中谷雄飛 早大ルーキー、苦しみ乗り越えて
「本当に苦しんでいたので、久々に、やっと自分らしい走りができたなと感じて、その気持ちが一番大きかったです」。中谷雄飛(なかや、1年、佐久長聖)は大学生になって初めて5000mを13分台で走ったあとに、こう話している。
恩師のアドバイスを心の支えに
9月29日の世田谷競技会。入学してから半年が経っていた。中谷は今年の日本人ルーキーで一番の実績を持っていると言っても過言ではない。昨夏の全国高校総体5000mでは日本人トップ。暮れの全国高校駅伝は1区(10km)で区間賞。とにかく高校3年のとき、同世代の日本人には一度も負けなかった。昨年出した5000m13分47秒22の自己記録は高校歴代5位だ。
早大入学とともに、さまざまなメディアに取り上げられた。そして中谷は春先、二つのU20世界選手権の選考レースに出場。いずれもトップでゴールし、代表に選出された。ルーキーイヤーを順調にすべり出したかと思われたが、その後が続かない。初めてエンジのユニフォームで出た5月の関東インカレは5000mで25位に沈み、7月のU20世界選手権では10位で、目標だった8位入賞には届かなかった。「自分自身どうしたらいいのか、かなり悩んでました」。負け癖がついてしまった、と受け止めていた。
鍛錬の夏、中谷は徹底的に自分を見つめ直した。母校・佐久長聖高の監督である高見澤勝氏に相談し、高校時代のトレーニングに立ち戻った。「高校ではずっとうまくいってたから、そういう時期もあるよ」。恩師のアドバイスを心の支えとし、ひたすら練習に励んだ。
そして、長い夏合宿を乗り越えて迎えた秋のレース。9月の全日本インカレは13位だったが、その後の世田谷競技会で輝きを取り戻した。外国人選手が引っ張る5000m最終組で走り、13分54秒39でゴール。思わずガッツポーズも出た。期待のルーキーが長いトンネルを抜けた瞬間だった。
一気に抜き去り、速いペースを刻む
きっかけをつかんだ中谷は強い。出雲駅伝ではエース区間の3区に抜てきされた。青学大の森田歩希(ほまれ、4年、竜ケ崎一)や東洋大の山本修二(4年、遊学館)といった学生トップレベルの選手たちが集まった。レースは青学がトップを走り、東洋や東海が追う展開に。早大は1区の半澤黎斗(1年、学法石川)が脱水症状で19位と出遅れた。中谷にたすきが渡ったのは16番目だった。
最初から突っ込んだ。最初の2kmで3人をかわす。その後も必死に前を追い、11位まで押し上げた。区間4位の力走で、森田には3秒差、山本には1秒差しかつけられなかった。強豪校から置いていかれた状況でも、中谷はしっかりと実力を発揮した。上々の大学駅伝デビュー戦となった。
中谷の強みは、自分自身で速いペースを刻めるところだろう。高校のころから、ほかの選手に引っ張られたレースはあまりない。中谷も「周りに合わせるのはあまり好きじゃない」と語っている。出雲駅伝でも、前の選手を抜くときは一気に抜き去った。単独走でも速いペースを刻めるのは、駅伝で大きな武器になる。
そんな中谷が11月4日の全日本大学駅伝に挑む。今年から大幅に区間距離が変更されるため、他大学も含めてエントリーが読みづらいが、中谷が重要区間を任されるのは間違いない。「選ばれたら、そこでしっかり走ろうと思います」。いずれ早大の命運を託されるであろう未来のエースが、初の伊勢路でも大暴れする。