野球

立命館・山下貴史の出発点は「君じゃ厳しい」、それでも夢のマウンドに立って

山下は最後の秋で初めてベンチ入りし、第1節2回戦で初めてマウンドに立った(撮影・立命スポーツ編集局)

8月31日に開幕した関西学生野球も残すところあと1節となった。この第1節に特別な思いでマウンドに立った選手がいる。立命館大の山下貴史(4年、時習館)だ。京大との2回戦、6点をリードした最終回で登板し、きっちり無失点。危なげなく試合を締めくくり、8-2で勝ち点奪取に貢献した。

「この景色を見られてよかった。入部したときは見られると思ってなかったです。意外と緊張はしなかったんですけど、球はあんまりよくなかったですね」。そう口にした山下は、大学最後のリーグ戦となるこの秋に初めてベンチ入りを果たした。オープン戦で結果を残し、誰もが納得のメンバー入りだったが、入学したときには遥か彼方の夢物語にしか思えなかった。

入部前に突き付けられた厳しい現実

山下は愛知県トップクラスの進学校である時習館高校出身。1年生の秋からベンチ入りをするも、最上級生になってからの公式戦では1度も投げず、背番号8をつけた最後の夏もマウンドに上がることなく終えた。進学先としては当初、「広島カープが好きだから」という理由で広島大を志望していた。しかし高校時代は野球漬けの日々を送っていたため、吉報は届かず。浪人して再挑戦したが、翌年も不合格。結局、併願していた立命館大に進んだ。

3月末に立命館の練習に参加すると、周囲のレベルの高さに圧倒された。2学年上には東克樹(現DeNA)がいたほか、数多くの選手をプロや社会人に送り出している関西屈指の名門校だ。右投手なら140km台後半が当たり前だった。練習後、新入生は1対1で監督と面談をすることになっていた。そこで山下は厳しい現実を突きつけられた。

「君じゃ厳しいと思う。準硬式や軟式やったら活躍できると思うけど、1回生にはすでにピッチャーが10人いる。厳しいと思うけどどうする? 」

そんな言葉にもめげず決意を持って入部したが、実力の差は簡単には埋まらない。「高校までとは別の競技。スピードやレベルが違いすぎて、自分がやってたのは球遊びに思えた」と山下。春先にあったシートバッティングは実力アピールの絶好の機会だったが、ストライクが思うように入らなかった。入ったら入ったで打たれるの繰り返し。四球はノーカウントという条件で打者6人と対戦した結果、投げ終えるのに30分もかかってしまった。

小柄な体格だが、強気で負けず嫌いなハートを持つ(以下すべて撮影・小中翔太)

練習は補助ばかりで、1回生は4時起きの日々。それでも「お前がやりたいんやったら硬式野球やったらいい。なんなら広島行きたいんならもう1回浪人してもいい」とまで言ってくれた両親のためにも、夏までは続けようと心を奮い立たせた。次第に負けず嫌いの一面が顔を覗かせる。「野球を大学で終えるなら、メンバーに入れる入れないに関わらず、うまくなれるところまではうまくなろう。そのためにまずは体をつくろう」。そう考えながら、次の目標を新人戦登板に設定した。冬にコーチから「マネージャーにならないか? 」と打診されたが、断固として固辞。2回生の秋にはチャレンジリーグ(新人戦)で登板し、目標をクリアした。

3回生の春には肘を痛め投げられない期間が続いた。それでもグラム単位でサプリメントを摂取しながら、この時期に体重を5kg増やした。7月にAチームのオープン戦で登板機会をつかみ、紅白戦でも結果を残すと、以降のオープン戦や全京都トーナメントでも度々マウンドに上がった。1学年上に好投手が何人もいたため、リーグ戦でのメンバー入りは叶わなかったが、この時期に自身の投球スタイルの手応えをつかんだ。

ピッチトンネルを磨き、念願のベンチ入り

磨いたのは、途中までは同じような軌道からさまざまな球種を投げ分けるピッチトンネルと呼ばれる投球術。スリークォーター気味の左投げである山下にとって、右打者のインコースに投げ込むクロスファイアは大きな武器となり得るが、相手打者もそれは百も承知。山下の場合、球速がそれほどないため、狙われると打たれてしまう。もしここで逆に逃げていく球があればまず狙われない。チームメイトから変化球の投げ方を教わり、自分なりに改良。カットボール、シュートによる横の揺さぶりとカーブ、チェンジアップによる奥行きの幻惑で打者を翻弄した。

シュートの精度が高まった4回生夏のオープン戦では、失点どころか安打すら許さない投球を続け、前年以上の好結果を残した。そしてついにリーグ戦開幕前日の夜、マネージャーから送られてきた部のLINEで初のメンバー入りを知らされた。

「やった! っていうのとほっとしたという気持ちが強かったですね。結果は出るべくして出るもんやと思ってて、それをある程度、ここにいくためにはどうしたらいいかを分解して練習してきたので。立命館の投手メニューは自主練習なんですよ。全部自分で考えます。だから今月はこういう自分になるためにこういう練習をする、と1カ月単位で練習を組んだりしてます。そのために1日1日やることは決まってるんですけど、それをやっていったら自ずと結果は出るものだって。その蓄積を試行錯誤しながらやってきたから、ある程度は出るだろうと思ってたので、ほっとした、間違えてなかったと思いました」

第6節ではスタンドから仲間たちを応援していた

キャプテンで捕手の大本拓海(4年、掛川西)は「あいつは4年間コツコツやって、いまではベンチ入って投げても抑えられるピッチャーやと思ってますし、信頼してるピッチャーの一人です。4年間でコントロールがよくなったなぁっていう印象です。ベンチ入りも結果残してたんで妥当だと思いました。サプライズって感じはなかったです」と山下のがんばりをたたえた。近畿大との第6節ではベンチを外れていたが、前節まではブルペンで待機していた。もちろん、最後の最後まで諦めていない。

「報われてないのには絶対に理由がある」

昔の自分と同じような境遇で苦労している選手に向けてのメッセージを求めたところ、山下はしばらく考え込んだ。「人それぞれ。僕は恩返しとか、負けたくない気持ちとか、失敗してる自分が絶対イヤだとか思って頑張ってこられましたけど……」。そう話した後にさらに考え込み、「結果出したい人向けでいいですか? 」と前置きしてから言葉を続けた。

「頑張ったからって報われるとは限らんし、報われてないのには絶対に理由がある。だから根拠がもてるぐらい突き詰めてやってほしい。だいたい途中の人は根拠探しを曖昧にしたり、もうちょっとやればできるところで止めてしまったりする。でも絶対そこにチャンスはある。みんな同じ人間なんやから大抵のことは絶対にできるし、150km投げるのは難しいかもしれないですけど、どこに自分が必要か、真剣に考え抜いてやっていけば何でもできると思います」

卒業後は東京のITベンチャーに就職し、野球も続ける予定だ。「絶対まだうまくなれる。あと5年ぐらいやりたいと思ってます」。4年間の成長を糧に関東の草野球のマウンドでは笑顔で腕を振る。

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