青森大・長井俊輔 高校時代に神奈川大会準優勝、主将が発する「神宮に行こう」の意味
昨シーズンは北東北大学野球リーグで春4位、秋5位と苦しんだ青森大学。再浮上を狙う新チームの主将を務めるのは長井俊輔(3年、横浜創学館)だ。三浦忠吉監督が「長井中心のチームにしたい」とビジョンを語るほどの強いリーダーシップの持ち主。中学、高校でも主将を経験し、高校3年時は屈指の激戦区、全国高校野球選手権神奈川大会でチームを準優勝に導いた。そんな長井が目指す主将像とは。
高校と大学で異なる主将の役割
三浦監督をはじめとする首脳陣は、次年度の新4年生が入学する段階から長井のリーダーシップを評価し、将来的には長井が主将になることを想定していた。
長井自身も「ゆくゆくはキャプテンをやるのかなと考えながら過ごしていた」。1年時から頭の片隅で将来の主将就任を思い描き、人一倍練習に励んで準備や片付けにも率先して取り組んだ。長井は「常日頃『こいつに言われたら仕方ない』と思われるくらい真面目にやってきたつもりです」と胸を張る。
高校では「嫌われ役」を担い、チームメートに厳しく接した。目に余る練習態度や怠慢なプレーを見逃さず、時にきつい言葉を用いながら叱咤(しった)した。ただ、大学で学年リーダーや新人戦の主将を務めると、高校と大学では主将に求められる役割が異なることに気付いた。
「高校の時は、自分が注意すると自分に対する反骨心を持ってやってくれる選手が多かった。大学は注意すると『もうやらない』となってしまう我が強い選手もいる印象を受けたので、今は口にはせずに自分が率先してやって、それを見て変わってもらおうと心がけています」
高校では一度も「甲子園に行こう」と口にしなかった
高校時代の神奈川大会準優勝は一般的に見れば「成功体験」と言えるだろう。またそういった成功体験を大学野球に生かそうとする選手は少なくない。しかし、長井は「良い経験になったとは思いますけど、野球をしていて高校の時のことを思い返すことはありません」ときっぱり。高校野球と大学野球を切り離して考えている。
そもそも、当時は反省点の方が多く残った。慶應、日大藤沢などの強豪校を破って13年ぶりに進んだ決勝の舞台。横浜に3-17で大敗し、甲子園への切符は逃した。「最初の1点目を取られた段階で差を感じてしまった。『早く終わらないかな』としんどかったですね」。近いようで遠かった甲子園。自身はソロ本塁打含む2打点を挙げる活躍ぶりだったが、主将として悔しさの方が勝った。
「とにかく1試合1試合、必死に戦って、気付いたら決勝という感じでした。『甲子園出場』といったもっと上の目標を掲げていれば、結果は変わっていたかもしれない。なんとなくベスト8を狙う雰囲気があって、それを達成して満足してしまう選手もいたのが、もったいなかったです」
高校では一度も「甲子園に行こう」と口にしたことがなかった。その反省を生かし、大学では普段の練習時から「神宮に行こう」と明確な目標を発するようにしている。
再浮上へ「単純なことを徹底できるチーム」を目指す
あるべき主将像の輪郭がはっきりしてきた一方、まだぼやけているものもある。昨年はチームが春秋を通じて大型連敗を喫し低迷。自身は主に代打での出場が続き「自分がどうにかしたい」と打席に立ったが、流れを変えるようなプレーはできなかった。
「どうにもできない自分の無力さが目立ったシーズンで悔しかった。先輩におんぶに抱っこの状態だったのが情けなく、『もし自分がキャプテンだったらどうすればいいか』も考えていたけど、分からなくなってしまいそうでした」
主将に就任した今も確固たる「答え」は出ていない。「上を見つつ、足元も見て、一貫性を持って一つひとつやっていくしかないかなと……」。ゆっくりと言葉を紡ぐ長井に「当たり前のことをコツコツとやるということですかね?」と尋ねると、「そうですね。それが当然だと思うんですけど、当たり前ができなかった瞬間が去年はあったので。難しいように言っていますが、単純なことを徹底できるチームにしたいです」と力強い言葉が返ってきた。
「引っ張る力」を発揮し、今度こそ全国へ
新チーム発足から間もないものの、昨年10月に開催された「大館トーナメント大会」で優勝するなど早くも手応えをつかみ始めている。三浦監督も「長井が試合も練習も全面的に引っ張ってくれていて、今までにない兆しが見えてきています」と目を細める。
また長井の高校時代からの同期で、昨年は春秋ともにベストナインに輝いた岡本翼(3年、横浜創学館)は長井について「高校の時と変わらず引っ張る力があって、自分もそこに助けられている。チームを任せられる人だと思う」と話す。打線の軸を担う岡本が「最終学年になるので自分はプレーで引っ張りたい」と自分のことに集中できるのは、チームをまとめる長井への絶対的な信頼があるからこそだ。
「青森に来た理由は、上(のカテゴリー)で野球をやりたいからではなく、全国に行きたいから」と長井。野球は大学で一区切りをつける予定だという。全国の舞台にたどり着き、今度こそ悔いなく学生野球を終えられるか。ユニホームを脱ぐその日に、最高の「答え」を出してみせる。