陸上・駅伝

特集:うちの大学、ここに注目 2023

立命館大・柳井綾音 競歩界の新星、駅伝と両立「どんな場面でも動揺しない」を強みに

鮮烈な印象を残す大学1年目となった柳井(撮影・立命スポーツ編集局)

持ち前の勝負強さを発揮して、ルーキーイヤーから競歩と駅伝で目覚ましい活躍を見せてきた柳井綾音(2年、北九州市立)。昨年8月のU20世界陸上競技選手権10000m競歩で銅メダルを獲得し、今年2月に行われた日本選手権は3位。翌月に開催された全日本競歩では、1時間30分58秒と日本歴代9位、学生歴代2位の好タイムで初優勝を飾り、競歩界の新星として鮮烈な1年目となった。駅伝でも1年生ながら全日本女子駅伝で2区、富士山女子駅伝で1区と主要区間を任された。

目標タイムと自己ベストを1分更新

大躍進の1年目。一番の目標だった「U20世界選手権での表彰台」を見事に達成したが、本人は「トップを取れなかったのが悔しいです。平均して速いペースを維持できる海外選手との実力差を痛感しました」と悔しさをにじませた。前半から海外の選手に果敢に挑み、積極的にレースを進めたが、ラストに粘り切れなかったと振り返る。

ここから「世界の舞台を経験したことが成長につながる」とさらに練習を重ねた。特に、基本的なストロークで長時間、長い距離を歩くことを意識したという。迎えた今年3月の「第47回全日本競歩能美大会」。日本勢の集団から1人飛び出ると、オープン参加の海外選手に食らいついた。レース終盤も粘り強さを見せ、結果は目標タイムと自己ベストをともに1分上回る好タイムで優勝を飾った。「タイトルを取れてうれしいです。不安もありましたが、練習でやってきたことが結果、形になって出ました」。1年目最後のレースで、確かな手ごたえをつかんだ。

世界の舞台で戦った経験を糧に、さらなる成長を誓う(本人提供)

「めちゃくちゃ楽しい!」と感じた都大路

彼女の陸上人生の原点は、小学校1年生までさかのぼる。幼い頃から柔道と水泳に取り組んでいたが、父に勧められて参加した陸上クラブで走る魅力にはまった。最大のきっかけは、小学校2年生の時。立命館大学が全日本大学女子駅伝で優勝した瞬間をテレビで観戦し、駅伝の存在を知ったことだ。「テレビで見た先輩方の姿が、キラキラしていてかっこよかったです。自分もこの舞台で、立命館のユニホームを着て走りたいと強く思いました」。当時の感動と憧れの気持ちを語ってくれた。

実際に駅伝を走った時のうれしさ、楽しさは格別だった。特に高校2年時の全国高校駅伝が印象的だったという。1区の先輩からトップで襷(たすき)を受け取り、先頭で都大路を駆け抜けた時「今めちゃくちゃ楽しい!」と喜びが爆発した。「その時の『ただ楽しい』という興奮が忘れられません。駅伝は、1人ではできない達成感を感じられる。みんなで一つの目標に向かって団結できる。そういった興奮、魅力にずっと取りつかれているんだと思います」

先輩たちが全日本大学女子駅伝を制したときの「かっこよさ」を忘れたことはない(撮影・立命スポーツ編集局)

朝練習はジョグ、午後練習は歩きに特化

競歩を本格的に始めたのは、高校3年生の時。一番のきっかけは高校時代の顧問から「走りを続けながら競歩もすることで、持久力や筋力がつく」と勧められたことだった。そこで素質が開花した。大学入学後も競歩を専門に取り組んだ。憧れの選手は高校の先輩でもある藤井菜々子(現・エディオン)。同時に負けたくない相手にも藤井を始め、U20世界選手権で敗れたメキシコ選手など、大舞台で戦った選手たちの名前を挙げた。その姿勢から世界と戦っていく覚悟や信念、夢への真っすぐな想いが垣間見えた。

競歩と駅伝の両立は簡単なことではない。メンタル面での違いはもちろん、練習メニューにも工夫が必要となる。大学入学後は、朝練習で長距離パートの選手とジョグをし、午後練習では歩きに特化したメニューをこなすことを基本にしている。駅伝シーズンになると走りに専念し、距離を踏んでいるという。

朝はジョグ、午後は歩きと中心に練習にも工夫を凝らす(撮影・立命スポーツ編集局)

「好きなことに没頭できるからこそ、充実」

柳井は自身の強みを「どんな場面でも動揺しないこと」と言う。視線は日本国内のみならず、世界の舞台を見据える。「2年後のパリ五輪、3年後の東京世界陸上、6年後のロサンゼルス五輪に出場し、入賞したい。ゆくゆくは日本記録を更新したいです」と意気込む。2年目の今年は「ワールドユニバーシティゲームズで金メダルを取ること、日本選手権でパリ五輪の標準記録を切り優勝すること」の二つを目標に掲げる。「ラスト5kmからの粘りを強化していきたい」と課題も明確だ。さらなる飛躍に期待がかかる。

駅伝では王座奪還に燃えている。「チームの優勝に貢献できるような走りがしたい」と幼い頃に憧れた先輩たちと同様、全日本大学女子駅伝、富士山女子駅伝で頂点を取るという目標がぶれることはない。ここ数年、頂点から遠ざかっている立命館に、ぜひとも優勝旗をもたらしてほしい。

勉学にも全力を注ぎ、一般的な学生よりもタフなスケジュールをこなしている。それでも「好きなことに没頭できるからこそ、充実した大学生活を送れています」と前向きだ。そんな彼女の原動力には、支えてくれる仲間の存在がある。陸上競技は大半が個人種目だが、立命館は結束力を大切にしているという。一緒に練習し、励まし合う仲間がいることが、大きな支えになっているようだ。

ワールドユニバーシティゲームズと日本選手権で結果を残したい(本人提供)

オフの日はカラオケやボウリングに出かけるなど、部員同士はとても仲が良い。練習環境の良さだけでなく、チームの雰囲気の良さが、彼女の好結果を後押ししているのかもしれない。

競歩も駅伝も全力で頂点を狙う。憧れの栄冠へ。世界の大舞台へ。これからどんな活躍を見せてくれるのだろうか。19歳の挑戦は始まったばかりだ。

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