野球

仙台大・川瀬泰誠 プロ入り目指して”先輩ゼロ”の東北へ、受け継ぐ高身長右腕の系譜

「投手王国」仙台大で新たに頭角を現した川瀬泰誠(すべて撮影・川浪康太郎)

近年、大関友久(現・ソフトバンク)や宇田川優希(現・オリックス)ら好投手を次々と輩出している仙台大学。今秋のプロ野球ドラフト会議では身長191cmの長身右腕・相原雄太(4年、伊奈学園)がソフトバンクから育成8位指名を受けた。3年生以下も渡邉一生(3年、日本航空/BBCスカイホークス)、佐藤幻瑛(2年、柏木農)、大城海翔(1年、滋賀学園)らドラフト候補が各学年に在籍。そんな「投手王国」で新たに頭角を現したのが、身長190cm、体重96kgと宇田川、相原に似た体格を持つ右腕の川瀬泰誠(1年、星城)だ。

大学初の対外試合で残した衝撃、自己最速149キロ計測

11月4日の仙台六大学野球秋季新人戦準決勝。宮城教育大学戦の最終回、ここまで対外試合登板ゼロの大型右腕がベールを脱いだ。

川瀬は140キロ台中盤の直球を投げ込み、簡単に2アウトを取った。ギアを上げた3人目の打者に対する3球目で自己最速の149キロを計測。うなるような速球で空振りを奪うと、その後も147キロ、148キロをたたき出し、この打者には四球を与えたものの、後続を三球三振に仕留めて試合を締めた。

「1イニングと決められた中でとにかく全力で投げて、自分のパフォーマンスを発揮したかった。四球は出しましたが球速帯が上がっていて、高校からの成長を感じられました」。高校時代の最速は145キロ。140キロ台後半を連発するのは初めてだった。

対外試合初登板で、自己最速の149キロを計測した

高校3年の春に右ひじを故障した影響で、本格的に投球できるようになったのは今年の7月から。リハビリ期間中も体づくりに励んでいたとはいえ、「けがが治らなかったらどうしよう」と不安に思う時期もあった。新人戦以前の実戦登板は紅白戦の1試合のみだったが、シーズンの最後に公式戦のマウンドで「成長」を確かめた。

「嫌々」始めた野球にハマり、高校で投手転向

川瀬は名古屋市出身。元々はサッカーをやるつもりだったが、小学4年生の頃、2歳下の弟に付き添うかたちで「嫌々」野球を始めた。

ただ早い段階から結果を残すと野球を楽しめるようになり、豊田リトルシニアを経て地元の実力校・星城に進学。当初は外野手としてプレーし、コーチに強肩を評価されて2年時から投手に転向した。

初めて投球した際に130キロを計測し、「しっかり練習すれば140キロは出せる」と直感。地道にトレーニングを重ねて3年春には145キロまで到達した。中学卒業の時点で身長は180cmを超えており、投手転向後は長身が武器になった。川瀬は「中学生の3年間で20cmくらい伸びた。コロナ禍で外出できない時期があってたくさん寝たからですかね」とはにかむ。

とはいえ3年時は背番号11の3番手投手。公式戦登板は春の地区大会と県大会の数試合のみで、最後の夏はマウンドに上がる機会がないまま終えた。

コロナ禍だった中学時代に身長が約20cm伸びたという

「ここなら成長できる」と仙台へ

川瀬は星城から仙台大に進んだ初の選手だ。仙台大の小野寺和也コーチが愛知県内の別の高校を視察した際、その高校の指導者を介して知り、興味を持ったのが川瀬だった。「素材は面白いし、キャッチボールの投げ方も良い」と感じた小野寺コーチが動画を撮影してほかのスタッフにも共有し、その後練習会への参加が決まったという。

川瀬は「先輩がおらず、どういう大学か詳しく分かっていなかったので不安はあった」としながらも、実際の練習環境を目にして「ここなら成長できる」と進学を決断。1年目から早速、レベルの高いチームメートに刺激を受けながら実力を磨いた。

「フォームが良くなればおのずと球速も上がる」と考え、小柄ながら左で150キロ台を投げる渡邉一生の投球フォームを参考にした。同じ右腕の佐藤幻瑛にはトップの作り方を質問し、ルーキーイヤーから主戦級の活躍をしている同学年の大城にはマウンドでの心構えについて聞いた。

体格が近い宇田川や相原のことは「特別意識していない」というが、相原にはトレーニング方法について教わった。相原が「リーグ戦で投げ始めた頃の自分に似ている。ストレートの強さはすごいので、コントロールや変化球の課題をつぶしていってほしい」と期待を込めれば、川瀬は「高身長で150キロを投げる2人の先輩に追いつけるよう頑張る」と意気込む。

レベルの高いチームメートの存在が、大きな刺激になっている

元プロコーチが太鼓判「本気で頑張ればドラ1」

秋季新人戦から約1週間後、明治神宮野球大会を目前に控える富士大学とのオープン戦に救援登板し、1回3分の2を無失点と好投した。自身2度目の対外試合でドラフト指名選手を複数擁する強力打線と対戦。オリックス1位の麦谷祐介(4年、大崎中央)は安打、巨人育成1位の坂本達也(4年、博多工業)は四球を与えて出塁を許したものの、4番に座る広島4位の渡邉悠斗(4年、堀越)はピンチで投ゴロに抑えた。

「技量では劣っているけど、その中でどう抑えるか。こんな機会はなかなかないので、楽しみながら勝負しました」と目を輝かせた川瀬。目標は3年後のドラフト指名だ。歴代の投手陣を育ててきた元ロッテ投手の坪井俊樹コーチに「本気で頑張ればドラ1でいける」とお墨付きをもらい、俄然(がぜん)気合が入った。

渋々始めた野球だが、「今は野球のことしか考えていないです」ときっぱり。「制球力を上げつつ、安定して150キロ近くを投げられるようになりたい。どんな場面も任されるような投手になって、まずはリーグ戦で投げるのが目標」と2年目の飛躍を見据え、切り開いた道を突き進む。

この先の大学野球生活で、どのような成長曲線を描くのか

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