西山和弥 「鉄紺の逆襲」のキーマンに
東洋大は岐路に立たされている。「不甲斐ないレースをして申し訳ないです」。学生三大駅伝の初戦となる10月8日の出雲駅伝で、2区の区間6位。西山和弥(2年、東農大二)は力なく言った。先頭の青山学院大に6秒差の2位でたすきを受けたが、東海大の館澤亨次(りょうじ、3年、埼玉栄)に抜かれ、区間賞を獲得した青学大の鈴木塁人(たかと、3年、流通経大付柏)には、差を28秒広げられた。西山にとって2度目の駅伝シーズンは、ほろ苦い幕開けとなってしまった。
箱根区間賞のあとも、無類の強さと安定感
今年1月、箱根駅伝でのデビューはあまりにも鮮烈だった。西山は1年生ながら、箱根の命運を握る1区(21.3km)で起用された。終盤の六郷橋付近で先頭集団から飛び出すと、2位に14秒差をつけて、たすきを渡した。早大の大迫傑(すぐる、現ナイキ・オレゴンプロジェクト)以来となる1年生の1区区間賞を獲得するとともに、東洋大の往路優勝に貢献した。
区間賞のテレビインタビューでは、あこがれの大迫から声をかけられてタジタジになる初々しい一面を見せ、走っている途中に乃木坂46の大ファンであることを暴露された。ルーキーながら速いだけでなく、駅伝ファンの話題もさらった。
箱根で大きなインパクトを残した西山は新たなシーズンを前に、「去年とは違う立場を求められてます。周りの脅威となる走りがしたいです」と口にした。そして、すぐに有言実行してみせた。
初戦の日本選手権クロスカントリー大会では、実業団の選手に一歩も引かぬレースを展開。先頭集団を引っ張り、学生トップの3位でゴール。1学年先輩の今西駿介(小林)、渡邉奏太(吉原工)とともに「東洋強し」を印象づけた。さらに世界進出も果たした。アジアクロスカントリー選手権で2位、世界クロスカントリー選手権で12位と健闘。連戦をこなし、無尽蔵のスタミナを身につけた。
トラックシーズンに入っても勢いは衰えなかった。東洋のエース山本修二(4年、遊学館)が故障で離脱する中、同じく駅伝シーズンにブレークした相澤晃(3年、学法石川)と各大会で入賞ラッシュ。対校戦の関東インカレでは5000mで8位、10000mで4位と安定した走りを披露し、極めつけは日本選手権の10000m。学生の出場は東洋大のみと、実業団の選手がひしめく過酷なレースで4位入賞。これは快挙と言ってもいいだろう。
また、今シーズンの主要大会すべてで入賞という無類の強さと安定感を発揮。5000m(13分46秒59)、10000m(28分35秒72)ともに自己ベストを更新し、一躍学生長距離界のトップに肩を並べた。「学生からも注目を集めるレースをしてくれた」と、酒井俊幸監督はトラックシーズンまでの西山をたたえていた。
8月末には、東洋大として7年ぶりとなるオレゴン遠征へ。「自分の殻を破るきっかけの年に」と、酒井監督は思いきった行動に出た。練習の一環で「Hood To Coast」という317kmを12人でつなぐ駅伝のようなレースに出場。日本にくらべ劣悪な環境でのレースだったが、それがまたいっそう西山を強くした。「これ以上タフな大会はない、この経験を生かせたら」と、精神的にも糧とした。
この悔しさは全日本、箱根で晴らす
西山の走りの特徴は基本に忠実で、きれいなフォーム。「速い」、「強い」、そして「外さない」。大きく成長し、万全の状態で迎えたはずの出雲駅伝だったが、いつもの西山らしさが見受けられないレースとなった。6区間中で最短である2区の、わずか5.8kmの間で鈴木塁人に28秒も差を広げられた。2区でトップ青学と34秒差がつき、3区でトップに立つという当初のプランが崩れた。5、6区の連続区間賞で青学を12秒差まで追い上げたが、それまで。西山は自責の念から、レース後に涙を流した。
「この悔しさは全日本、箱根で晴らす」。西山のリベンジは、ここから始まる。まずは11月の全日本大学駅伝。昨年は若手主体のオーダーで挑み、総合5位だった。西山個人としては調子の上がらない中、当時最短距離の3区を3位でまとめた。しかし「去年と違う立場を求められる」と強い口調で言うように、チームの柱として目指すのは区間賞。今年はコース変更もあり、東洋優勝のカギを握る西山がどの区間に配置されるのか注目が集まる。
チームは黄金期再建の真っ最中。西山の入学からリスタートをきり、彼の成長とともに、かつての勢いを取り戻しつつある。思えば東洋の第一次黄金期は10年前、ルーキー柏原竜二の箱根5区区間賞から始まった。西山や同期の吉川洋次(ひろつぐ、2年、那須拓陽)をはじめ、柏原の走りにあこがれて東洋大を志した選手も少なくない。次は自らが黄金期をつくりだすとき。出雲での不調からはい上がり、「鉄紺の逆襲」のキーマンに。西山が東洋の新たな歴史をつくる。