める。「プレッシャーを与えられる方が力を発揮できるタイプです。極限で力が出せます。皆から見られているから頑張ろうって。あと、ヘアバンドをつけているとユーチューバーっぽくて良いなと思っています」と笑顔を見せた。

いざ、勝負の日本インカレへ。2カ月後、彼のはじける笑顔が見られることを心待ちにしている。

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