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特集:あの夏があったから2023~甲子園の記憶

立命館大・有馬伽久 愛工大名電の頃から帽子のつばに「俺、参上」 1年目から戦力に

1年目からリーグ戦で活躍している立命館大の有馬(高校時代の写真を除きすべて撮影・立命スポーツ編集局)

昨年の第104回全国高校野球選手権大会で、愛知・愛工大名電を41年ぶりのベスト8に導き、甲子園を沸かせた左腕が関西学生野球の舞台に立った。春季リーグ戦、ルーキーの有馬伽久は6試合に登板。大車輪の活躍でブルペンを支えた。多くの好投手を擁する立命館投手陣の中で、有馬の存在は輝きを放っていた。

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開幕戦で試合を締め、華々しいデビュー登板に

リーグデビュー戦は、開幕戦の近畿大学戦。九回無死一、二塁からの登板となった。初球、外角いっぱいに決まった直球は、146キロを計測。会場のマイネットスタジアム皇子山をどよめかせた。そのまま無失点に抑え、ゲームセット。開幕戦勝利を決める、華々しいデビュー登板となった。

着実に結果を残し、チームの優勝争いも佳境に入る中、第7節の関西学院大学戦では待望の初先発を果たした。「緊張はしなかった」と語るほどのマウンド度胸を武器に6回2失点。バックの守備に助けられながら、テンポの良い投球で試合を作り上げ、勝利に導いた。

迎えた同志社大学との「伝統の立同戦」。優勝のためには絶対に負けられない大一番で、有馬は先発のマウンドを託された。しかし、3回2失点。力投したが、同志社大の積極的な継投に対して打線が振るわず、敗戦投手に。目の前に迫った優勝を逃がすという、有馬にとっては忘れられない初めてのリーグ戦となった。

今春のリーグ戦では充実感も悔しさも、両方味わった

高校野球を終えた後も退寮せずに練習参加

有馬は小学1年生のとき、兄の影響で野球を始めた。中学では地元の奈良で県選抜に選ばれ、全国の舞台を経験した。練習試合の相手監督から愛工大名電の監督を紹介してもらった縁で、進学を決断。高校3年、最後の夏は、主将でエース。チームの大黒柱として大躍進へと導いた。

高校では下級生の頃から野手として出場し、上級生や名だたるOB選手を見て、成長していった。「主将でエースとして結果が出ない時に、どういう風にチームをまとめるのかが難しかった」。タレントぞろいの愛工大名電での苦悩はありながら、周りを見渡しながらチーム内でのコミュニケーションを取り、選手をまとめる力が身についたという。高校野球を終えた後も退寮せず、実戦練習を繰り返していた。「大学でいきなり入って遅れをとらないように」という当時の意識が、春のリーグ戦での結果につながっている。

愛工大名電時代は、チームを夏の甲子園ベスト8に導いた(撮影・田辺拓也)

有馬は自身のライバルに、同級生の芝本琳平(1年、社)の名前を挙げる。芝本は社を昨夏の甲子園初出場へと導いた好投手だ。今春のリーグ戦でも初登板を果たしている。有馬は芝本について「ライバルとして負けたくない」と闘志を燃やす。この同級生との切磋琢磨(せっさたくま)が、さらに自身の投球を成長させていった。

DeNA・東克樹から譲り受けた水色のグラブ

有馬の強みは「速い球をうまくコントロールする力」だ。そのスタイルは高校でも大学でも先輩にあたり、憧れでもある東克樹(現・横浜DeNAベイスターズ)の姿に重なる。東は立命館大時代に2度のノーヒットノーランを達成し、ドラフト1位でプロの道に進んだ。有馬は現在も東と親交があるそうで、リーグ戦で使用していた水色のグラブは、東から譲り受けたものだった。「初登板時につけようと決めていた」。また今季、東が登板するときの動画をチェックし、刺激を受けるようにしている。

リーグ戦が終わった後、有馬は1年生ながら関西学生野球連盟の代表として、関西5リーグ対抗戦(オールスター)のメンバーに選出された。「リーグの代表として投げているという感覚があった。やっぱり責任感というのは感じた」と有馬。なかなか登板機会がないまま、チームは決勝戦へ。有馬に託されたマウンドは、優勝がかかった最後のイニングだった。同志社大の捕手・辻井心(1年、京都国際)とバッテリーを組み、いつも通りの冷静な投球で試合を締めた。優勝が決まった瞬間、マウンドに集まるチームメートたちに少し困惑の表情を浮かべたが、優勝投手となり、試合後には満面の笑みが見られた。

「速い球をコントロールする力」を持ち味にしている

リーグ優勝と日本一へ、欠かせない存在に

有馬にとって、大学進学後のこの半年間は激動のものとなった。リーグ戦初登板、初先発、オールスター優勝投手としての経験。リーグ戦では勝ち星に恵まれなかったものの、着実に経験を重ねている。リーグ優勝と悲願の日本一に挑む、立命館大学硬式野球部に、有馬は欠かせない存在となっている。

高校時代から、帽子のつばには「俺、参上」という言葉を記している。「マウンドで見ると気持ちが上がる」。その言葉で奮起し、さらにチーム内で存在感を発揮してほしい。

そして今夏、愛工大名電は愛知大会での激闘の末、3年連続となる甲子園出場を果たした。昨年、自身も経験した様々な思いが交錯する甲子園。それは野球人生の宝物として、今につながっているはずだ。

ルーキーながら、早くもチームに欠かせない存在となっている

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