新ルールから見るラクロスの本質 パイオニア・山田幸代さん語る
日本ラクロス協会(JLA)は今年の1月1日、日本のラクロスのルールを国際ラクロス連盟(FIL)のものに合わせて改訂しました。2028年のロサンゼルスオリンピックに向け、ラクロスの五輪競技入りを目指す動きの中で、男女のルールを統一化するのが一つの狙いとなっています。最大の変更点は、男女ともに15分×4のクオーター制で、10人制になったことです(従来は、男子は20分×4&10人制、女子は25分×2&12人制)。
FILは2年周期でルール改定を検討しており、ラクロッサーの間では「ルール改定は当たり前」という認識もあるようです。そこで日本初のプロラクロッサーである山田幸代さん(36)に、今回の変更点や日本と世界のラクロスの違いなどをうかがいました。山田さんは日本とオーストラリアでプレーし、現在は西武文理大と早稲田大、台湾のナショナルチームを指導されています。
日本の女子は12対12から10対10に
――女子にとってはプレーヤーが12人から10人に減ることになります。実際に大学生を指導される中で、選手たちの意識やプレーにも変化が出ているのでしょうか?
山田:そうですね。でも私が代表でプレーしてたオーストラリアでは常に10対10でやってて、大学生に指導するときも自分の感覚がベースになってるので、学生たちにとってもそのルールの変化に大きな戸惑いはないんじゃないですかね。私としてはあるべき姿になっていくだけで、やること自体は変わりません。10対10ではあるんですけど、ベンチに入れる人数は20人のままです。フィールドの広さはそのままで人数だけが減るので、もっとどんどん交代していくことになります。12対12だったら14人ぐらいで回してるところが多かったと思うんですけど、10対10になってからは18人ぐらいで回すようになってます。逆に出場するチャンスは増えてると思うんです。
――学生たちに指導する中で何か変えたことはありますか?
山田:戦術は変えていきますけど、そこまで大きな変化はないですね。以前から交代をどんどんするかたちで学生たちにも指導してましたから。それが、私自身が10対10のルールでやる中で学んできたことなので。
――ラクロスを観戦する側から見て、試合の見どころは変わりますか?
山田:女子の場合は、いまよりもっと大きなパスが増えると思います。私なんかは常に、判断の速さ、ボールの速さと距離にポイントを置いて練習させてます。フィールドの広さは変わらずに両チームで4人減るので、スペースが大きくなります。大きなパスをうまく使っていけば、試合展開も変わってくると思いますね。もちろん、よりフィジカルが求められます。これまでより走れないと、ラクロスができないってことなりますね。
世界のラクロスを見てみると、女子の場合、アメリカの大学は12対12、プロリーグは10対10、オーストラリアは10対10です。男子でもカナダやアメリカにあるようなインドアのラクロスは6対6だったりと、国によって採用している人数はさまざまです。私はラクロスの醍醐味を味わえるのは10対10だと思ってます。いろんな人が出られて、スピーディーでかつ激しさがある。なのにすごくファッショナブル。それがラクロスの魅力だと思うんですよ。
ラクロスはまだまだ発展途上
――ルールを2年ごとに変えるというのは、昔から世界で決まっていたことなんでしょうか?
