慶大散る 友岡主将「全員よく頑張った」
大学女王をかけた大一番に敗れてから2週間。慶大は悔やむ間もなく、全日本選手権を迎えた。「ここで落ち込んではいられない。やれてもあと2試合なんだから」。主将のAT(アタッカー)友岡阿美(4年、慶應女子)は自らを奮い立たせた。残された希望である日本一へ向け、今シーズン初の挫折から立ち上がった。
重なったファウル
準決勝の相手は社会人クラブチーム1位のNeO。技術力や経験で大きく上回る相手を前に、友岡は「気持ちの勝負だと思ってました」と言う。大阪・ヤンマーフィールド長居にて、学生と社会人、それぞれのプライドをかけた戦いの火蓋は切られた。
先に動いたのは慶大だった。両者ターンオーバーを続けること5分、ボールを持ったAT西村沙和子(同、同)が一瞬空いたディフェンスの隙間にねじ込み、決めた。先制点の勢いで攻めたい慶大だったが、ファウルが重なり、NeOの攻撃が続く。チームの守護神、G(ゴーリー)の大沢かおり(同、学芸大付国際)が度々危機を救うも、10分に1on1(1対1)から抜かれ1失点。さらに直後、素早いパスワークに翻弄され、もう1失点。先制の喜びもつかの間、勝ち越しを許した。その後は両者決定打を欠き無得点。1-2で前半を終えた。
勝負の後半は開始直後にAT吉岡美波(同、大妻多摩)がフリーシュートを決め、試合を振り出しに戻した。これに火をつけられたNeO、手慣れたダウンボール処理とスムーズなパス回しでボールをキープし、続けざまに2ゴールで引き離した。この時点で試合は残り10分。慶大はタイムアウトをとり、いま一度ここからの逆転劇を確認し合った。そのタイム明け直後、チームメイトの望みをつないだのはMF石田百伽(同、同)だった。ゴール右サイドで友岡からパスを受け取った石田は、低い体勢からクロスを振り抜きシュート。ここ一番の得点にチームは沸き、誰もが慶大の勢いを感じた。このチャンスに攻め込む慶大。しかしあと1点が遠かった。残り1分、NeOがとどめのゴール。そのまま試合終了。日本一の夢半ばにして、昨年の覇者慶大が散った。
試合後、観客に向かって挨拶をする友岡の声はどこかうわずっていた。これまで勝っても負けても涙一つ見せず、主将として毅然とした態度を貫いてきたが、この日は頭を下げ、顔を伏せながら目頭を押さえた。果たせなかった全国制覇への思いがあふれ出た。のちのインタビューで友岡が口にしたのは「全員よく頑張った」との言葉。シンプルなコメントだが、チームへの最大の賛辞であった。
この試合をもって、友岡の代は引退となる。目指した日本一には届かなかったが、彼女たちが築き上げたものは後輩たちに受け継がれていく。長い冬を経て、来年こそは女王の座に返り咲く彼女たちを期待したい。