大阪体育大・升田木花 無名校でも「自分はできる」 新人戦日本一で見せた確かな成長
第1回全日本大学バスケットボール新人戦 女子決勝
7月16日@国立代々木競技場第二体育館
大阪体育大学 64-63 筑波大学
7月16日に閉幕した「第1回全日本大学バスケットボール新人戦」(新人インカレ)女子決勝は、試合終了直前までもつれた末、大阪体育大学(関西1位)が土壇場で筑波大学(関東3位)を逆転して初代日本一に輝いた。最優秀選手(MVP)には、決勝の3ポイントシュートを決めた大体大の主将、PF升田木花(ますだ・このは、2年、八幡南)が選ばれた。高校までは全国と無縁だったが、「自分はもっとできる」と強豪に飛び込み、経験不足を乗り越えて栄冠を手にした。
「意外と冷静だった」土壇場での3ポイント
61-63で迎えた第4クオーター、残り時間5秒。右コーナーの升田にパスがわたった。騒然とする会場の雰囲気にも、本人は「意外と冷静だった」。
「いつでもスリーを打てるように、ずっと構えていました。いつもだったら緊張しちゃうと思うんですけど、今日はやることをやるだけだなって。(緊張で)上がる感覚はなかったです」
高校時代、ほとんど打つ機会がなかった3ポイントシュート。入学以来、コツコツと練習を重ね、持ち味の一つと言えるまでになっていた。
ディフェンスが迫るなか、「いつも通り」放ったボールは放物線を描いてネットに吸い込まれた。その瞬間、会場は大歓声に包まれた。升田はベンチに駆け寄り、チームメートと抱き合った。
前半は相手の高さと厳しいチェックに苦しみ、思うようにシュートを打てなかったが、「ベンチからも『打ち続けて』って言われたので、最後まで続けられた」
村上なおみ監督は試合後、「ここでバスケをやりたい、日本一になりたいと言って来てくれ、練習を重ねてきた。その結果が最後の逆転シュートになった。自信になったと思う」とたたえた。
転機は高2、強豪相手に芽生えた根拠のない自信
升田がバスケットボールを始めたのは小学4年の時。北九州市の選抜チームに選ばれたこともあった。「試合に出られるほどではなかった」。中学に上がる際、越境する選択肢もあったが、「当時は無理かな」と地元の中学に進んだ。
中学は地区大会止まり、高校では福岡県大会8強が最高と全国とは無縁だった。それでも、「心のなかでずっと、『自分はまだやれる』という思いがあった」。
転機は高校2年のウインターカップ県予選1回戦。強豪・精華女子を相手にひるむどころか、「このなかにいたら、自分はもっとできるって思えた。その時に本気でバスケをやろう、大学は絶対強いところに行こうって思った」。直感にも似た根拠のない自信は、その後の升田の大きな原動力になった。
全国と無縁、最初は「バスケ用語」もわからず
ハードなディフェンスから速攻につなげる愚直なプレースタイルにひかれて、大体大の門をたたいた。周りは強豪出身者ばかり。実力や経験の差は歴然だった。
高校ではセンターを任され、「『自分が自分が』で、攻めるのも自分しかいない感じだった」。大学に入った当初は、チームプレーに対する周りとの意識の差も痛感した。「最初は、みんなが使うバスケ用語もわからなかった」
升田はそこで食らいついた。「自分が選んだ以上、やり続けるしかないなって。同期もいるし、自分が落ち込んでもチームのプラスにならない。落ち込むのがもったいないって思った」
プレースタイルも一から考え直した。「大学に来て、この身長(171cm)ではなかで勝負するのは難しいと思った」。何を武器にするか。高校時代、ほとんど打つことがなかった3ポイントシュートとドライブに活路を求めた。
自主練習にも多くの時間を費やし、毎日、練習動画で自分と先輩たちのプレーを見て、頭と体でバスケの勘所や知識を吸収していった。
積み重ねが実を結び、今年からは3、4年生を含めたチームでも先発出場するようになった。そして、1、2年生で戦う今大会では主将を務めた。
村上監督は「すごい選手のなかでもやっていけるっていう前向きな姿勢があるし、そういう選手が相手でも、ディフェンスを含めて色んなことできるようになった」と升田の成長を評し、こう続けた。「バスケットボールができるようになった。高校では1人でやってたけど、私たちはチームで賢くやらないと戦えない。そのなかで、すごく賢くプレーできるようになったし、自分の良さを出せるようになった」
「やり続けたからこそ」の日本一とMVP
徹底した守りとリバウンドから流れをつかみ、速攻で勝負する。チームの持ち味を存分に発揮し、準々決勝で立教大学(関東5位)、準決勝で白鷗大学(関東2位)、決勝で筑波大と、関東勢を相次いで破って目標の日本一をかなえた。升田は言う。「自分たちが一番真剣に、一番一生懸命にバスケに取り組んできた。それが一人ひとりの自信につながって、ほかのチームよりも粘れたと思う」
最後には、MVP賞というご褒美までついてきた。
「周りと全然レベルが違うとか、いままでの差は埋められないのかなって思うこともあったけど、やり続けたからこそ、この舞台に来られた。いま、そう実感しています。全国で最優秀選手になるなんて思ってもいなかった。自分の力というよりも、チーム、仲間、先生たちのお陰です」と控えめに喜んだ。
秋にはリーグ戦、冬にはインカレが控える。「まだまだ経験が足りない。バスケIQを上げたい」と升田は言う。「バスケIQ」とは。その意味を問うと、言葉を探しながら、こう答えてくれた。
「自分のスタイルを貫きつつ、相手に応じてプレーできる。それがセンスのいい、バスケIQの高い選手だと思う。自分はまだ、ディフェンスの動きにすぐに対応できていない。相手がこう来てるから、自分はこう動くっていうところをもっと考え続けて、プレーの幅を増やしたい」
「自分はもっとできる」。あのとき抱いた根拠のない自信は、確かな成長を経て、いまも升田の糧となっている。