山田:世界のルール委員会では、頻繁にルール変更を議論してます。2年ほどで変更することが多く、また21年にも大きく変わる予定です。ラクロスはまだマイナースポーツなので、どんどん変化をつけていくというのはむしろ好んでやってます。ラクロスそのものの歴史は、アメリカではバスケットと同じぐらい古いんですけど、日本ではまだ30年程度です。それを考えると、2年ごとに考えるのはいいんじゃないかな。
――そう考えると、ラクロスが日本に入ってきたのはつい最近のことなんですね。それでも2年に一度ルールが変わるのは、ほかのスポーツと比べてやっぱり変化が大きいような気がします。
山田:まだまだ、かたちをつくる段階だからだと思います。でも、かたちになってないからこそ、私なんかは「なぜ? 」って思って調べるんですよ。かたちがちゃんとできてしまってると、「なぜ? 」って思わないじゃないですか。それがルールって言われたら「そうだな」ってなりますよね。でも調べて起源をたどれるのが面白いな、って。
たとえばショットでボールがゴールから外れてフィールドから出た場合、ラクロスだとそのボールに一番近い選手のチームのボールになります。私が大学生になって初めてラクロスをしたときは、すべてのフィールド外に出たボールが、一番近い人のボールになるというルールでした。私はそれまでバスケットをやってましたので、「パスミスしてもOKなの? 変なルールだな」って思ってましたね。
それで起源を調べてみたら、ラクロスはネイティブアメリカで格闘の儀式のようなところから始まって、最初は1000対1000でやるスポーツだったわけですよ。決められたフィールドなんてないから、ボールをどこまでも追いかける。その歴史があったから、ボールに対して一番頑張って追いかけた人にボールを与えましょうね、ってなったんだなって。ラクロスの歴史に興味をもって調べてたので、もともとのルールからこうやってよくなってるんだなって、私なんかは思ってます。
――その名残がいまのルールなんですね。私も最初、近い人のボールになるなんて違和感があるなって思っていたんですけど、いまの話を聞いて納得しました。
山田:まぁ、ラクロスって面白いですよね。もともと世界のラクロス協会は男女が別々だったんですけど、それが一緒になったのだって10年ちょっと前の話です。ワールドカップのような世界大会は、アメリカのルールに合わせてます。アメリカの競技人口は100万人ぐらいで、圧倒的に大多数だから。実はその次に多いのが日本なんですけど、3万人にも満たないんです。
台湾の女子ラクロスなんてまだ3年目で、私が初代監督です。女子学生の選手は、まだ30人しかいません。ラクロスを好きになってもらうためのコーチングが求められるので、いまはいろんな葛藤をしながらやってます。勝たせることがメインじゃないチームを指導するのは、やっぱり難しいですね。チームの中でも力に差があるので、上の子たちは勝ちたいと思いますけど、でも30人しかいないので、みんなで戦わないといけないし。0から1にするのはこれほど大変なんだなっていう思いもしますけど、私も楽しんでます。
日本を飛び出せ!!
――山田さんは07年にプロ宣言をされ、08年に強豪のオーストラリアのチームに移籍されました。世界に飛び出した山田さんから見て、海外と日本の選手の違いはどんなところでしょうか?
山田:まずフィジカルが全然違います。スピードも。あと、日本の選手は世界のラクロスを知らない子が多い。それが正しいと思ってやり続けるだけでは、伸びもそれ以上にならないですよね。それでも昔に比べて、情報をどんどん吸収しようとしている学生が増えてるのはいいことだと思います。
――世界の人たちから見て日本の選手はどんな印象なんでしょうか?
山田:器用と思われてるはずですよ。上手やな、って。でも私が世界に出て思ったのは、上から見られて、下の日本が頑張ってるから褒めるという感じ。自分たちがつくってきたラクロスだという自負が彼らにはあるので、レベル的に自分たちはディビジョン1、私たちアジア人はディビジョン2と思われてるのは、常に感じてました。もし同じぐらいのレベルになって彼らを本気の目にさせたら、一気に落としにくると思います。
――本気の目にさせるには何が足りないと思いますか?
山田:まずはレベルを上げることですね。私も指導者として、選手たちに世界を知る経験をたくさんさせないと、って思ってます。今年の11月16日には世界のトップ選手を千葉(浦安市陸上競技場)に呼んで「WORLDCROSSE」という国際試合をするんですけど 、日本の選手たちに世界のトップを見てほしいのと、違いを体験してほしいです。
山田:私は関西人で、関西でラクロスをし始めたんですけど、関西には昔も今も「打倒関東」の意識があります。でも私自身には「関東に勝ちたい」という思いがなかったんですね。なぜかというと私の京都産業大学は弱小チームで、関西の中でもぜんぜん勝てなかったからです。だから当時あった全国ユース(U-20)代表に選ばれたとき 、周りの人を見て「この人たちうまいな。こうなりたいな」という思いはあったんですけど、「この人たちに勝ちたい!! 」というのはあまりなかったんですよね。「その情報をうちのチームに持って帰ろう」みたいな思いしかなかった。「追いつくためには、この人たちのマネをしてちゃアカン」っていうのもありましたね。
実際に世界の選手のプレーを目の当たりにしたときは「やっぱり正しかったんや。この人たち、うまいわ」って思って、より世界を意識するようになりました。だから日本の選手たちには、もっと世界に目を向けてほしいです。