陸上・駅伝

特集:第50回全日本大学駅伝

石井優樹 全国区に躍り出た関学エース

石井は日本学連選抜で伊勢路を駆ける

降りしきる雨の中、石井優樹は立ちつくした。6月10日、全日本大学駅伝関西地区選考競技会。関西学院大学の名が呼ばれたのは4番目だった。「チーム戦の難しさを感じました。最終組で覆すつもりだったんですけど……。もうちょっと自分に力があればと思いました」。全日本への出場権が得られる3位までの差は30秒余り。石井自身のタイムは全体の1位だったが、関学の3回生エースは、その30秒の責任も背負い込んだ。

努力が実った飛躍の一年

石井にとって、2018年は飛躍の年になった。6月の日本学生個人選手権男子5000mで関東勢に競り勝ち、初の全国タイトルを手にした。13分45秒65の優勝タイムは、自己ベストを一気に20秒以上も更新したものだった。

9月の全日本インカレでは5000m、10000mとも5位に入った。2種目での入賞(8位以内)は関学史上初の快挙だった。「去年の全日本インカレの10000mで8位に入って、自信がついたんです。今年は5月の関西インカレで2種目連覇できて、また自信になりました。そこからは自分の中で狙う順位のハードルを上げてやってきました。今年は収穫の多い試合が続いてます」。充実の笑顔が浮かぶ。

9月の全日本インカレでは、5000m、10000mともに5位となった(撮影: 松嵜未来)

大阪出身の石井は、2歳上の兄の影響で陸上競技を始めた。最初は短距離だったが、持久走のタイムがよくて長距離に転向。府立布施高では1500mでインターハイを経験した。駅伝では大エースとして、最長の1区を走った。関学にはスポーツ推薦で入学。強い関東勢に勝つためにコツコツと積み重ねてきた努力がいま、花開き始めている。

「勝って、応援してくれる方々に恩返し」

彼には貫く信念がある。自分自身が楽しみ、周りを楽しませるレースをすることだ。10000mは30分弱の勝負。競技者自身も応援する側も、それだけの時間を闘い続けなければならない。「楽しむことが一番。それで見てくれる人を楽しませて、勝つ。勝って応援してくれる方々に恩返しがしたいです」。応援が盛り上がったときには、レース終盤でも石井は笑顔になる。結果を意識しすぎて硬くなるのではなく、自分が楽しみ、人を楽しませる気持ちで練習してきたことこそが、石井の強さの秘訣(ひけつ)だ。

試合のたびに応援してくれる人がいる。「見てて元気が出る、と言ってもらえると、自分が走る意味があるなと感じます」。監督やコーチに対する感謝の思いも大きくなった。レース前にはマネジャーや応援席の仲間たちに「よろしくお願いします」と、声を掛けて回るようにしている。「競技を通じて人間的にも成長できたのが、うれしく感じますね」。自分を支えてくれる人の存在を、忘れることはない。

時間があるときには、音楽を聴きながら考えごとをすることが多いという石井。「いまの自分がどうなのか。何かにつまずきそうなときは、自問自答してます」。余裕がなくなったとき、心のもやもやを一つずつ紐解くことを意識的にやってみる。そんな作業を、自分が納得できるまで続けてきた。うまくいかないとき、苦しいときはその状況を受け入れた上で、常に前を向いてきた。

これまでに辛かった経験を尋ねると、「中学2年で結石ができたときかな? あれはほんまに痛かった。あれで辛抱強さは鍛えられましたね」と言って大笑いした。あっけらかんとした性格が、見る人を惹きつけるレースにつながっているのだろう。

自分自身が楽しみ、周りを楽しませるレースをする。石井はそれを信念としている

石井は全日本大学駅伝にオープン参加する日本学連選抜に入った。「関学として出られないのは、今年で一番悔しいこと」という思いは強いものの、伊勢路を心待ちにしてもいる。「選抜チームは一人ひとりの思いが詰まったチームになると思います。きっと2度とない特別な経験になると思います」

関学として出た昨年の全日本は、1区(14.6km)で25人中19位だった。「去年はボロボロやったんで、今年は自分らしく楽しんで走れるようにしたいです」。さらなる飛躍を誓う関学のエースが、伊勢路の沿道を盛り上げる。

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